生物技術者連絡会通信 2022年12月号

生物技術者連絡会通信 202212月号

 

<生物技術者のための時事用語〜30 by 30>

 読みはサーティ・バイ・サーティ。2030年までに地球の陸域と海域の30%以上を自然保護区として守ろうという国際目標で、2021〜2022年に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択されたもの。全世界的に絶滅する生物が加速増大していることから、生物多様性の低減や喪失が懸念される現状を少しでも変えようということで提案された。保護コストと保護で得られる社会的・経済的価値のうち後者が上回る境目として30%の値が決定されている。英国等の各国のみならず公益団体、大企業からの参画も多数表明されており、環境省はこれのアピール資料と実現するためのロードマップをPDFで公開している。

https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/

 生物技術者の独り言:日本の自然保護区は現在、陸域が20.5%、海域が13.3%だそうでどちらも30%に達してません。この狭く住む人が多い日本、これ以上自然保護区を増やすことができるかというと、かなり厳しいというか無理なのでは。賢い環境省の方々は里山として知られる場所をOther Effective area-based Conservation Measures(OECM)という言わば「なんちゃって自然保護区」、少しよい言い方にすると「自然共生地区」ということで30%の中に入れちゃおうと画策しているようですが、果たして首尾よく行くでしょうか。里山をそのように区分けするのって、結構難しそうな気がするんですけどねえ。

 

<今月のデータ~ピットホールトラップで見るアリ相 その2>

 様々な環境や場所でやったピットホールトラップ捕獲結果からアリ相のみを抜き出したデータのご紹介第2回です。実施したピットホールトラップ調査の仕様は以下の通り。

・誘引餌は「すしのこ」を使用。「すしのこ」は食料品店ならどこでも売っているタマノイ酢株式会社製の粉末醸造酢です。一袋150円くらい。

・設置時間は基本的に48時間(調査期日でいうと3日間)、調査初日の午前中に設置して調査3日目の午前中に回収というスケジュールです。

・設置個数は1地点あたり10個。回収時に紛失があった場合は、回収できたトラップの総捕獲数を10個あたりの値に補正します。

・今回は捕獲数がものすごく多かったのでトラップ1個単位では5頭未満なら5頭、6~10頭なら10頭、11~50頭なら50頭、51~100頭なら100頭というように段階別にカウント、100頭以上では目視判断で100頭単位でカウントし、最終的に10個のカウント数を集計しました。


 千葉県内で実施した異なる環境2か所でのデータです。千葉市中央区の畑地と千葉県印旛村の水田で同時に実施した結果をまとめて一つの表にしました。トラップを設置した場所はどちらも畔際で10個を1mおきに直列に配置しました。

 

<いきもの写真館No.143 セグロセキレイ


 関東の首都圏ではすっかり姿を見なくなった鳥で、ハクセキレイとの識別が難しいと本にはよく書いてあります。なので、私が千葉県にいたときは上下に波打って飛びながら川を横切る鳥を見ると、ひょっとしてセグロセキレイ?とあわてて双眼鏡で追いかけていたものです。ところが金沢にきて初めて、私はセグロセキレイハクセキレイは声が全く違うんだということに気づきました。ハクセキレイはチチンチチンでセグロセキレイはジジッジジッとといいますが、姿はよく似ているのに声は全然別物。彼らは飛んでいるときに必ず声を出しますので、なーんだ双眼鏡なんかいらんかったんやと。繁殖期にはイソヒヨドリに負けないくらいの声量でさえずるのも大きな違いですね。金沢に来ると見られるのはほとんどセグロセキレイで、ハクセキレイは海岸周辺でしか見られません。近年では全国的にハクセキレイの分布が拡大してセグロセキレイは押しまくられていると聞きますが、ここ金沢ではいまだにセグロの天下という感じです。

 ちなみにかつて消毒屋だった私にとっては、ハクセキレイは重要な害鳥でした。建物の天井裏や空調・電気などの配管といった狭い空間に入り込んで営巣するので、換気障害や糞害といったトラブルを引き起こすからです。工場施設のような大きな建物ではスズメやムクドリなんかより被害事例が大きかったですね。

 

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yoshimori.murai@gmail.com  邑井良守(ムライ ヨシモリ)