生物技術者連絡会通信 2021年11月号
<生物技術者が見た風景 サルの橋>
北陸に住んでいるんだから一度は行かなきゃ、ということで10月末に黒部峡谷に行ってきました。本当は紅葉が見ごろの11月初めに行きたかったんですが、10月までの期限で60歳以上3割引きのシニア割があったので…。トロッコ電車に乗っていたら、黒部川に妙な橋がかかっているのを見つけました。
写真の右側に見えるのがそうですが、人が通るには狭くて床板がほとんどない…見ていると車内アナウンスで説明がありました。「あの橋はサル橋です。宇奈月ダムで黒部川の水位が上がり、従来のサルの通り道が沈んでしまったので生息地の分断を防ぐためにかけました。」とのこと。
おぉ、これはアニマルパスウェイというやつですね。アニマルパスウェイという言葉は財団法人キープ協会やゼネコン等で2004年に創立した「アニマルパスウェイ研究会」が作った造語と聞いています。宇奈月ダムができたのは2001年らしいので、これはアニマルパスウェイという言葉ができる前のやつかな? しかしこれ、リスとかムササビとかじゃなくてサルのためだって? この橋の数キロ下流にはダムの躯体があり、そのまた下流には宇奈月温泉があります。サルの行動範囲はまるまる一つの谷が入るくらい広いし、頭がいいので渡れなくなっても他の場所を楽に探すことができます。何でわざわざサルのために作ったんだろう。野生動物だからダムや市街地に近づいてはこないだろうと考えたのかしら。それとも逆に、市街地へ近づかせないために? サルが農作物を食害したり町に出没して人に悪さをする事件をよく聞く昨今、そう思ってしまいました。このトロッコ列車に乗る前、車で宇奈月温泉の町に入ったときに町のメインストリートを人じゃなくてサルの群れが走っているのを見た私にとっては特に。ちなみに、写真の左側に見える二つの橋は温泉の送管を管理する人と温泉そのものを送るための橋です。
<生物技術者のための用語集 〜 ロードキル>
EICネット環境用語集より抜粋:動物(昆虫までも含める場合もある)が道路上で車に轢かれる現象。より広義には、車に轢かれたものだけではなく、側溝などの道路構造物に落ちた場合や道路照明塔に衝突した場合など、道路に起因する野生動物の死傷を全て含めて言う場合もある。道路が動物の生息域を分断して造られた場合などに多く発生するため、このような箇所には進入防止柵、動物用トンネル、エコブリッジなどを設置するなどの対策が採られている。
生物技術者の独り言~サル橋の話題が出たので、そのつながりで取り上げてみました。21世紀に入ったあたりからでしょうか、ロードキル対策として特に道路造成の際に動物が安全に道を越えられるよう、専用の橋やトンネル等が作られるようになりました。サンショウウオやカエルが落ちても這い上がれるよう、道路際の深い側溝にスロープをつけた資材のパンフレットを見たこともあります。21世紀に入ってからもう20年たったんだから、それらの対策効果があれば高速道路の事故処理件数とか、統計データに結果が表れているだろうなと思って少し調べてみました。ところが、調べ方が悪いのか下図のような単年度のデータは出てくるんですが、2000年代以降の経年比較データが見つかりません。
2000年以前なら「ロードキルとエコロードの現状」(右田,2008,東海大学紀要産業工学部1,28頁~35頁)に九州地方の国道に関する5年間のデータがあって、2000年になると少なくなってます。おっ、これは効果あったのか…と思ったら良く読むと2000年のみ8月までのデータだって…。あれだけ金をかけて各地で作っているんだと思うのに、その効果があったのか、本当に動物たちの役に立ってるのかを知りたいとは誰も思わないのかなあ…。
<いきもの写真館No.128 コハクチョウ>
金沢市内の北側には湖沼を干拓してできた広大な水田地帯があり、冬になるとコハクチョウがやってきます。今年も11月下旬に確認できました。写真は19日に撮ったもので、水が溜まった水田に100~150羽ほどの群で休息してました。ここで見るハクチョウの多くは水田の水際でくつろいでいるようで、水の中に浮かんでいる個体はあまり見られません。池の水面に浮かぶハクチョウを撮った写真をよく見ますが、あれは餌付け場所がだいたい池なので、ハクチョウは仕方なく餌をもらうために水に浮かんでいるようなような気がしますね。金沢では池に集めて餌付けしてはいませんので、本当は水の冷たい池にあまり浮かびたくなくて、地上でずっと落穂等を食いながらゆっくり過ごすのがいいんだ、なんて彼らは思っているんじゃないかしら。
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yoshimori.murai@gmail.com 邑井良守(ムライ ヨシモリ)