研究部会メーリングリスト通信 2020年8月号
<生物技術者が見た風景 〜 中池見湿地>
先日、梅雨が明けたので久々に遠出してみました。行先は敦賀市にある中池見湿地です。海沿いではなく町のすぐそばの山中にあるにもかかわらず国定公園の指定地に選定され、2012年にはラムサール条約地にもなっている場所です。地震で生じた断層により山に囲まれた盆地が出現、そこに水が流れ込み泥炭層が発達して湿地ができました。敦賀駅から歩いて30分で着くというお手軽な湿地ですね。湿地へ入る入口は2か所ありますが、そのうちの駅から近い藤が丘口はこんな感じです。
山道を少し登っていくと平坦地になって木道が現れます。
やがて目の前に湿地が開けてきます。入口からここまでわずか10分くらい。
面積は狭いですが、風景はまるで尾瀬ヶ原です。私のように腰を痛めた年寄りでも楽に行けちゃう湿地なのです。しかしながらこの湿地、見られる動植物の種類がとても多く、生物多様性という意味では尾瀬ヶ原を凌いでいるんじゃないかというくらいのもの。堆積した泥炭層も数十メートルにおよぶという場所です。湿地の中の木道を歩いていくと、本当に尾瀬ヶ原に来たような気分になれます。都合10回は尾瀬ヶ原に行っている私が言うんだから間違いなし。再来年には新幹線が敦賀まで伸び、関東からも行きやすくなると思いますので皆さんも一度いかがでしょうか。湿地の下を新幹線のトンネルが通っているのが少し気にはなりますが。
<今月のデータ 〜 虫と光と生物技術者 その2>
食品産業を得意先とする消毒屋では、粘着テープを取り付けるタイプのライトトラップをモニタリング機器として販売しています。虫がよく捕れるという評判が売り上げに直結しますので、性能を向上すべく日夜開発に専念しているわけですが、一番のキモはやはり誘引する照明ですね。トラップに取り付ける照明を通常「誘虫ランプ」と呼んでますが、そう呼ぶ以上普通のランプよりも数倍は虫を集めるんだよね…ということでこの表をご覧ください。
虫の視覚は人間よりも紫外線よりに波長がずれていることから、誘虫ランプは人間が見ると青色(紫色)のランプになります。たくさんの種類のランプを販売している松下電器(現パナソニック)さんの研究所(松下照明研究所)が出したこのデータによると、誘虫ランプの誘虫性は白色蛍光灯の約109倍ということですね。この会社、「虫よけ蛍光灯」という名のランプも売ってましたが、それよりもナトリウム灯の方がずっと誘虫性が低いということも分かります。ナトリウム灯はよくトンネルの中を照らしている、黄色い光を出すあれです。波長としては紫外線とは真反対の赤外線に近い波長になりますから、虫の見える光からよりずれているということなのでしょう。水銀灯は白色蛍光灯の2倍くらい、ですから虫がよく集まるように見えるのも納得でしょうか。このネタ、もっと続きます。
<いきもの写真館No.111 チョウトンボ>
前述の中池見湿地、トンボの多産地と聞いていたので、何か見つかるかなあと思って今回行ったのですが…チョウトンボの大群に遭遇しました。いや、これは尋常でない数です。とまった姿は前翅と後翅の角度が違っていて、何だかだらしない感じがしますが色彩はとってもきれい。雨が上がった直後に行ったので湿地の木道が水浸し。靴はぐしょぐしょになってしまいましたが、いい写真が撮れました。
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邑井 良守