生物技術者連絡会通信2021年8月号

生物技術者連絡会通信 2021年8月号

 

<生物技術者が見た風景 多自然型護岸の25年後>

  今月、埼玉県川口市にある新栄団地に隣接して設けられた「あやせ新栄ビオトープ」という場所に行ってきました。埼玉県から東京都へ流れる綾瀬川の河川敷に作られたビオトープです。行ってみたら説明看板にこんな図が載ってました。

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 規模の小さい、最近はどこでも見られるような可愛らしいビオトープです。何でここに来たかというと、私にとって特別な理由があります。ここは1994年に「多自然型護岸」として整備され、その2年後の追跡評価調査に参加しているからです。あの調査の時に見た光景が25年後にはどう変わっているのか、すごく興味があったんですよね。調査書類からの転用のため見にくくて恐縮ですが、造成直後(1994年)はこんな感じでした。

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 高水護岸の法面は雑草(自然植生)で保護。低水護岸には自然石(捨石)を使用して枠を作り、枠内に湿地帯を創出する、というのが施工仕様です。写真中央に見える枠がそれですね。その2年後、調査を実施した際にはこんな光景になってました。

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 枠の部分を黄色の破線で示してみましたが、枠内には水が溜まって湿地化しヨシもぼつぼつ生えてました。で、その25年後にどうなっていたかといいますと…

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 枠内はヨシが茂る湿地帯となっていて、周りの草地は定期的に手入れされているようで景観的には大変良い感じです。ヨシ原からはオオヨシキリの声も聞こえました。草地にはコドラートが切られていて、植物調査もしているようですが、地元団体で何か活動しているんでしょうか。しかし湿地帯の中に3本、立派な木が生えてますね。河川敷の中に木が生えたままにしておくのは水害対策上ご法度だと思ってましたけど、大丈夫なんでしょうか。
1996年の調査では鳥と両生爬虫類、昆虫類、それに植物の調査をして、生データも残っています。見た目はいい感じになってますが、生物相的にはどうなのか。これから少し追いかけていこうかなと思います。 

  

<今月のデータ 〜 アカテガニ生息調査②>

 金沢市の海岸沿いにある健民海浜公園で実施しているアカテガニ調査の2回目報告。前回でカニの産卵場所は公園の東側、犀川河口の河岸だろうとあたりがつきました。そこで調査計画の第2段階。カニが河岸に集まるのは繁殖のためで、それ以外の時期は森の中のどこかに穴を掘って棲んでいるはずです。じゃあそれはどのあたり?ということで、公園内での生息域を把握してみようと考えました。その考え方は以下の通り。

※公園内には幅1.5~2m程度の未舗装の歩道が縦横に通っており、歩道際にはカニの巣穴が多数確認できる。

※そこで公園内の幾つかの歩道を選び、歩きながら道際に確認できる巣穴を全てカウントする。

※最終的に歩道10mあたりのカウント数を算出して分布密度を出す。

 公園内の歩道は定期的に除草管理されていて、常に道端の巣穴がよくわかる状態となっているのがラッキーでした。金沢市に感謝。結局、公園内の歩道を8つの区間に分けて、それぞれのカウント数を10mあたりに換算した結果が下の図です。

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 道端で見られる巣穴の数が全域の密度分布を反映していると前提した上での話ですが、公園の中央を北から南流して池にそそぐ渓流があり、その周りで比較的巣穴の数が多くなっているようです。渓流際と犀川河岸の間には丘状の起伏があって、彼らはそれを越えて河岸にやってくるようですね。数値としては公園北端の舗装道際が8.33と最も多かったんですが、確認できた巣穴は結構古いものが多く、穴の数が多い割にはカニの姿があまり見られませんでした。公園の北は民有地になり開発が進んでいますので、過去は多く棲んでいたが今は減ってしまったのかもしれません。

 ところでこの調査を実施していた際に、公園内にはアカテガニの他にクロベンケイガニもいて、公園の南側ではむしろクロベンケイガニの方が多いことに気づきました。ざっくりですが、その分布域を図示してみるとこんな感じです。

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 この2種は混在して生息し、クロベンケイガニはアカテガニと違って水域からあまり離れないといわれてますので、確かにそんな感じです。

 

<いきもの写真館No.125 タカサゴユリ

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 8月も下旬になると、荒地化した田畑や水田の畔、
日当たりの良い道路脇や法面,線路際などに白い大きなユリがたくさん生えているのを見ませんか? それも最近になって。この花、山の草原に生えるテッポウユリにそっくりですが、実は台湾から移入された外来種のユリで、タカサゴユリというのです。最近は民家の庭なんかでも、植えた覚えがないのにこの立派なユリが突然あちこちにニョキニョキ出てきてびっくり、という光景が各地で見られます。かく言う私の自宅でも、ある年に門扉から玄関にかけての周りに、写真のように忽然と大出現して実にたまげました。そして3年ほど庭を占拠した後に突然消えてしまいました。まるでゲリラみたいな花です。

 調べてみると、この花に限らずユリ科の植物は連作障害を起こし、何年かすると同じ場所では生きられなくなってパタっと姿を消すんだとのこと。お騒がせな花ですね。きれいなので咲いてくると思わず大事にしたくなりますが、あくまでこれは外来種でただいま国内では絶賛拡大中。テッポウユリとの交雑も報告されているようなので注意が必要です。 

 

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yoshimori.murai@gmail.com  邑井良守(ムライ ヨシモリ)