生物技術者連絡会通信 2022年8月号

生物技術者連絡会通信 2022年8月号

 

<生物技術者のための名所案内〜畔田谷津

 筆者は家庭の都合で現在金沢市に住んでいますが、本来の自宅は千葉県佐倉市にあります。今のところ空き家状態なので月に1〜2回ほど戻ってメンテナンスしに行ってます。佐倉市には20年以上も住んできましたので、こちらの周囲でもどんな生物技術者向けの「名所」があるかかなり熟知しているつもりです。これまでは金沢市周辺の名所をご案内してきましたが今回は佐倉市にある名所、畔田谷津をご紹介しましょう。

 佐倉市の西部に位置する耕作放棄地や雑木林等の荒れ地を佐倉市が取得し、佐倉市西部自然公園として整備している地域の中に畔田谷津はあります。佐倉市の大部分を占める北総台地関東ローム層から成る低く広い台地で、その中を流れる河川により形成されたミミズ腫れのような谷間を谷津と呼びます。畔田谷津は公園整備地の中で最も大きな谷津で、ここでは佐倉市がボランティアを募って里山環境の保全管理を行うワークショップ活動を行っています。久しぶりに8月24日のよく晴れた午前中に行ってきました。以下、案内図に示したルートに沿って歩きます。所要時間は1時間ほどです。

畔田谷津の散歩コース図


 案内図中の★が出発点です。最寄り駅の京成電鉄ユーカリが丘駅からは徒歩30分ほど、車なら東関東自動車道の四街道ICを降りて15分といったところです。ここは小さな谷津の入口にあたる場所で、数台駐車できるスペースがあります(写真1)。

写真1 散歩コースの出発点です

 

 出発点から雑木林の斜面に沿って車道を歩くと、すぐに隣の大きな谷津の入口に着きます。これが畔田谷津で谷間には草原化した広大な耕作放棄地が広がっています(図の① 写真2)。写真の右側に見える雑木林の際に歩道が続いていますので、その道を入っていきます。

写真2 畔田谷津の全景。

 

 雑木林の木陰の下を歩いていると草原の中に幾つか、湛水した池が整備されているのが分かります。カエルや水生昆虫を誘致するのが目的のようで、一部では稲も植えられています。ここではニホンアカガエルやアズマヒキガエルシオカラトンボ等が見られます(図の② 写真3)。

写真3 池はボランティアの方々により良く整備されています

 

 目を雑木林の斜面側に向けると何やら赤い花が…夏の終りの里山を彩るキツネノカミソリですね(図の③ 写真4)。ここでは早春にはスミレやウラシマソウ、春にはキンランといった植物も見られます。

写真4 中央の道端にキツネノカミソリが咲いてます。

 

 雑木林の林縁部を辿る気持ちの良い道を15分ほど歩いていくと、やがて畔田谷津を横切る車道とぶつかります(図の④ 写真5)。ここからは車道を右折して森の中の緩い坂道を登っていきましょう。

写真5 車道に突き当たったら右折します。

 

 200mほどで坂を登りきれば森を抜けて道の両側に畑が広がってきます。道の左側にある畑の中には何故か複数の石碑が立ってます。庚申塚でしょうか。なかなか絵になってますねー(図の⑤ 写真6)。

写真6 塚の周りだけ耕してません。大事にされてますね。

 

 それからさらに100mほど進みますと右側の民家脇がT字路になってますので、ここを右折していきます(図の⑥ 写真7)。

写真7 民家の塀の角を右折します。

 

 この交差点、T字路に見えますが実は十字路になっていて、黄色い標語がある側からは歩道も出ています。歩道は竹林の中に伸びていてちょっと入ってみるとこんな感じ(写真8)。

写真8 京都じゃないですよ。佐倉です。

 

 まるで京都の嵐山みたいでなかなかSNS映えする風景ですね。

 さて右折して狭い道に入ると、ここからは北総台地における里山環境の原風景の中を行く、といった感じになります。森の中を少し進むと分かれ道があって右の道を進んでいきます(図の⑦ 写真9)。

写真9 正面の分かれ道を右折します。

 

 しかし、この正面の家がまたレトロ感満載。母屋なんか、横溝正史の映画に出てきそうなやつですよ(写真10)。

写真10 今も人が住んでいるのかしら?

 

 このあたり、古くから沼沢地だった谷津の中は水田、水の手が悪い台地の上は畑地、その間の斜面は雑木林として利用されてきました。この家はこの土地の農家として代々続いてきたんでしょうね。さらに進むと右側に耕作地が現れます(図の⑧ 写真11)。

写真11 栽培されてますが小規模。自家用の畑でしょうか。

 

 北総台地に点在する谷津と谷津の間は幅が狭く細長い尾根になっていて、尾根の上は狭いながらも平地になっています。耕作地の両側が森林になってますが、この森林の先は急斜面。狭い平地のところだけが耕作地になっているのがよく分かりますね。この辺りでは毎年サシバが飛来し繁殖しているらしく、春になると森の中や上空で鳴き声を盛んに聞くことができます。

 さらに進むと尾根先になって道は終わり。もとは耕作地だったところをグラウンドにしたようで、草がきれいに刈られて広場となっている場所に出ます。広場の隅に休憩所?のような木のベンチがありますので、ここで休憩しましょう(図の⑨ 写真12)。

写真12 広場では地元民が集まって何かやってるんでしょうね。

 

 広場の周辺は耕作放棄地になっているようで、座っていると周りに耕作地は見えません。来たときに見た農家さんの土地だと思いますが、今や耕作している場所はわずかです。いずれは台地の上も全く耕作地のない荒れ地になってしまいそうです。

 森を背にして広場に向いて座っていても、来た道の続きがどこなのかよく分かりません。正面の林縁におそらくエノキだと思いますが、巨樹といっていいような大きな木を見つけることができたら、その下から谷津に向かう道が出ています。広場を横切ってその道に向かいましょう。道は尾根の斜面に沿って畔田谷津の入口に向かって降りています(図の⑩ 写真13)。

写真13 道は森の中を谷津に向かって降りていきます。

 

 降りきって視界が開けたところが出発点です。ご苦労さまでした。

畔田谷津は特に早春から春にかけて里山の花が咲き乱れ、野鳥のさえずりが響き渡るベストシーズンになります。都心からも比較的近いので、お暇な時に一度いかがでしょうか。畔田谷津のワークショップ活動の詳細については以下をご覧ください。

https://www.city.sakura.lg.jp/soshiki/seikatsukankyoka/163/3368.html

 

<いきもの写真館No.139 アサギマダラ>


 畔田谷津を歩いていたときに、林縁部の木々を次々と渡っていくようにアサギマダラが飛んでいました。暗い林内ですが、たくさんの白斑と黒と茶色の表裏のコントラストがとても鮮やかで、遠くからでもすぐに分かりますね。飛び方もゆっくりですし。夏に北上し、秋には海を越えて南下する「渡りチョウ」として知られているアサギマダラ。台湾や南の島々へ2500キロ以上も移動する個体がいるそうですが、こいつもこれから南の海を渡っていこうとしているんでしょうか。

 

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