生物技術者連絡会通信 2026年10月号
<生物技術者のための専門用語集~バードバンディング>
10月の初め、長野県へ旅行へ行った際に知人から「近くでバンディングやってるから見に来ない?」というお誘いを受けまして、その現場を訪問してきました。バンディングというのは正確にはバードバンディングのことですが、さてそもそもバードバンディングとはなんでしょう。
バードバンディングとは、環境省が(公財)山階鳥類研究所への委託事業として実施している鳥類標識調査のことです。環境省の生物多様性センターHPから引用しますと「野生の鳥に個体識別のための足環などを装着して放鳥し、再捕獲や観察によって情報を収集、解析することによって、鳥類の渡りの実態や様々な生態を明らかにし、鳥類の保全施策やそのための国際協力の推進に役立てる調査」です。1924年から開始しているとのことですので、今年で開始から102年になるんですね。知人は山科鳥類研究所から認定された鳥類標識調査員(通称ではバンダーといいます)の一人なのです。バンダーは現在450名ほどがボランティアとして活動していて、全国に60か所ある観測調査ステーションと各地の許可されたフィールドで年間おおむね18日間の標識調査を実施しています。で、バンダーにはどうしたらなれるのか興味を持ったりしませんか?
それについては山階鳥類研究所HPのバードバンダーに関する記述を引用してみましょう。「バンダーは、鳥類の識別について十分な知識を持ち、鳥を安全に捕獲して放鳥する技術を身につけていることが必要です。バンダーになるには十分な訓練を積んだ後、山階鳥類研究所が実施するバンディング講習会に参加し、バンダーの資格があると認められなければなりません。認定を受けたバンダーは、毎年環境省へ鳥獣捕獲許可の申請をして許可を受け、それを携帯して調査をおこなっています。」以下2枚の写真は順に捕獲鳥への標識の取り付け作業、捕獲した小鳥を安全に放鳥するところです。


知人は国立の森林研究機関に属する調査研究員の指導を受けて訓練を積み、バンディング講習会に参加することによりバンダーになれたといいます。定年を迎えたサラリーマンで自然を愛している方々の多くはバードウォッチングの趣味に走っているようですが、バードバンダーを目指すという道に進む方がより鳥たちを守ることに貢献している気がして、その後の人生への満足感が出るんじゃないかなと思いました。全国に450人しかいないという希少感というか特別感も感じますしね。それで、訪問した調査現場の調査責任者(バンダー仲間では網場主と呼んでるみたいです)の方にこの仕事に関するご苦労について聞いてみたところ以下のようなコメントをいただきました。
「調査員の数が少ないので慢性的に人手不足。調査は2名で実施すると効率がいいのだが1名で調査することが多い。」
「カスミ網を使うので調査場所を見たハイカー等から不法捕獲しているとむちゃくちゃ怒られることがある。説明しても聞いてくれない。」
「なので、あまり人が来ない場所に調査地点を設定したいが、そういった条件に合った場所を見つけ出すのは難しい。」
「再捕獲することにより良いデータとなるのだが、実際には再捕獲される個体は全体の数パーセント。苦労が多いのにあまり報われない。」
「標識だけじゃなくGPS機器も使うとか高度な調査手法を導入したいがカネがない。小鳥相手なので技術的なハードルも高い。」
というわけで、定年過ぎて金もそこそこある。鳥が好きなんだが何かやりがいのある人生を送れることないかな?…と思っているあなた。バンダーになることに挑戦するのはいかがでしょう。
<今月のデータ~食品に混入しちゃう虫ワースト1:ノシメマダラメイガ>
今は年金生活ですが、以前は害虫の駆除を生業とする衛生管理会社(つまり消毒屋)に勤めていました。本社の研究部門に所属していた関係で、飼育していた虫を対象に様々な実験や調査をした記憶があります。職業上、工場や家庭で食品に混入して食品の中で増えてしまう虫には詳しくなってしまいましたので、混入事故を引き起こす害虫について少しご紹介しましょう。事故の原因となる虫は多数ありますが、その中でも事故件数が日本では際立って多い虫がいます。今回は他種をぶっちぎりの事故件数で引き離すワースト1の虫、ノメマダラメイガです。成虫はこんな虫です。

今は食品に虫が入る異物混入事故が起こってしまうとたちまちニュースとなり、工場なら製造を中止し製品を回収するといった大騒ぎになってしまいます。そのようなニュースは今では年に数件といったところですが、しかしこれは食品が店頭で売られたあとに消費者が発見し、しかるべきところ(たいていは消費者センターか保健所)に通報されて発覚した事例です。実際には食品の原料から見つかった、もしくは食品を製造中に見つけた、あるいはできた食品を検品中に見つけた等といったニュースにはならない事例がもっとたくさんあるのです。今はこのような事例についても事故の再発を防ぐため、混入事例が発見されたら直ちにどんな虫がどうして混入したかを調査して対策を施すシステムが法律等によって義務付けられています。それで、勤めていた会社ではそれらの調査事例を何年にも渡って集積してきたんですが、過去のある8年間に食品に混入したすべての事例を調べてみると断トツのトップが下表のとおり「マダラメイガ類」で、このグループのほとんど全てがこの虫です。まさしくワースト1です。

この虫は貯穀類(コメやムギ、大豆等)の大害虫として知られています。さらには干しブドウ等の乾果、小麦粉や米粉等の製粉、ビスケットといった製菓など、あらゆる食品に発生します。特に好きなのは粉末化した食品で、幼虫は粉末の中に潜り込み糸を出して粉末の中に繭を作ります。下の写真は幼虫です。

数ミリと小さい幼虫は餌であり住処でもある食品の中へ積極的に近づき、わずかな隙間をも通り抜けて入って行けます。このためコンビニで売られているサンドイッチや弁当を買って開けてみたら、包装やふたの隙間を通って入った幼虫がこんにちは…という事態になります。その侵入能力たるや恐るべきもので、高級洋菓子によくある丸い金属製の化粧箱のふたを閉めた状態でも幼虫が隙間から入れることが実験的に確かめられているほどです。さらに問題なのは、食品そのものの中に住みつきますので発見されたらその食品そのものを廃棄しなくてはならないこと。虫を駆除するだけではすまないということですね。
このように食品業界では最悪の虫なので、工場の防虫管理対策を請け負う消毒屋はこの虫が工場に住みついているか否かを成虫で確認できる特殊なトラップを使い、この虫が住みついている痕跡(幼虫が出す糸や幼虫の這跡等)がないか常時監視しています。聞いたことがない名前の虫だと思いますが、おぼえておくと良いですよ。
<いきもの写真館No.190 トチカガミ>

10月中旬に敦賀市の中池見湿地へ行ったところ、秋も深まってきているのにため池の水面に咲いていたので驚いて撮った1枚。トチカガミ科トチカガミ属の水生植物。東アジアが原産で日本へ来た帰化植物と考えられていますが、渡ってきた時期が有史以前なので法律でいうところの外来生物ではありません。現在は本州から南西諸島にかけて分布しています。水の中で生育する水生植物には根が水底の泥の中に入っているものと根も水中に浮かんでいるものとがあり、トチカガミは後者の浮葉植物。スイレンに似た葉の裏面中央の膨らみが浮き袋になっていてプカプカと浮きながら葉と根と茎が水面に広がっています。白い3枚の花弁を持つ花が1日だけ咲きます。昔は各地の池沼で見られましたが、水質汚濁とともに減少しているようで環境省レッドリストでは準絶滅危惧種(NT)になってます。
このブログの内容に関するお問い合わせは以下にお願いします。
生物技術者連絡会 邑井良守 yoshimori.murai@gmail.com













































