生物技術者連絡会通信 2024年8月号

生物技術者連絡会通信 2024年8月号

 

<生物技術者が見た風景〜真夏のサイクリングロードで生き物を探す> 

 真夏は暑い!と感じるのは人間だけでなく他の生き物たちも一緒。外に探しに出てもろくな生き物は見つからないでしょう...と思っていたら先月行った里山の森では結構いろいろな生き物が見つかって楽しかったです。なので、今度は車に自転車を積んで海岸べりに伸びるサイクリングロードを走ってみることにしました。行ったのは金沢から北に50キロほど走った先、能登半島にある「羽咋健民自転車道」です。出発点は石川県羽咋市の「休暇村能登千里浜」の駐車場。この駐車場の横を自転車道を通っているので、着いたらすぐにサイクリング開始。写真のような道を北に向かって走ります。


 この道を3キロほど走ると集落を抜けて左側に日本海が広がる海岸沿いに道が伸びていくようになります。


 この自転車道は昭和30年代まであった鉄道の廃線跡を辿っていまして、さぞかし昔は列車の窓からの景色が良かったでしょうね。さて、この海沿いの道を走り始めてほどなく、道端にゴソゴソ動くものを発見しました。自転車を止めて見てみると...


 アカテガニでした。夏になると山から降りてきて海で産卵するカニです。産卵のときは大挙してたくさんの個体が道を横切っていくはずですが、1頭しかいませんので産卵が終わった後に帰りそびれたヤツでしょうか。カニから目線を離して、ふと上を見ると花が2種類咲いてます。


 カワラナデシコ(上の写真)とツリガネニンジン(下の写真)ですね。これらの写真撮っていたら、上空をミサゴが通過していきました。「魚いないかな~」と下を向きながら首をしきりに動かしてます。自転車を漕ぎ出してさらに進んでいくと、滝崎灯台が見えて岬の突端に来たことがわかります。


 灌木が生い茂ってトンネル状になっているところはヒリヒリする日射から逃げられる良い休憩場所ですね。この岬周辺でも道端でゴソゴソしてましたので見たらアカテガニじゃなく、こちらはクロベンケイガニでした。


 このカニは数がいっぱいいて、道端の土面に穴を掘ったり蛇籠石の隙間を出たり入ったりしてました。さっきのように花あるかなと上を見ると、あったのはホタルブクロです。


 岬を回って進むと集落があり、海に突き出た島も見えてきました。


 この集落は柴垣集落といって、島の名前は長手島といいます。この島から向こうの北側からは砂浜がずっと続きます。石川県では柴垣は海水浴場として有名で、例年なら8月は海水浴客で賑やか...なんですが今年は地震のせいでさっぱり。砂浜を見ても数えるほどしかいませんでした。賑やかだったらサイクリングロードを外れて砂浜に寄るのはちょっとはばかられますが、静かなのでちょっと行ってみました。


 実はこの砂浜、日本ではここと南九州の2か所でしか見つかっていない虫、イカリモンハンミョウの生息地なんです。こんな虫です。


 絶滅危惧種なんですが、この砂浜では至るところにいますので8月までは簡単に見つけることができます。砂浜の波打ち際にはカニ穴がいっぱい開いていて、小さなカニが出入りしていましが種類はわかりませんでした。

 砂浜からサイクリングロードに戻り、さらに北に進みます。道は松林の中をまっすぐ通っていて、やがて海側にキャンプ場が見えてきます。


 キャンプ場を過ぎたら林が切れて再び見通しが良くなります。小さな川を渡る橋から海側を見ると砂浜がずっと続いているのがわかりますね。


 また砂浜に行こうかなあと思いながら自転車を漕いでも浜に降りる道はなく、がっかりしてたら道端に赤い鮮やかな花を見つけました。


 ハマナスですね。夏の砂浜といえばこの花でしょう。でも、8月中旬だと盛りを過ぎてましたので、花はしぼみ気味のものが一輪あるだけでした。6月ならこんな感じなんですけどね。


 海を左に見ながら開けた環境の中をまっすぐ通るサイクリングロードを数キロ進むと突然、大きな街にたどり着きます。ここが志賀町の中心地の高浜というところで、今回の終点です。街中にある道の駅で一服して再び来た道を戻りました。片道12キロの往復24キロ。ときどき止まりながら、寄り道しながらゆっくり走って4時間弱の旅でした。そうそう、この旅では日焼け止めクリームは必須ですよ。こいつを無しにしたら一皮むけること確実です。日本海からわたってくる風は涼しく、天然のクーラーのようで晴れていても暑さはあまり気になりませんでした。

 

<いきもの写真館No.163 アカテガニとクロベンケイガニ>


 サイクリングロードで2種のカニを見たと書きましたが写真のこの2種、日本の海岸沿いでは比較的普通に分布していて多くの場所では同所的に生息しています。ですが、この2種は生態が全く違います。アカテガニは海岸から離れた森林内に穴を掘って生活し、夏の繁殖期(だいたい8月)になると一斉に海岸に移動して海中に産卵します。対してクロベンケイガニは海岸沿いの土面に掘った穴や石垣の間等に潜んで、終生海岸から離れません。なのでアカテガニは海岸の後背地に森林がないと生息できませんが、クロベンケイガニは海岸の後背地に森林がなくても生息が可能です。いや、むしろ住宅地や工業地帯だと餌資源に困らないので海岸が石垣の護岸だったら生息には最適な環境になりますね。私は九州の大きな都市の海岸べりにある食肉工場の敷地内で何千頭ものクロベンケイガニが歩いている光景を見たことがあります。工場内にある屠畜場に集まって家畜の糞を餌にしていたようですが、これを見たら当分カニを食う気がなくなっちゃいましたね。

 

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