生物技術者連絡会通信 2024年3月号

生物技術者連絡会通信 2024年3月号

 

<生物技術者が見た風景〜山野辺の道で>

 若いころは仕事の合間に山登りに出かけるのが日課だった筆者ですが、腰を痛めてしまったこともあって定年になってからは山に行くこともなくなりました。だけど自然の中に身をゆだねたい!…という欲求は耐え難く、各地の遊歩道や自然歩道、ハイキングコース等で気に入ったものがないかなと探して行ってみたりしています。今では季節を変えて何回も行く、お気に入りのコースが幾つかできました。その中の一つが奈良県にある「山野辺の道」です。東海自然歩道の一部でもあるこのコース、世間では歴史散歩コースとして有名ですが生物技術者の目から見てもなかなかいいコースです。天理市から桜井市まで、名前の通り山と平野との間を縫って伸びる約16kmくらいの距離で、筆者のような年寄りでも1日で歩きとおすことができます。特に筆者が気に入っているのはコース中に現れる植生が非常に多様であることです。石上神宮の社叢林や大神神社裏の三輪山は全くの原生林、天皇陵とされる二つの巨大古墳は4~5世紀から手つかずのほぼ原生林、古代から続く柿や柑橘類の畑地、寺院庭園、竹林、古墳や集落の環濠(池)、谷間の小河川、小規模な棚田、菜の花畑、緩斜面の遊休地(草地)等々…。植生が多様なせいか生息する生物も多いようで毎回行くたびに様々な姿や痕跡を見ることができます。今年の3月も行ってきましたので、生物技術者なら気に入りそうな風景を写真で幾つかご紹介しましょう。

 

 まずは歩いていると出会える景観をご覧ください。行燈山古墳(崇神天皇陵)の近くから渋谷向山古墳(景行天皇陵)方向を見た風景です。水田にカキとミカンの果樹林、草地に休憩施設とパッチ状になった環境の、起伏のある斜面をうねうねと道が続いていきます。なんだか懐かしい感じになるでしょ。

 

 ため池のほとりで見つけた足跡。アライグマの足跡ですね。奈良県には多いんでしょうか。

 

 道端に設けられたベンチに座って、ふと地面を見たらシカの足跡がありました。奈良県のこのあたりはシカが多いんだそうで、奈良ではシカが神の使いになってるからでしょうか。

 

 3月上旬のこの時期、道端の菜の花畑が満開になってました。遠くに見える山は神話で有名な二上山です。

 

 どうです。行きたくなりました?  今回は写真だけでしたが、この散歩道についてはそのうち、さらに詳しくご紹介しますね。

 

<有害動物の話⑦~ハクビシン

 ハクビシンは謎の多い動物です。日本国内では本種が属するジャコウネコ科の化石が出土せず、分布も西日本に多いものの目撃例が全国に点在していることから外来生物とされていますがいつ入ったのかは不明。体全体はほぼ灰色で顔の正中線が白いのが目立ちます。なので白鼻芯(ハクビシン)。

 上の写真は捕獲箱に捕まった幼獣です。で、生息数はあまり多くないのかなと思っていたら、2005年にSARSという感染症が話題になった際にハクビシンが全国にどのくらいいるのか詳しく調査してみたところ、東京23区を含む首都圏全域に普通に生息していたことが分かったのには皆びっくりしました。ハクビシンはほとんど声を出さないし、日本にはタヌキやキツネ、アナグマ等、大きさや色合いや行動様式が似た動物が複数いることが実態を長年把握できなかった理由なのでしょう。今では首都圏のあちこちで、建物の天井裏に入り込んで大騒ぎしたり糞を巻き散らかす、庭の果樹を食害するといった被害が頻発し立派な有害獣として認識されています。

 このハクビシン、図体がタヌキやテン並みに大きいのに動きはリス並みに軽やか。建物の垂直な外壁も平気で登れます。歩く際のバランス感覚も相当なもので、細い木の枝どころか電柱の間を通している電線を歩いて渡ることもできます。たぶん彼らが出没する街では夜になると電線伝いにあちこちを移動しているはずですが、家に帰るサラリーマンにはとんと気づかれないんでしょうね。被害にあう建物は彼らが天井裏に入れちゃうくらい大きな隙間があって天井裏の空間も広い寺社仏閣や、文化財的な建物を利用した美術館博物館といったところが多いようです。

 上の写真はとあるお寺で天井裏に侵入された事例を撮ったものです。軒先の羽目板が外れた箇所を侵入口として利用してますね。羽目板の周りと戸袋の横が黒く汚れているのが見えますが、構造的に角にあたる箇所を利用して地上から天井裏へ登って行っているのがよく分かります。それで一般の家屋なら天井裏の騒音や糞害が問題なんですが、寺社仏閣となると別の問題も発生します。彼らは垂直な壁も鋭い爪を使ってぐいぐい登っていきますので、建物が大事な文化財だった場合は重大な損壊被害になってしまうのです。下の写真のように。


 ハクビシンは多くの場合建物を休息場所もしくは一時的な避難場所として利用しているようで、通常は樹洞やタヌキなどの動物が使い古した巣穴などを繁殖場所にしています。他の中型哺乳類と比べると1年間の行動範囲は1km四方と狭く、その中に休息場所や避難場所を複数持っていてそれらを点々と移動しながら生活しているようです。侵入被害が起こった場合は、侵入されないように建物への侵入個所を特定して閉塞するのが一番です。侵入ルートは屋根から天井裏へ直接通じる箇所からの他に、まず床下に侵入して壁内の空間を通って天井裏に達するルートもありますのでご注意を。庭の果樹が荒らされる、農作物が食害されるといった場合の対策は捕獲箱を使って捕獲除去することになります。ネコと違って人工物への警戒心が強いので捕獲作業は長期に渡ることが多く、設置して数か月後、忘れた頃に捕獲されたという話をよく聞きます。 

 

<いきもの写真館No.158 ハジロカイツブリ

 金沢市から車で1時間弱ほど南に走ったところにある木場潟という湖で撮った1枚。最近では関東でもいろいろな湖沼でカンムリカイツブリを見る機会が多くなっていますが、こちらはまだまだ珍しい存在ですね。一見カンムリカイツブリに似てますが一回り小さく、首は短くて白い部分が少ないです。また、目の赤さがカンムリカイツブリよりも良く目立ちますね。この湖では関東では見ることが少なくなったオナガガモもたくさん見ることができます。湖畔に遊歩道があって一周で1時間ちょっと。運動不足を解消するトレーニングにはちょうどいいかな。

 

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生物技術者連絡会 研究部会 邑井良守 yoshimori.murai@gmail.com



生物技術者連絡会通信 2024年2月号

生物技術者連絡会通信 2024年2月号

 

<生物技術者が見た風景〜早春に里山を歩く>

 そろそろ野山の生きものたちに会いたくなってきたので、まだまだ冬枯れ状態の里山に行ってきました。普段住んでいる金沢市周辺は雪の中ですから行ったのは佐倉市にある畔田谷津です。2月下旬じゃあ鳥以外に生きものなんか見つかんないだろうと思ったあなた、いやいやこの時期になると森から耕作放棄地となった草原のあちこちにできた水たまりを目指して降りてくる奴がいるんですよ。畔田谷津ではボランティアの方々が小規模な湛水田を作っていて、そこが狙い目。水たまりの中を目を凝らして探していると…ありました!


 この水に浮かんでいるのが奴が来たシルシ、つまりニホンアカガエルの卵隗です。このカエル、天敵がいない2月の厳寒期に繁殖しにきて、産卵が終わったらまた森に帰って春まで寝てます。里山に棲む両生爬虫類の中では、年が変わって活動を始めるトップバッターなのですね。平野部にある畔田谷津にはニホンアカガエルしか棲んでいないようですが、山岳部に近い環境では同じように活動するヤマアカガエルという近縁種がいて、場所によっては両方棲んでいるところもあるようです。日中はまず姿を見ることができないうえに姿もそっくりなこの2種、水たまりに残す卵隗の形で見分けられるらしいんですが、さてどうでしょう。写真で比べてみましょうか。ヤマアカガエルの卵隗はこちら。


 ニホンアカガエルの卵隗は小さくキュッとまとまった形で、ヤマアカガエルはまとまっているけどだらしなく広がった形だということだそうですが。言われてみればそうかも。里山の水たまりにはアカガエル類が先手を切り、続いて1月と間を置かずヒキガエル類が続き、それから春以降はアマガエルやアオガエル類、ツチガエル、ダルマガエル等が堰を切ったように押し寄せてきます。カエル好きにはこれからがたまらない時期なんですよね。

 

<今月のデータ~カラスの生息状況を調査する④>

 今回は被害をどうやって防いでいくかという話になります。被害を防ぐ対策としては大きくカラスの数を減らす(捕獲減数)、カラスが来ないようにする(接近忌避)、カラスが棲めない環境を作る(環境整備)の三つの方法がありますが、いずれもメリットとデメリットがありますので基本的には三つの対策を組み合わせて計画を立案していきます。このときに必要になるのが調査で得られたデータで、カラスの種類やカラスが夜に寝る場所(ねぐら)、巣をかける場所、それに定点センサスにより推定できるカラスの日周行動パターンといったものです。最後の日周行動パターンを渥美半島の調査で推定した図をご紹介しましょう。


 この日周行動パターンを知るということは対策する上で結構重要です。例えば捕獲減数を試みるなら、捕獲箱を置く場所は彼らが毎日餌場として利用している場所に置かなくてはなりません。また、被害を起こしている群が近くにねぐらをとっている群と同一なら捕獲減数の効果が見込めますが、遠方からやってくる群であった場合は効果が見込めないかもしれません。今までの筆者の経験からいうとカラスの鳥害対策は上記の三つの対策のうち環境整備がもっとも重要で、緊急を要す対策であれば捕獲減数も必要、接近忌避は限られた場面でのみ実施を考慮する、という感じではないかと考えています。環境整備というのは、つまりは餌資源の除去ということで12月号の②で東京都の事例を紹介してます。ここからは捕獲減数の主要な手段である捕獲箱についてご紹介しましょう。実際に設置された場所の写真と寸法が入った図面をご覧ください。


 この捕獲箱、オーストラリアで開発されたものでオーストラリアン・クロウトラップと呼ばれることもあります。残念ながら市販品はありません。DIYに凝っている方なら自作できるかと思いますが、通常は大工さんに制作を依頼しています。写真には箱の中に2羽カラスが見えますが、実はこれは囮(おとり)として設置時に入れておいた個体です。囮を入れておかないと捕獲成績が悪いことが知られています。通常は1週間に1回、点検作業で捕獲個体を回収し、同時に箱の内部を消毒清掃します。箱にかかっている書類のような紙は有害鳥獣駆除申請の許可証で、設置期間と捕獲予定羽数、設置者名と連絡先等が書かれています。カラスとはいえ自治体に駆除申請を出して許可を得ないと捕獲や除去はできませんからね。念のため。最後に、巣の撤去作業についてデータのみご紹介してこのシリーズを終わりにしましょう。東京都である年の5月9日から6月13日までの期間でどのくらい巣と卵・ヒナを除去したかというデータです。

 

           カラス営巣除去作業実績

 

         作業出動件数     515件

         巣除去個数      473個

         卵・ヒナ除去数  1202個・頭

 

 もしこのような作業をやってみたいという方がいればご注意を一つ。カラスも巣を守ろうと必死ですから、作業時に見舞われる攻撃にはそれはそれは忍耐が必要です。高所での作業でもありますし相当危険な作業であることをお忘れなく。

 

<いきもの写真館No.157 ノスリ


 川沿いに散歩していたところ河川敷の雑木にとまっているのに気づき、撮ってみました。飛んだところも1枚。とまっているだけではトビと見分けがつきませんが、飛んだら下面が白っぽくて翼の黒い部分が目立つのでノスリと分かります。冬になると山から降りてきて田畑の際や河川敷にある冬枯れの雑木にとまっている個体を平野部のあちこちで見るんですが、なにしろ色彩がトビと変わらないのでトビだと勘違いしている人がきっと多いんだろうなと思います。ネズミが大好きで草が生えていない冬の畑地の上空スレスレを飛びながら餌を探す姿が「馬糞でも食ってるのか」と思わせることと、そこらじゅうに転がっている馬糞くらいたくさんみられることからマグソタカと呼ぶところもありますね。

 

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生物技術者連絡会通信 2023年11月号

生物技術者連絡会通信 2023年11月号

 

<生物技術者が見た風景〜冬鳥がやってきた>

 冬になると金沢市の三分の二を占める山岳部にはたくさんの雪が積もり、夏には賑やかだった鳥たちはすっかりいなくなります。対して平野部の湖沼や海岸には水鳥がたくさんやって来て、森には南に渡り去る途中の渡り鳥たちが見られるようになります。そんなわけで、今年もさっそく彼らを探しに出かけてみました。まずは街の郊外に広がる広大な水田を海側に沿って走ってみます。どの道からも100m以上は離れることができるくらいの広大な水田の中ならハクチョウたちが安心して休息できるんですが…ああ、いました。

 いるのはだいたいコハクチョウのようですね。水田の中でも冬でも水が溜まっている場所を選んで集まっているようです。続いて、金沢市の北部にある「河北潟野鳥観察舎」というところに行ってみましょう。河北潟日本海に面して存在する大きな汽水湖でしたが干拓工事によって多くの面積が農地となり、残存した湖面は淡水化されました。その残存湖面に面して施設が設けられています。さて、どうでしょう…水鳥たち、来てますねー。

 マガモコガモハシビロガモが多く、あとはオナガガモヨシガモトモエガモといったところでしょうか。例年なら千羽を軽く超える水鳥がやって来ますので数的にはまだまだのような気がします。これからどんどん増えていくんでしょうね、きっと。

 

<今月のデータ~カラスの生息状況を調査する①>

ハシブトガラスの巣です

 

 冬になるとカラスの群れが大きくなり、日没時には数百から数千羽がかたまって上空を飛んでいくのがよく話題になります。日本では1980年代、バブル景気のころから増えたカラスが目立つようになり、2000年代に入るころには大都会で生ゴミを漁ったり通行人を襲ったりする被害やたくさん集まって不気味という苦情が問題となりました。そして一体どのくらいのカラスがいるのか、なぜ増えたのか、減らすにはどうしたら良いかを知ることが迫られたのです。私がいた会社でもこの時期にそのような要請が増え、様々な調査を行い対策を検討して実際に駆除対策を実行、効果があったかの検討を行ってきました。今、首都圏ではそのような被害も落ち着いたように見えますが、近年では大都会ではなく大都市圏の郊外、地方都市で被害が顕在化しつつあります。つまりカラス被害の「ドーナツ化現象」が起こっているのですね。これからは大都市郊外や地方都市での対策策定と実践が求められていくような気がしますので、今まで培ってきた調査技術やそれで知りえた知見について、このコラムで複数回に渡りご紹介していきます。まずは東京都が2001年から5~6年に渡って実施した大がかりな防除対策事例について紹介しましょう。

 東京都、特に都区内では1990年代の後半から増えたカラスが目立つようになり、明治神宮新宿御苑、上野の森といった都区内にある大規模緑地に冬場になると大群が集まってくることが問題となりました。そこでその原因を探るべくいろいろと調査した結果、次のようなことがわかりました。

 

※問題を起こしているカラスはもともとは森林に生息していたハシブトガラスである。

※町でも普通に見られるハシブトガラスハシボソガラスは営巣期を過ぎると冬に向かって小群から中群、さらに大群へと徐々に集合し、最終的には数千から数万に及ぶ大群を形成して冬ねぐらで越冬する。

※カラスが冬ねぐらとして利用する緑地は常緑樹林で、夜間には人通りがない比較的大規模な森である。都区内では明治神宮の他7〜8か所を確認。

※冬ねぐらのカラスは早朝に採餌のため採餌場(繁華街のゴミ集積場、東京湾のゴミ埋立地、卸売市場など)へ移動、日中は芝地や海岸などで休息した後、日没時にねぐらへ戻る。

 

 この結果を受けて、当時の石原都知事は大規模な予算を投入して2001年よりカラス対策事業を開始したのでした。当時は「カラス退治に大金を投じるのか」とさんざんに言われてましたね。その事業内容の詳細については次回お話しするとして、ここではその結果がどうなったかをデータで示してみましょう。

 グラフで示した数値は冬ねぐらとして確認された緑地の周りに複数の調査員を配置、日没時にねぐら入りする個体を全方向から数えて集計し、生息数としているものです。平成13年(図ではH13と表記,2001年)以降は唐沢孝一先生主宰の都市鳥研究会によりカウントされた数値で東京都環境局のHPにあるデータですが、ここではそれ以前の異なる調査方法でのデータも加えています。ちなみに、私も平成17年(2005年)にこの調査員として加わったことがあります。平成13年(2001年)の事業開始年には約36000羽だった生息数が平成17年(2005年)には約18000羽に半減、最新の令和4年(2023年)では約8700羽と、4分の1に減ってますね。「昔は多かったのに少なくなったね」という印象はこれで裏付けされているんじゃないでしょうか。

 ということで今回はここまで。冬場は生き物がらみのネタが少なくなりますので、来年の2月まではこのコラムを続けますね。  

 

<いきもの写真館No.154 チュウヒ>

 先日、金沢から一時間ほど車を走らせたところにある「片野鴨池」に行ってきました。石川県内では冬鳥が集まることで有名な場所で、ラムサール条約の指定地にもなっています。午前遅くに行ったのでねぐらをとっていた多くの冬鳥はエサ取りに出かけて見られる鳥の数はそれほど多くなかったのですが、それでも数百羽のガンカモがいました。ここではマガンやヒシクイをたくさん見ることができます。ミサゴやオジロワシといった大型の猛禽もやってきますので、いないかなあと一時間ほども見ていたところ繰り返し姿を見せてくれたのがこのチュウヒです。広大なヨシ原の上で低く飛ぶ姿を見ることが多い鳥ですが、ここでは狭い池の上を淵沿いに低く飛んでいます。おかげで飛んでいる姿をバッチリ撮ることができました。雄だったらもっと綺麗だったんですけどね。レンジャーさんが言うには、今年の冬はこの池に3個体がやってきてるんだそうです。

 

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生物技術者連絡会通信 2023年10月号

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<生物技術者が見た風景〜土の中の奇妙なダニたち

 昔のことですが、環境影響評価(環境アセスメント)の動物調査業務に携わっていた時、東京都の環境影響評価技術指針に示された調査事項に「クモ類及び土壌動物」というのがあったので、それに対応した土壌動物調査を実施したことがあります。その方法というのはこうです。

①任意に設定した5地点の地表面において、直径51mmの円筒形の打ち抜き缶で地表より60mmくらいまでの土壌を採取、約100ccの土壌を各地点から2ヶ 所づつ、合計10ヶ所採取。

②現地調査で採取した土壌を事務所に持ち帰り、直ちにTullgren 装置にて分離抽出を 行い、得られた個体を同定。 Tullgren 装置による分離抽出時間は68時間。

 Tullgren 装置というのは持ち帰った土壌の上から白熱電球を照らし、熱と乾燥から逃げ出す土壌動物を下に置いた水盤に落とす装置です。さて、この調査の結果、現地で採取した土壌からはクモ綱、ヤスデ綱、ムカデ綱及び昆虫綱に属する節足動物類が多数検出され、特にダニ目では確定されたもので26科のダニ類を検出しています。この土壌中に生息するダニ類というグループの中には実に奇妙な格好をしたものがいて、初めて見たときはとてもびっくりしました。どのくらい奇妙なのか、まあ写真を2枚見てもらいましょう。

 1枚目のダニはササラダニ亜目というグループに属するフリソデダニです。体の両側から耳みたいなものが出てますが、これを「振り袖」に見立ててフリソデダニ。このグループには他にも、体を殻の中に丸め込んでしまうカタツムリみたいなイレコダニ、細長くてイカみたいな形をしたイカダニなんてのもいます。2枚目のダニはどのグループに属するか不明ですが、頭の先からクワガタムシみたいな角(実は角ではなく顎体部という器官)が出てますから、これはたぶん捕食性のダニ類ですね。

 基本的にダニ類は森の中のような腐葉土がある土壌中に多く生息していますが、腐葉土が厚ければ厚いほど種類も数も多くなる傾向があります。土の中で有機物を分解するものやそれらを捕食するもの等の様々な種類がダニ相として生態系の一角を担っているわけです。偉い先生が「土の中の妖精」と表現したのもうなずけますね。

 

<有害動物の話⑥~秋のカメムシテントウムシ

 日本でも東北や北海道、あるいは高原や亜高山帯といった冷涼な環境にお住まいの方の家屋では、秋も深まってくると窓のサッシや戸袋、室外機の中といった外壁にある隙間にカメムシテントウムシ、バッタ類等がいっぱい集まってくる現象が毎年発生します。テントウムシならいいんですがカメムシは嫌な臭いを出しますので、干してあった洗濯物に臭いがつくとか洗濯物が虫で汚されるとかいった苦情が行政に殺到、消毒屋が出動するといった事態も起こります。これは寒い冬を越冬するために雪風を防げる隙間に集まって来るからで、人の家だと暖かさもありますから虫にとっては最高の越冬場所なんですね。どれくらい集まるかというとこんな感じ。

富山科学博物館HP「とやまサイエンストピックス」より転載

 

 高原にあるログハウス別荘なんか一番ねらわれやすいですが、実際に起こってしまうと駆除はとっても難しい。殺虫剤を撒いても外壁の丸太にできた隙間の奥の奥まで入り込んでいますので必ず生き残ってしまう虫がいて、それらはさらに隙間をたどって室内に出現、かえって被害が深刻化するなんてこともあります。この現象は一度起こるとたいてい毎年続けて起こりますから、年に1回奴らが集まってくる前の秋口に外壁の隙間という隙間に忌避性の高い殺虫剤を塗布しておくのが一番良いでしょう。地方によっては敷地内の木の幹に莚(むしろ)を巻きつけておき、筵の中に入り込んだ虫を莚ごと焼き捨てるといった対策をとっているところもあります。ちなみに、どの地方でも集まってくる虫はカメムシならマルカメムシテントウムシならナミテントウが数的に一番多いようです。

 

<いきもの写真館No.153 マルカメムシ

 晩秋になると家屋に押し寄せて問題となる虫の中で、日本中どこへいっても個体数が多いカメムシがこのマルカメムシです。ちょっと目には莢からこぼれた豆?いや、葉っぱの表面にできた虫こぶ?のように見えてとても虫には見えないんですが、よく見ると頭と脚が確認できます。空地や道路法面にいっぱい生えてるクズの葉をひょいと裏返してみると、かなりの確率でこの虫に出会えます。カメムシなので捕まえると臭い液体が手について、こいつが洗ってもなかなか臭いが落ちません。晩秋になるとこいつらが大挙して家屋に押し寄せ、干していた洗濯物にいっぱい付着するってんですから、そりゃ嫌われますね。でも、飛ぶときに鞘ばねの下から広がって出てくる飛翔翅は何だか楽器のハープにも似たエレガントな形をしていて、私は結構好きです。

 

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生物技術者連絡会通信 2023年8月

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<生物技術者のための名所案内〜中池見 人と自然のふれあいの里

 来年の3月に北陸新幹線敦賀まで延伸します。これで東京から3時間20分ほど、1本で敦賀まで行けるようになったわけです。と、しかし敦賀って何があるの? 有名な観光地があるわけでなし、駅があっても乗り換える客ばっかりになるんじゃないか…という声が金沢にいてもよく聞こえてきます。確かに一般の観光地としてはぱっとしない街ですが、こと生物技術者の皆様にとっては中池見湿地という個人的にとってもお勧めしたい場所があります。前にも一度紹介しましたが、新幹線開通記念ということで、もう一度ご紹介しましょう。

 中池見湿地はラムサール条約に登録されている約25haの湿地で、国定公園内に指定され中池見 人と自然のふれあいの里」という名前で保護管理されています。私がこの場所を推したい一番の理由は駅から歩いていけることです。それも駅から2キロ足らずなので歩いても30分弱。北海道以外でここほど気軽に行ける自然湿地は他に無いんじゃないでしょうか。駅からの道順をGoogle 地図で示すとこんな感じ。

 駅から30分弱、田んぼの中を歩いていくと山際に湿地保護地区の入口が見えてきます。坂道を上がるとトイレがあって、その横にあるのが湿地への登り口です。


 
 写真には案内板も見えますね。拡大するとこんな感じ。

https://www.city.tsuruga.lg.jp/about_city/cityhall-facility/shiyakusho_shisetsu/gaibushisetsu/nakaikemi.files/0003_20230626.pdf

 さあ登りましょう! 湿地までは15分ほどですが約200段の階段を登っていきます。65歳の年寄りにはちょっとキツイ…。階段を登りきると視界が広がり、やがて湿地の南端に到着!

 写真の右端に見えるのはビジターセンターです。写真の左手には展望台がありますので登ってみましょう。

 左下に見える建物は古い農家を移築したものです。この場所にはかつて水田と集落があったので、その原風景を再現したそうで。かつて田んぼだった湿地の山際に沿って遊歩道が通ってます。左回りで歩いてみましょう。

10分ほど歩くと大きな池が見えてきます。

 実はこの中池見湿地、トンボの生息地として有名です。それも観察できる種類数が全国でも指折りに多く、1995年の福井県立博物館報告では約50種、2014年の日本自然保護協会による調査では72種のトンボが見つかっています。私は8月中旬に中池見を訪れた際に、ものすごい数のチョウトンボが池を飛び回っていた光景を見たことがあります。ちなみに、関東首都圏で指折りの生息地といわれる千葉県の乾草沼でも観察されるトンボは30種くらいです。なので、今度開通する北陸新幹線のトンネルが中池見の下を通る計画が明らかになった際には保護運動が大盛りあがりとなり、現在見られるようにルートが少しそれたという経緯があります。日本自然保護協会によると、ここはトンボだけでなくノジコの渡り中継地でもあるそうです。

 この中池見、トンボの他に春には花や鳥、夏にはカエル等の動物を愛でながら1年を通じて気軽に散歩が楽しめます。個人的には遊歩道の道端にある1本のハゼノキの大木が好きです。かつて集落があったときに蝋燭作りに利用していたそうで、想像して妙に感動してしまいました。湿地を巡る遊歩道はゆっくり歩いても1時間強で一周できます。

   

<有害動物の話④~羽アリ>

 真夏になると流石に虫たちも暑いのか、活発に活動する光景を見ることが少なくなります。サマースランプというやつですね。そんな中でも夏の風物詩よろしく、特に夜になると明かりにたくさん集まってくる虫が羽アリです。その数たるや場合によっては壁が真っ黒になるほどの数で押し寄せるものですから、いくら刺したり咬んだりしないといっても不快感は満点、あちこちで苦情が発生します。その典型的なやつがコンビニストアでの苦情ですね。24時間営業なので真夜中になると店舗の明かりが虫たちにとっては目立つこと目立つこと。壁がほぼ全面ガラス張りのこともあって店の周りが羽アリで埋まっちゃうほどの被害が生じます。この時期になると、自動ドアの出入口脇に大型の扇風機を置いて、集まる羽アリが店の中に入らないよう吹き飛ばしている光景があちこちで見られます。

 7月から8月にかけて大発生する羽アリのほとんどはトビイロケアリの羽アリです。トビイロケアリは全国に分布する最も普通に見られるアリで、朽木の中や立木の洞等に巣を作ります。羽化時期には数十万もの羽アリが巣から飛び出すといわれています。羽アリといってもその種類は様々で、実は種類によって出現する時期が違います。多くの種類は夏に出現しますが、早いものでは5月に出現する種類もいますし、寒くなった10〜11月に出現する変わり者もいます。主な種類の出現時期を表にまとめてみました。

 

 様々な種類の羽アリがいることが分かりますが、苦情が出るほどの大量発生を見るのはたいてい春のクロオオアリと夏のトビイロケアリです。この2種は飛び出す数も多いですが、真っ黒で比較的大きなアリなのでとても目立つんですよね。たくさんの数が飛び出すもののその時期は数日程度であっという間に被害は収まり、あとには大量の死骸だけが残ります。

 

<いきもの写真館No.151 キツネノカミソリ


 佐倉にある自宅近く、畦田谷津を早朝に散歩していたら見つけました。ツツジやバラなんかとは違った落ち着いた赤色というんでしょうか、何だか慎み深いようなこの色がいいですね~。夏の終わりのこの時期ではとても目立つ花です。最近、佐倉市がこの畦田谷津周辺を「佐倉里山自然公園」と称することにしたとのことですが、公園らしい施設設備はほぼ皆無。訪れる人も少ない場所です。個人的にはこのままの方がいいんですけどね。

 

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生物技術者連絡会通信 2023年7月号

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生物技術者が見た風景 〜 海に落ちる滝とコオニユリ

 能登半島には綺麗な海岸線や揚げ浜塩田、白米千枚田などの観光地が多々ありますが、個人的には海岸線を巡る遊歩道を歩きながら道端に咲く花々を愛でる方が好きです。特に夏になると海岸の岩場にコオニユリがたくさん咲く場所があちこちにあって、奇岩風景とのマッチングが素敵です。その中でも私は、白米千枚田から海岸沿いに15分ほど半島の突端に向かって車で走ったところにある垂水の滝がビジュアル的に最高と思いますのでちょっと紹介しましょう。滝の全景を引いて撮影すればこんな感じ。

 能登半島の先端近くは岩山が海に急に落ち込んだ地形となっていて、ここでは落差が35mほどの滝の水が直接海に流れ落ちています。滝の下側に黄色い花が咲いているのが見えますが、あれがコオニユリ。遠目では確認できませんが近づいてみると岩場のあちこちにたくさん咲いてます。滝を背景に撮ってみたらなかなかいい感じです。

 直接海に流れ落ちる滝なんてそう見ることはないですよね。なんだか昔行った知床半島で見たカムイワッカ滝の風景を思い出してしまいました。このコオニユリと同時にピンクのカワラナデシコも盛りでしたね。例年通りなら7月末から8月初めにかけてが見ごろです。

   

<有害動物の話③~外来種に変わりゆくキクイムシ

 家屋の建材を食害する害虫というとまずはシロアリが頭に浮かびます。しかし、一般家屋ではなく集合住宅での被害となるとキクイムシ類も重要な害虫です。コガネムシキクイムシ科に属する虫で家屋に被害を与える種類が7〜8種ほど知られていますが、被害の事例が多く加害される木材の種類も多いのは下の写真のヒラタキクイムシです。

 この虫はタケやナラ、キリ、ケヤキ等、建材や家具に使われる多くの木材を食害し、近年では輸入材のラワンが特によく食害されます。飛んできた成虫に産み付けられた卵から孵化した幼虫は強い顎を使って木材の表面に穴を開け、長い円筒形の体で木材の中に潜り込んでいきます。そして穴の奥で成長して蛹化、やがて春になると羽化した成虫が穴から脱出してきます。脱出しやすいように、成虫の体は細長い円筒形になってます。食害された穴は直径1mmほどの真ん丸で、一見釘穴かな?と思いますが穴の周りや真下に細かい木の粉が落ちていますので食害だとわかります。

 このヒラタキクイムシは古い木材にはつきませんので新築して間もない家屋で被害が発生し、成虫が現れる被害発生時期は春だけと相場が決まっていました。しかし近年、今世紀に入った頃から消毒屋の間で古い木材から発生とか、夏を過ぎても被害が発生といった事例が多発。特にマンションのフローリング材の被害例が多くて何だかおかしいなと思っていたら、ヒラタキクイムシにそっくりのアフリカヒラタキクイムシという外来種が増えてきていたことが判明しました。

 上の写真の通りあまりにそっくりで同定には実体顕微鏡が必要なこの虫、今どのくらい分布が広がっているのかは不明です。ただ、2009年に全国36件の被害例を調べたところアフリカヒラタキクイムシが25件、ヒラタキクイムシが9件だったという報告があります。おまけに、アフリカヒラタキクイムシと同じく外来種であるアメリカヒラタキクイムシなる種の被害発生も確認されており、外来種が在来種を圧倒しつつあることは間違いありません。ひょっとしたら、今はヒラタキクイムシがほぼ絶滅している可能性もあります。

 害虫の世界での話ですから全く話題になってませんが、これがカブトムシみたいな人気のある虫だったらきっと国が動くほどの大きな話題になっていたでしょうね。

 

<いきもの写真館No.150 トノサマガエル>

 子供のころトノサマガエルを捕まえてよく遊んでいたものですが、当時からトノサマガエルは日本中にくまなく分布しているものだと思ってました。大学に入学してからはずっと関東に住んでいたんですが、そのときに見掛けたカエルもトノサマガエルだと思っていたのです。大学を卒業して働き始めたころになって、やっと関東にいるのはトウキョウダルマガエルという別種だと友達から知らされました。

 

 上に示す小巻(2015)に掲載された分布図を見ると子供のころに石川県や山口県で見たものはトノサマガエルだったはずですが、しかし記憶をどう辿ってみても関東で見ているトウキョウダルマガエルとの区別がつきません。今は再び石川県にいるんだから、いつかはここのカエルをじっくり見てみよう…ということで森の中に放棄された棚田の水溜りにいたトノサマガエルを撮影してみました。

 言われてみると関東で見慣れたトウキョウダルマガエルよりはほっそりして、トノサマガエルの方は背中の斑紋が孤立せずにつながっている…ように感じますが、うーんやっぱり良く分からない。同じ生態や活動様式の動物は形態も似てくるという「平行進化」の例だとのことですが、ここまで似る必要ってあるのかしら? 

 

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生物技術者連絡会通信 2023年5月号

生物技術者連絡会通信 2023年5月号

<生物技術者が見た風景〜エナガの巣作り>

 春が来て、野鳥たちの繁殖季節になりました。この季節になるとどうやってカメラを持って野山へ出かける時間を作るか、ウズウズしますね。さっそく500ミリの望遠レンズをつけた愛用機を持って雑木林に出かけてみました。早春なら、歩いているとまとまった数のカラ群に出会うものですが、5月になるとはっきりした群は見られなくなり、森の中のあちこちでカラ類やコゲラエナガのテリトリーソングが聞こえてきます。もちろん、クロツグミキビタキアカハラ等の夏鳥たちの声も。

 歩いていると道端のスギの幹周りで何やらゴソゴソと音がしました。振り返ると幹に張り付くようにエナガが何かをつついています。カメラを向けて撮ってはみましたが2m位の至近距離です。画角をはみ出したかなと心配しましたが、ギリギリ収まってました。

 よく見ると何かくわえています。と言うか、幹周りにあるものを集めている感じ。どうやらクモの巣のようです。そういえば、エナガの巣はクモの糸のような細い繊維を丸く絡めて作られていたはず。こうやって集めているんですねー。きっと近くで巣を作っている最中なんでしょう。せっせと集めてる姿がとてもけなげに感じました。この森では今、探すとあちこちで同じ光景が見られるんでしょうね。

   

<有害動物の話①~大発生するタカラダニ>

 人間の生活空間の中で見られ、人間にとって不都合な様々な現象を生じさせる動物を有害動物と呼びます。どのような不都合な現象かというと、大まかに分けて次の三つです。

①人間を刺したり吸血するなどして直接危害を与える、もしくは有害な細菌やウィルスを持って伝染病や食中毒を媒介する。このようなタイプのものは一般に衛生動物と呼ばれます。

②人間が栽培飼育する農林畜産物に病気を伝搬させたり直接加害して利用価値を失わせる、もしくは食品や食材を加害したり汚染することで商品価値を失わせる。このようなタイプのものは一般に農業害虫もしくは食品害虫と呼ばれます。広義にはサルやシカといった害獣も含まれますね。

③その形状や大きさが人間にとって不快である、もしくは生活空間の中で大発生することにより強い不快感を生じせしめるもの。このようなものは不快動物と呼ばれます。

 ①と②については江戸時代の昔から存在が知られていて、衛生動物学とか医動物学、応用動物学などといった学問として成立してますが、③はつい最近、おそらくは戦後の経済成長期以降に認識されるようになったものです。そして有害動物の防除管理を生業とする消毒屋業界(衛生管理業界)にとっては、現在最もお金になっている対象が③の不快動物なのです。特に最近では、今まで気にも留めなかった動物が幾つも不快動物にされたり、いわゆる外来動物が不快動物化したりといった現象が増えていて、不快動物とされる動物リストがどんどん長くなってきています。このコーナーでは最近話題となった不快動物を中心に、有害動物の今についてご紹介していきましょう。第1回はタカラダニです。

 5月になると通常、消毒屋業界ではシロアリ駆除の仕事が書き入れ時になります。それは日本で最も被害の大きいヤマトシロアリの巣から羽アリが飛び出す時期だから。ところが最近では同時期にシロアリに負けないくらい問い合わせが多い虫があります。それがタカラダニ。問い合わせの内容はほぼ一致して「小さくて真っ赤な虫が周りにいっぱいいて建物の中にも入ってくる!」というやつです。写真の通り、本当に真っ赤です。

 問い合わせが来始めたのは私が会社に入ってからの1980年代以降で、急に増えてきた印象があります。虫ではなくクモの仲間なんですが、ダニにしては動きが早く5月になると全国のあちこちで建物の壁や屋上に大量に発生、目を凝らすと0.5mm位の大きさの赤い粒がゆっくりと蠢いているのがかなりシュール。虫の嫌いな方なら鳥肌たつのが必定という代物です。最初はこいつが何なのかさっぱりわからなかったんですが、最近になってようやく研究が進み正体が明らかになってきました。ダニというと動物に外部寄生して吸血する怖い動物という印象がありますが、これは地表を徘徊して微小な動物や花粉等を食べる捕食性のダニ。人に直接危害は与えません。冬になると全く見られませんので1年限り、それも5月から6月に限って成ダニが現れ、コケの間に産卵したら親は消失という生活環のようです。卵から孵化したダニは生きている限り常に移動しているようで、だいたい1時間に1m位の早さで発生場所から分散していきます。なので屋外で発生したものが建物内に侵入してくる事態も生じます。ただ、どこの現場でも発生は数週間で終息してますので分散できる距離はせいぜい20~30m程度でしょう。侵入できるのは建物

の外壁周辺にある部屋までじゃないでしょうか。右の写真にあるような老朽化したコンクリートの表面を好んで移動しツルツルの表面は移動できないようですので、建物の外壁沿いに界面活性剤液(石鹸水)を撒く、外壁のコンクリート面下部にエポキシ塗料を塗ってツルツル面にするといった対策をとると屋内への侵入を防げるみたいです。なお、殺虫剤ならピレスロイド系の薬剤を散布すれば効果ありますが、屋外ですから全くお勧めしません。

 

<いきもの写真館No.148 サンショウクイ

 サンショウクイは東南アジアから渡ってくる夏鳥ですが、高い木のそのまた上空を鳴きながら飛び回っていますので、なかなか姿をとらえることが難しい鳥です。しょっちゅう飛び回っていて、たまに止まるのは高い木の梢のてっぺん。だから撮影するのも難しい。枝の後ろに隠れていささか見づらいですが、私のスキルと装備ではこれで精いっぱいなのでご勘弁を。それにしてもヒリンヒリンという声はとてもよく通るので、いればすぐわかるはずですが関東の平地ではめったに聞いた覚えがありません。ところが金沢では市内の公園でもしょっちゅう声を聞きます。日本海側に多いのかしら?

 

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