生物技術者連絡会通信 2021年9月号

生物技術者連絡会通信 2021年9月号

<生物技術者が見た風景 ニホンザルを追いかけて>
 もう40年以上も前のことですが、大学生だったころに野生のニホンザルを追いかけてました。「野生生物研究会」というサークルで、春や夏の休み期間では何週間も山にこもって、ひたすら追いかけていたものです。当時の日本の生物学界では「サル学」が隆盛で、そういう呼び方だったか否かは定かではありませんが大きく「東大学派」と「京都学派」に分かれてました。前者はサル群を餌付けして観察しやすい状態にし、群の社会学的構造などを研究していこう、というもの。対して後者は人の影響が全くない自然状態の群を調べないと真の社会学的構造は明らかにできない、というものでした。後者に属する方々の中には下北半島やら金華山やらで何年にもわたって山にこもり、サルを追いかける猛者がいましたね。前者の代表は高崎山幸島でしょうか。で、私のサークルは後者だったわけ。

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昔は一緒に山で調査してくれる仲間が多かった。


 当たり前のことですが、山で野生のサルを追いかけるなんて簡単なことではありません。基本的に山の中を動くスピードが全然違ううえに、間違いなく人がサルに気づく前にサルが人に気づくので。1年生だったころはひたすら山に入ってもサルに出会えるのは年に1,2回でした。それが2年生になると、急にサルに出会えるようになりました。3年生のころには2回に1回の確率でサルに出会い、群の規模やボスザル、サブリーダーなどの見分けもつくようになりました。なぜでしょうか。
 それは要するにサルの方で私を気にしなくなったから、なんですね。明らかに何度も出会って無害だと判断した人間については顔を覚えるようで、服装を変えても分かるみたいです。1年のころは群のそばに入り込むと、たぶんボスザルであろう個体が歯を見せて威嚇してきましたが、3年になると群のそばにいてもおかまいなしになりました。子供ザルを抱えた母ザルなんかも見れたのは、今となっては懐かしい思い出です。
  
<今月のデータ 〜 アカテガニ生息調査③>
 金沢市の海岸沿いにある健民海浜公園で実施しているアカテガニ調査の3回目報告です。前2回で把握できたカニの産卵場所と公園内の生息場所を図面にまとめてみました。矢印は生息場所(巣穴)から繁殖場所の岸辺へ移動する際に通る推定ルートです。彼らは繁殖のピーク時になると大集団を作って岸辺へ大行進します。ルートが道と交差するところが良い観察場所になるでしょうね。

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 8月21日の夜が大潮の満月なので、その日の日没ごろに犀川沿いの道に行ってみれば月明かりの中でカニたちの大行進が見られそう。ワクワクドキドキと張り切っていたんですが…残念! その日の天候が悪いうえに野暮用まで出来てしまい、現地に行けませんでした…。まあ、いいや。毎年来るし、来年に期待。ということで、カニ調査はこれで最終回です。
 ところで、今回調査してみて手法的にちょっと不満なところがありました。道を歩きながらカニをカウントして密度を出してたんですが、道の両側を顔を左右動かしながらチェックというのはなかなか忙しい。それに草むらで動かない個体は見つけにくいし穴や隙間に潜むやつは見逃してしまいそう。要するに、個人差でデータが大きく変わってしまいそうなんですね。来年に向けて何か改善できないか…そうだ、動画撮影が利用できないかと思いつきました。
 カメラ(今はスマホでも動画撮影できますね)を道に向けながらゆっくり歩いて行くと振動を感知してカニが動きます。これを撮っておいて後から動く個体をカウントして密度を比較するデータとすればいいんじゃないかな。これだとデータが残るので、他者による追確認も可能(つまり再現性があるということですね)。よっしゃ、来年はこいつを試してみましょう。唯一の問題は私、「三日坊主」とまではいかないが「三か月坊主」だってこと。来年もやる気が出てりゃいいんですが…。
 
<いきもの写真館No.126 コバギボウシ

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 高山の湿原や草原で夏によく見られる青い花オオバギボウシがあります。一つの株に上下に連なる形で次々に花をつけていき、咲いていればとてもよく目立つ花です。春に出てきたこの花の若葉は「うるい」と呼ばれ、軽くゆでて酢味噌で食べるととてもおいしいですね。オオバギボウシはとても有名なんですが、近縁種のコバギボウシはあまり聞いたことはないんじゃないでしょうか。同様の環境に咲いていて、標高の低い草地や湿地でよく見られます。見た目はオオバギボウシとそっくりですが一回り小さいだけ。混同している方が多いかも。写真は8月末、中池見湿原で見かけたものです。
 
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yoshimori.murai@gmail.com  邑井良守(ムライ ヨシモリ)