研究部会メーリングリスト通信 2020年5月号

研究部会メーリングリスト通信 2020年5月号

 

<生物技術者が見た風景 〜 能登の桶滝>

 能登半島は石川県の一部ですが、人が多く住む地域から遠い遠い辺境の地という印象が石川県人の間にもあります。なにしろ、金沢から能登半島の先端へ行くよりも京都大阪へ行く方が時間的に早いんですから。特に半島の先は道が狭く曲がりくねってますので、観光地とはいえ人が住んでいる気配がほんとうに薄い感じがします。なので、石川県人も知らない隠れた名所が幾つもあるんですが、生物技術者的にも受けそうな風景をひとつ紹介しましょう。

f:id:jfbn:20180714212152j:plain

能登の桶滝

 写真は「能登の桶滝」と呼ばれている滝です。滝は滝なんですが、上の方が何だか変ですね。この滝、岩盤に開いた穴から流れ落ちているんです。底が抜けた桶を連想するので桶滝、です。私は夏に行きましたが、滝底の周りにはカワトンボがたくさん飛んでいました。細い山道の奥にあって案内板があまりなく、来る人も本当に少ないですが一見の価値あり、ですよ。

 

<生物技術者のための用語集 〜 日本産昆虫目録>

 かつて、環境アセスメント対象事業や河川水辺の国勢調査で昆虫調査を手掛けていたことがあります。もう20年以上前のことで、河川水辺の国勢調査だと一回り目の終わりから二回り目の初め頃ですね。今では懐かしい思い出ですが、その時に一番大変だったこととして印象に残っているのが同定した虫をリスト化する作業でした。虫の同定に使う図鑑には大きく保育者系と北隆館系があって、和名や学名が違っていることがあったからです。

 当時は九州大学の平嶋先生がまとめた日本産昆虫総目録と、それをベースに出版された自然研の目録書籍があったので、最終的にはその目録に基づいた名前と掲載順でリストをまとめてました。同定して名前が分かったとして、この目録に載っている和名や学名が使った図鑑に載っているものと同じだという保証がありません。なので、昆虫だと3万近い名前が載っている分厚い書籍から和名と学名を探して確認していくわけで、これが大変。で、学名があっても和名が違い別の学名の種にその和名がついていたなんてことがおこると、また図鑑に戻って確認する。おまけに、河川水辺の国勢調査だと上記のリストとは別の、国土交通省がまとめた生物リストに沿ってまとめなきゃならず、二つのリストを見比べながら順番や和名が違ってたら修正していくとか…。

 手作業だと果てしなく時間がかかるので、結局ほぼ1年間を費やして九大・自然研の書籍データをエクセルシートに書き込み、その検索機能を使ってだいぶ楽になりました。国土交通省の方は初めからエクセル化したリストがもらえたし、そのリストも毎年更新し公開されているので助かりましたね。しかし、こんな調査で一番面倒見がいいのが今でも環境省じゃなく国土交通省だというのはなんとも日本らしい…。

 ちなみに九大・自然研のリスト書籍、つまり環境省御用達の昆虫リストと国土交通省の陸上昆虫類等リストを比べると結構な違いがあります。例えばコウチュウ目の記載データ数を見ると前者は9930くらい、後者は12110くらいです。これは後者のリストでは同一種でも地方亜種があるのは全て別データとして分けていることが大きいようです。それに、前者にあって後者にはない分類群があったりもします。ノミバエという消毒屋ではおなじみの小さなハエがいますが、後者のリストではノミバエ科というグループ自体が載ってません。

 

<いきもの写真館No.108 ニホンアナグマ

 私が住んでいる金沢市は山の尾根先に作られた平山城の城下町が起源ですので、市域の半分以上は険しい山地になっています。そのうえ、関東と違って山岳と平野との緩衝地帯になる里山環境があまりなく、カモシカやクマ、最近ではイノシシも頻繁に町はずれに姿を現しています。最近は夏冬問わず、姿をよく見ますね。写真は自宅から車で15分の、町はずれにある自然公園の歩道を歩いていたら出会ったアナグマです。

 

f:id:jfbn:20200417233738j:plain

f:id:jfbn:20200417233730j:plain


 歩道を堂々と歩いてきまして、全然ひるんだ様子なし。何だか、ここは自分のフィールドだぞと誇示しているみたいでした。そういえば、東京の吉祥寺駅構内にアナグマが現れて話題になったことが昔ありましたね。野生哺乳類にしてはあまり神経質じゃなく、割とのんびりした性格なんでしょうか。

 

この通信の内容に関する問い合わせは以下にお願いします。

〒921-8033 石川県金沢市寺町1丁目19-19

yoshimori.murai@gmail.com

邑井 良守