研究部会メーリングリスト通信 2020年9月号
<生物技術者が見た風景 〜 刺さないスズメバチの巣を作る>
長く生物調査屋と消毒屋を掛け持ちしていると、いろいろと変わったことも経験するというお話を一つ。2018年9月号で「スズメバチの巣から何メートル離れたら安全?」という話題を出しましたが、今回は「近づいても安全なスズメバチの巣ってある?と聞かれて、ないから作っちゃった」という話題です。
とあるテレビ番組制作会社から来た、次の問い合わせから話は始まります。「山の中で役者がスズメバチの巣にぶつかって慌てる、という絵を撮りたい。事故なく安全な状態で撮れる方法ある?」…普通なら不可能の一言で一蹴するところですが、当時(20年くらい前です)は若くて「誰もやったことがない、と言われたらやるでしょ」という無鉄砲な考えを持っていた私です。スズメバチの研究をしていた先生に相談してみました。そして、先生のご協力を得て「刺さないハチしかいないスズメバチの巣を作る」ことにしたのでした。
では、その方法は如何に。仕事的にはトップシークレットだったので残念ながら写真等の資料はありませんが、段階を追ってやったことを説明すると以下の通りになります。
①小ぶりのスズメバチの巣を探す。
②スズメバチの巣がすっぽり入る段ボール箱を用意して、一部穴をあけておく。
③スズメバチの巣をビニール袋で包み込み、中に炭酸ガスを満たしてついていた枝ごと取り外す。
④巣を袋から出し、巣の一部を壊して眠っているハチ(100~200頭はいます)を全て外に取り出す。
⑤全ての働きバチの毒針をペンチで折りとり、②の段ボール箱に巣とともに入れる。
⑥段ボール箱を屋外に数日放置。
⑦箱から巣を取り出して元の位置に戻せば完了。
壊された部分は数日で修復されています。
これで、この巣に近づいてもハチは襲ってきますが刺されることはありません。襲ってくる勢いがすごく、歯をカチカチ鳴らしながら刺す仕草もしますのでスリルは満点、ちびりそうにはなりますが。ただし、しばらくすると蛹からかえった働きバチが加わってきますので「効果」は長続きしません。ご注意ください。いやー、しかしあの頃は無茶してたなあ。
<今月のデータ 〜 30年後どうなった?その3 十和田湖>
30年前に行ったラインセンサスを今、全く同じ条件でやったらどうなったというシリーズ第3弾です。今回はとっても自然豊かな十和田湖畔の遊歩道でやってみました。十和田湖は30年前から全域が国立公園に指定されています。建築や土木の工事に厳しく制限がかけられてますので、30年後に訪れた時も景観はほぼ変わっていないような感じでした。電子国土Webの航空写真を比較してみても、別荘地の周囲が少し草深くなったかなという程度です。実施した場所は十和田湖西岸の大川岱地区です。結果は表の通り。
観察された種類数と観察個体数ともにあまり変わっていないようですが、その内容を見ると微妙な違いがあるように見えますね。何だか2019年の方が人為的な影響が強いような気がします。また、1989年でセグロセキレイだったのが2019年ではハクセキレイになっているところなんかも、何となく時代の流れを感じちゃいます。
<いきもの写真館No.112 アカテガニ>
先週、海岸沿いの公園内にある森を歩いているとたくさんのカニに出会いました。近づくと歩道から一目散に森へ逃げ込んでいきます。写真のとおり、全身が赤っぽいうえに腕の赤さが目立つのでアカテガニと呼ばれているカニです。海岸の河口付近から下流域にかけてのいわゆる汽水域に近い陸上に棲む陸生ガニで、小高い丘状の地形に穴を掘ってくらしています。東北地方以南の全国に分布しますが、数が少なくなって最近はめったに見られなくなりました。かつては関東地方にもたくさんいましたが、今では三浦半島の小網代の森など、限られた場所でしか見られません。初夏になると産卵のために大群となって海岸に押し寄せます。今回は時期外れだったんですが、きっと6月ごろにまた来ると足の踏み場もないほどのカニが行進してくる壮観な風景が見られるんでしょうね。
ところで最近は、このカニによく似たクロベンケイガニの姿が関東地方の大きな川の河口付近でも結構見られるようになってきてますね。甲羅に人の顔みたいなくぼみがついている黒っぽいやつですが、これについてはまた別の機会に。
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邑井 良守