生物技術者連絡会通信 2022年6月号

生物技術者連絡会通信 2022年6月号

 

<生物技術者のための名所案内〜金沢城公園

 金沢城公園は兼六園と並び金沢市を訪れる観光客の定番名所です。復元された城郭建築や石垣、庭園など、SNS映えするビジュアルなポイントに事欠かない場所ですが、生物技術者の目から見たらどうでしょう。筆者は毎年6月になると3〜4日ごとにこの公園を訪れています。家から歩いて30分という気軽に行けるのも一つの理由ですが、最大の理由はこの時期にモリアオガエルの産卵が見られるからです。人口45万人の都市中心部にある公園でモリアオガエルが見られるというシチュエーションはなかなかないと思いますので、6月に限ってはきれいな景色より生き物に目がいってしまう生物技術者にとっても魅力的な名所になります。ということで、今回も前回に引き続き1時間ほどで回れるおすすめコースをレポート形式でご紹介したいと思います。歩いたルートを書き込んだ図を見ながらお読みください。

 公園は夜間入場禁止ですのでゲートが開いた6月中旬、筆者は朝の8時に金沢城公園の南側、玉泉院丸口(図中の★、写真1)の前にいました。

写真1 玉泉院丸口

 

 この階段を登って公園に入ると玉泉院丸庭園の横を通り、その庭園の見事さに思わずスマホで撮影…という感じで普通の観光客を誘導していくところですが、ひねくれた生物技術者ですのでそっちはパスです。写真に向かって右側に、石垣沿いにちょっと歩いていくと「薪の丸コース」と表示された石垣直登の入口があります(図中の①、写真2)。こちらから入っていきましょう。

写真2 薪の丸コース入口

 

 石垣を登り、森に入ると道は二股に別れます(写真3)。右側の道を行きましょう。

写真3 二股の分かれ道

 

 斜面のジグザグ道をふうふう言いながら登り切ると本丸の森の入口に出ます(図中の②、写真4)。入口の前には重要文化財の三十三間長屋が建っています。

写真4 本丸の森入口

 

 さあ、森の中に入りましょう。一見自然度の高い原生林に見えますが、1586年の築城時には城の本丸として天守閣も建っていた場所です。1602年に天守閣が消失して以降は利用されず、荒れ果てて原生林のようになったそうです。森の中をよく見ればソメイヨシノやタイサンボクなど、栽培種だった木もちらほら見えます。真っ直ぐに少し進むと道端に池が見えてきます(図中の③、写真5)。

写真5 本丸の森内の池(H池)

 

 この池は1960年代、ここが金沢大学構内だった頃にモリアオガエル保護のために造成されたもので、戸田(2013)「金沢城におけるモリアオガエルの個体群動態と保全への提言という論文の中ではH池という名称になっています。6月中旬になると、狭い池なのに周りの樹木の枝にはモリアオガエルの卵塊が花ざかり。大雨が降った翌朝を狙って行ってみると本当に真っ白い花(いや、白い実かな)が咲いてるみたいです(写真6)

写真6 池の真上に花咲く卵塊

 

 H池を過ぎてさらに進むと左に分かれ道があり、その曲がり角にもう一つの造成池のSa池があります(図中の④、写真7)。こちらにも卵塊が見られますが数は少なく数個程度。全く見られない年もあります。

写真7 本丸の森内の池(Sa池)

 

 Sa池の曲がり角を曲がって森の外に出ましょう。坂を下ると正面に大きな復元城郭、五十間長屋と城門が現れますので建物を右に回り込むように歩いていきます。すると大きな芝生広場があって、復元城郭の際に水堀が作られています。これが二の丸内堀です(写真8)

写真8 二の丸内堀

 

 では、堀に沿って歩いていきましょう。最初は新しく作られた石垣と堀ですが、途中から江戸時代からの古い石垣と堀になり、堀端には桜の古木が並ぶ光景となります(図中の⑤、写真9)。

写真9 二の丸内堀の古い石垣区域

 

 ここからが再び卵塊が見られるゾーンです。数的にはこの二の丸内堀で最も多くの卵塊が見られ、石垣から生えた雑草上に産んでいるパターンが一番多いようです。サクラの枝先のやつがSNS的には最も映えますね(写真10)。

写真10 サクラの枝先に卵塊

 

 堀が途切れる場所まで行くと右手に公園管理事務所がありますが、その奥に新丸へ向かう道が出ています。こちらに向かいましょう。道をたどると階段に出て、下れば新丸広場です。広場と二の丸側石垣との間にある池(新丸湿生園)に沿って歩いていきます。すると、池の畔にこんもりした常緑樹の林が見えてきて、この林でも少ないながら卵塊が現れます(図中の⑥、写真11)。

写真11 新丸湿生園の樹林帯

 

 ここが最後の見どころ、以上で城内の卵塊ツアーは終了です。常緑樹の林に背を向けて、新丸広場の広い芝地の左奥方向にある黒門口から城を出ましょう(図中の⑦、写真12)。

写真12 黒門口から園外方向を見る

 

 黒門口はホテルが集中する金沢駅前から武蔵ヶ辻のあたりから最も近い出入口で、近江町市場もすぐ近くです。ゆるい坂を下ってまっすぐ5分も歩けば左側に市場の入口が見えますよ。

 

<今月のデータ 〜 金沢城公園のモリアオガエル繁殖状況2022>

 今年も見てきました。金沢城公園に棲むモリアオガエルの産卵状況です。2020年からの3年間のデータをとりまとめた表をご覧ください。

 


 今年はほぼ空梅雨だったせいか例年よりも卵塊の初確認日が遅く、確認数も少ない傾向でした。特に二の丸内堀のサクラの枝先で例年たくさん見られていた卵塊が今年は非常に少なかったように思います。この調査は2019年から始めてますので、ちょうどコロナの時期と重なっています。金沢では6月初めに百万石まつりという大きな祭りがありまして、金沢城公園の中でも様々なイベントが行われます。ところが、この3年間は祭り自体が自粛中止されていて、今年になってようやく再開になりました。2019年以前のデータがないのでなんとも言えませんが、暗くなるまで大騒ぎのイベントが突然また始まったことが彼らの産卵行動に影響を与えたんじゃないかな、とも邪推しております。それではモリアオガエル君、また来年の6月にお会いしましょう。

 

<いきもの写真館No.137 アカハライモリ

 金沢城公園の構内にある池にはアカハライモリがたくさん棲んでいます。モリアオガエルの繁殖に配慮しているためか魚はいません。イモリもオタマジャクシを食べるんでしょうが、コイのように大食じゃないですからさほど繁殖に影響ないんでしょうね。見た目の印象ですが、イモリの生息密度が一番高そうなのは本丸の森の中にあるSa池でした。写真はSa池の水中に向かって撮ったものです。この池の産卵数が少ないのはイモリが多いからなのかも。なお、今年になって初めて、二の丸内堀と新丸湿生園にカメがいるのを確認しました。たぶん誰かが放したミシシッピーアカミミガメじゃないかと思いますが、イモリよりもこいつらが増えたらカエルの繁殖に影響を与えそうでちょっと心配です。