研究部会メーリングリスト通信 2020年4月号 

研究部会メーリングリスト通信 2020年4月号 

 

<生物技術者が見た風景 〜 国宝建築物とムササビ 

 人間に様々な危害を及ぼす哺乳類をよく「害獣」といいますが、危害をどのように捉えるかによって害獣の種類も変わります。一般的にムササビは貴重な樹上性哺乳類でとても害獣とはみなされない動物なのに、害獣の対象として調べた経験がありますのでその話題を一つ。 

 長野県に鎌倉時代に建てられ、現在は国宝に指定されている三重塔があります。大正9年以来86年ぶりに塔屋根の葺き替え工事を始めたところ、塔内に動物が侵入した形跡がある。何がどこから侵入したのか調べてほしいとの依頼が文部科学省からありまして、その調査に出かけました。 

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仮囲いに覆われてますが三重塔です

 仮囲いされた建物が三重塔です。まず、周りに廻られた足場を使って屋根、上層階から中層階、下層階に至るまで外回りを点検しました。すると、中層階(2階部分ですね)の壁に侵入口だったと思われる隙間がありました。梁には齧り痕も見られます。 

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三重塔の中層部分です

次に足場を登って塔の中に入らせてもらえました。何しろ国宝ですからおっかなびっくりで入ったんですが、鎌倉時代の塔って中は床も何もないがらんどうなのですね。柱を伝って侵入口の近くへ行くと… 

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塔内の中に動物が寝た跡が…

動物が寝ていた跡ですね。持ち込まれている巣材は主にスギ皮でした。状況から見侵入者は明らかにムササビで、今は棲んでいないようですこの塔は中に人間が入らないので、ムササビは安心してお家にしていたんですね。さて問題は、今はいないものの再びムササビが中に侵入することはあるのかという点。また棲みつかれると、部材が齧られたり糞尿で汚されて建物が劣化してしまいますから避けたいところです。結論からいうと、現時点で塔の周辺にムササビは生息しておらず、今後再び侵入される可能性は少ないと判断されました。昔は塔の周りに大きな杉の木がたくさん立っていて、ムササビが縦横無尽に飛び回っていたんでしょうけどね。 

ムササビの他に、最近ではアブラコウモリやハクビシンハクセキレイなんかも大事な建物に侵入して悪さをする例が増えています。 

 

<今月のデータ ~ 30年後の定点センサス> 

 前回ご紹介した、今私が取り組んでいる「30年後どうなった?」シリーズの第2弾です。前回は千葉の田舎が舞台でしたが今度は都会の中もど真ん中、オリンピック施設の整備が着々と進んでいる東京のベイエリアです。30年前はフル稼働で大賑わいだった築地市場を運河越しに見る水門近くの公園を定点として、目に見える範囲内を1時間、望遠スコープ+双眼鏡でぴったり30年後にセンサスやってみました。いや、さすがに30年前の記憶とは大違いで全く違う景色ですが、大きく変わった点を見つくろってみるとこんな感じです。 

・運河越しにあった築地市場は移転跡地となり、土砂とコンクリート片ばかりの更地と化していますが、なぜか運河沿いの船着場だけは昔どおり残ってます。 

・背景には当時全くなかった超高層マンションが。見上げるばかりニョッキニョッキとたくさんそびえてます。 

・確か定点の場所に当時は公園がなく、堤防脇にあった小さな船着場で鳥を見てました。今は堤防際がきれいに緑化された公園になっていて、船着場の真上に大きな橋がかかっています。 

築地市場跡の隣には昔どおり、浜離宮恩賜庭園が見えます。橋越しにですが。 

ということで、夏の8月から9月、10月、1月の4回、30年前と同じ下旬の同じ時間に定点センサスしてみた結果と30年前の結果は下表の通りです。 

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 鳥の観察数や種類数では30年後の今が勝ち、ということになりました。観察個体数だとほぼダブルスコアです。特に水鳥が増えましたねー。スズガモなんて、わりと波が立つ沖合にいるって印象だったんですが。30年前はまだ東京湾流入する河川の汚れが問題になっていたころで、現在は河川水のCOD値がほぼ半分になっているそうですから、そのへんが影響しているのでしょうか。 

 

<いきもの写真館No.107 カタクリイカリソウ 

 早春の雑木林、日がよくあたる谷間で一斉に花を咲かせるカタクリはとても人気のある花です。千葉にいたとき、この時期になると栃木県の三毳(みかも)山へよく見に行ったものです金沢市にもカタクリの里と称する場所がありましたので4月初めに見に行ってみました 

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右がカタクリで左がトキワイカリソウ

写真では分からないでしょうけど花がでかっ!。三毳山のものより確実に一回りはでかいですね。また、こちらではカタクリと同じくらいの勢いでイカリソウもいっぱい並んで咲いてました。私が勤めている会社の名前と同じということもあってこの花もお気に入りなんですが、よく見ると…あれれ、葉っぱが常緑 

日本では太平洋側は落葉のイカリソウです日本海側になると常緑のトキワイカリソウになるってこと、今まで知りませんでした。金沢市カタクリの里はギフチョウの多産地としても有名だそうで、1頭だけ飛んでいるのを見ましたよ。いいところです。 

 

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yoshimori.murai@gmail.com 

邑井 良守