研究部会メーリングリスト通信 2020年3月号

研究部会メーリングリスト通信 2020年3月号

 

<生物技術者の事典 〜 河川水辺の国勢調査

環境に関する基礎情報の収集・整備を目的として全国109の1級河川及び主要な2級河川の水系、国や自治体管理のダム周辺を対象として国土交通省自治体等により1990年から実施されている調査。魚介類調査、底生動物調査、植物調査、鳥類調査、両生類・爬虫類・哺乳類調査、陸上昆虫類等調査の6つの生物調査と河道の瀬・淵や水際部の状況を調査する河川調査、河川空間の利用者などを調査する河川空間利用実態調査から成っている。(EICネット環境用語集より)

 野外生物の調査を生業とする生物技術者なら、おそらく一度は携わったことがあるであろう事業。現在も調査業務は続いており、5年で魚介類と底生動物の調査を、その他を10年で一巡する。2017年度からは6巡目の調査に入っている。調査精度を統一するため調査実施マニュアルが作成されており、マニュアルや生物リスト等の主要資料は国土交通省のHPからダウンロードできる。

 

生物技術者のひとりごと:1巡目の調査に携わっていましたが、その頃はマニュアルに付属する生物リストが図鑑や同定検索資料のリストと合わず、学名から標準和名を探したり、リストの順番を入れ替えたり、いろいろと苦労した記憶があります。今ではそんなことはないんでしょうけど。それと現地で調査したときは、調査票に記入する独特な河川用語にずいぶんと戸惑いました。特に印象に残ったのは「右岸と左岸」、「堤内地と堤外地」、「河川敷と高水敷」、「堰と頭首工」、「排水機場」あたりでしょうか。普通の人なら堤内地なら川の中だと思うんでしょうが、逆なんですからね。

 

<今月のデータ ~ 30年後のラインセンサス>

 昔、環境アセスに関わる生物調査を多くの現場で実施していたときから、この調査で予測評価して提案したことが本当に「環境の保全に配慮した事業」になったのか、どうやってそれを確かめられるんだろうか、などといつも思っていました。環境影響評価法には事後モニタリング調査が義務付けられていますが、しょせん事業者アセスですからそれができたとしても事業後の数年間が関の山です。本当に「環境保全に配慮された事業」だったといえる状況になっているかどうかが分かるのは、きっと数年後じゃなくて数十年後のはず。だけど、そんなに長くモニタリングする機会なんて無い…。そんなことを時々思いながら定年を迎えたところ、はたと思いつきました。定年になって少しヒマになったことだし、ひとつ自分で確かめてみようかなと。

で、とりあえず鳥類のラインセンサス調査の結果をネタに1989年にやった調査と全く同じ調査時期、調査ルートで昨年、つまり30年後の2019年にもう一度やってみました。同じ人間がやっていますので公平に比較できるんじゃないかと思って。千葉県市原市での結果は表の通りです。運良く、30年前とほぼ同じく調査時の天候は晴天に恵まれましたね。

 

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 調査をした場所の環境については、30年間で以下のような変化が起こっています。

※距離2400mのルート中間地点あたり、1989年は造成直後の更地もしくは草地だった場所に清掃工場と浄水場が建って2019年も稼働中。

※ルートを挟んだ清掃工場の反対側に1989年には造成直後の更地があり、2019年には産業廃棄物の埋立処分場ができていた。

※ルートを挟んだ浄水場の反対側、1989年はスギ植林だったが2019年には伐開され高茎草原になっていた。

※ルート上に1箇所、森に囲まれた小規模な水田が1989年にあったが、2019年には放棄されて草地とため池になっていた。

※以上の他、ルート沿いに見られる森林はおおむねスギ林で、視覚的な環境の変化は特にないみたい(30年前の記憶ですけど)。

 結果を見ているといろいろ鳥類相が変わっているように見えますが、さてどうでしょう。これから詳しく分析してみますね。わたくし、こういうデータを比較していろいろと想像するのがわりと好きなんです。

 

<いきもの写真館No.106 ジョウビタキ

 

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ジョウビタキ

 冬になると、緑の多い公園ではだいたい地味な色の茶色っぽい鳥だらけになります。でもきれいな鳥が全くいないかといえばそうでもなく、このジョウビタキなんかはシックな色合いがたまらなく好きですね。頭の色が銀色で腹が橙色、真っ黒な背中に鮮やかな白斑、とくれば遠くに飛んでいてもすぐにこいつと分かります。動き方もけっこう独特ですし。人目につく場所にわざわざ出てきて、尻尾をピュルピュルと細かく動かしているところなんかもGood。

 

<今月のお知らせ>

※毎年発行している「生物技術者連絡会研究報」の第7集ができました。表紙はこんな感じです。

 

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順不同ですが内容は以下の通りです。

・「ウロコ(魚鱗)を同定する」(邑井)

・「遡上期のサツキマスの鱗相による判別と2019 年シーズン結果報告」(中村ほか)

・「獣毛同定技術はどこまで来たか」(邑井)

・【技術者グッズ】トレイルカメラ TrophyCam HD Essential E3(Bushnel 社製)

 

FBN会員に郵送で配布しますが、お届けする時期が少し遅れるかもしれません。

会員に配布し終えたら一般の方々にもお分けします。

 

この通信の内容に関する問い合わせは以下にお願いします。

〒921-8033 石川県金沢市寺町1丁目19-19

yoshimori.murai@gmail.com

邑井 良守