生物技術者連絡会通信 2023年5月号

生物技術者連絡会通信 2023年5月号

<生物技術者が見た風景〜エナガの巣作り>

 春が来て、野鳥たちの繁殖季節になりました。この季節になるとどうやってカメラを持って野山へ出かける時間を作るか、ウズウズしますね。さっそく500ミリの望遠レンズをつけた愛用機を持って雑木林に出かけてみました。早春なら、歩いているとまとまった数のカラ群に出会うものですが、5月になるとはっきりした群は見られなくなり、森の中のあちこちでカラ類やコゲラエナガのテリトリーソングが聞こえてきます。もちろん、クロツグミキビタキアカハラ等の夏鳥たちの声も。

 歩いていると道端のスギの幹周りで何やらゴソゴソと音がしました。振り返ると幹に張り付くようにエナガが何かをつついています。カメラを向けて撮ってはみましたが2m位の至近距離です。画角をはみ出したかなと心配しましたが、ギリギリ収まってました。

 よく見ると何かくわえています。と言うか、幹周りにあるものを集めている感じ。どうやらクモの巣のようです。そういえば、エナガの巣はクモの糸のような細い繊維を丸く絡めて作られていたはず。こうやって集めているんですねー。きっと近くで巣を作っている最中なんでしょう。せっせと集めてる姿がとてもけなげに感じました。この森では今、探すとあちこちで同じ光景が見られるんでしょうね。

   

<有害動物の話①~大発生するタカラダニ>

 人間の生活空間の中で見られ、人間にとって不都合な様々な現象を生じさせる動物を有害動物と呼びます。どのような不都合な現象かというと、大まかに分けて次の三つです。

①人間を刺したり吸血するなどして直接危害を与える、もしくは有害な細菌やウィルスを持って伝染病や食中毒を媒介する。このようなタイプのものは一般に衛生動物と呼ばれます。

②人間が栽培飼育する農林畜産物に病気を伝搬させたり直接加害して利用価値を失わせる、もしくは食品や食材を加害したり汚染することで商品価値を失わせる。このようなタイプのものは一般に農業害虫もしくは食品害虫と呼ばれます。広義にはサルやシカといった害獣も含まれますね。

③その形状や大きさが人間にとって不快である、もしくは生活空間の中で大発生することにより強い不快感を生じせしめるもの。このようなものは不快動物と呼ばれます。

 ①と②については江戸時代の昔から存在が知られていて、衛生動物学とか医動物学、応用動物学などといった学問として成立してますが、③はつい最近、おそらくは戦後の経済成長期以降に認識されるようになったものです。そして有害動物の防除管理を生業とする消毒屋業界(衛生管理業界)にとっては、現在最もお金になっている対象が③の不快動物なのです。特に最近では、今まで気にも留めなかった動物が幾つも不快動物にされたり、いわゆる外来動物が不快動物化したりといった現象が増えていて、不快動物とされる動物リストがどんどん長くなってきています。このコーナーでは最近話題となった不快動物を中心に、有害動物の今についてご紹介していきましょう。第1回はタカラダニです。

 5月になると通常、消毒屋業界ではシロアリ駆除の仕事が書き入れ時になります。それは日本で最も被害の大きいヤマトシロアリの巣から羽アリが飛び出す時期だから。ところが最近では同時期にシロアリに負けないくらい問い合わせが多い虫があります。それがタカラダニ。問い合わせの内容はほぼ一致して「小さくて真っ赤な虫が周りにいっぱいいて建物の中にも入ってくる!」というやつです。写真の通り、本当に真っ赤です。

 問い合わせが来始めたのは私が会社に入ってからの1980年代以降で、急に増えてきた印象があります。虫ではなくクモの仲間なんですが、ダニにしては動きが早く5月になると全国のあちこちで建物の壁や屋上に大量に発生、目を凝らすと0.5mm位の大きさの赤い粒がゆっくりと蠢いているのがかなりシュール。虫の嫌いな方なら鳥肌たつのが必定という代物です。最初はこいつが何なのかさっぱりわからなかったんですが、最近になってようやく研究が進み正体が明らかになってきました。ダニというと動物に外部寄生して吸血する怖い動物という印象がありますが、これは地表を徘徊して微小な動物や花粉等を食べる捕食性のダニ。人に直接危害は与えません。冬になると全く見られませんので1年限り、それも5月から6月に限って成ダニが現れ、コケの間に産卵したら親は消失という生活環のようです。卵から孵化したダニは生きている限り常に移動しているようで、だいたい1時間に1m位の早さで発生場所から分散していきます。なので屋外で発生したものが建物内に侵入してくる事態も生じます。ただ、どこの現場でも発生は数週間で終息してますので分散できる距離はせいぜい20~30m程度でしょう。侵入できるのは建物

の外壁周辺にある部屋までじゃないでしょうか。右の写真にあるような老朽化したコンクリートの表面を好んで移動しツルツルの表面は移動できないようですので、建物の外壁沿いに界面活性剤液(石鹸水)を撒く、外壁のコンクリート面下部にエポキシ塗料を塗ってツルツル面にするといった対策をとると屋内への侵入を防げるみたいです。なお、殺虫剤ならピレスロイド系の薬剤を散布すれば効果ありますが、屋外ですから全くお勧めしません。

 

<いきもの写真館No.148 サンショウクイ

 サンショウクイは東南アジアから渡ってくる夏鳥ですが、高い木のそのまた上空を鳴きながら飛び回っていますので、なかなか姿をとらえることが難しい鳥です。しょっちゅう飛び回っていて、たまに止まるのは高い木の梢のてっぺん。だから撮影するのも難しい。枝の後ろに隠れていささか見づらいですが、私のスキルと装備ではこれで精いっぱいなのでご勘弁を。それにしてもヒリンヒリンという声はとてもよく通るので、いればすぐわかるはずですが関東の平地ではめったに聞いた覚えがありません。ところが金沢では市内の公園でもしょっちゅう声を聞きます。日本海側に多いのかしら?

 

このブログの内容に関するお問い合わせは以下にお願いします。

生物技術者連絡会 研究部会 邑井良守 yoshimori.murai@gmail.com