生物技術者連絡会通信 2021年5月号

生物技術者連絡会通信 2021年5月号

 

<生物技術者が見た風景 福井県大野市のイトヨ生息地>

 ここのところ、遠出するのが難しくなっています。特に北陸地方を出て関東や関西といった太平洋側に向かうのは、かなりはばかられる状況になっています。なので、今月は福井県大野市にあるイトヨ生息地に行ってきました。国指定の天然記念物に指定されている場所です。魚に詳しくない人(私もそうですが)に説明しますと、イトヨ(正しくはニホンイトヨ)は体長が10㎝弱の淡水魚できれいな湧水が出る川や池に生息し、生息環境の激減により近年は希少種となっています。この魚は本来は海と川を行き来する遡河回遊性ですが、湧水池に生息する一部の個体群が陸封型になっていて、この陸封型の生息地3か所(福島県と栃木県、それにここ福井県)が天然記念物となっているわけです。

 JR福井駅から超ローカル線の九頭竜湖線(越美北線)に乗って越前大野駅へ。駅からは南西方向に向かって1200mほど歩くと生息地につきます。

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水面には鳥よけネットが張られています

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左側の建物はビジターセンター

 正直、のどかな溜め池が広がっている場所かなと思っていたのですが、いやなんとも観光地?になってました。ビジターセンターというりっぱな箱ものもございます。なんと、所在する町名も糸魚町(いとよまち)です。生息地となっている池は元々生活用の湧水を溜める池だったようですが、今は湧水量が減りくみ上げた水を溜めているとのこと。で、肝心のイトヨは見つかるかしら…心配していたんですが杞憂でした。ちょうど繁殖期だったからか水面近くのあちこちで見つけることができました。

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写真中央の水中で、まるで浮かんでいるよう

 水面の多くが藻に覆われていますが、その間の水中にピタッと静止して動きません。湧水の流れの中で胸鰭や尾鰭を器用に動かして完全に静止しているようです。まるで、雲間に浮かんでいる飛行船みたい。いや、潜水艦か。ところがじっと見ていると突然猛スピードで雲間、じゃない藻の中に消えて、しばらくするとまた同じ位置に猛スピードで戻ってきます。こりゃ飛行船でも潜水艦でもないや。葉巻型UFOですね。実に独特な動きです。たぶん縄張りの中心で見張っていて、侵入した他個体を見つけたら突進してるんでしょうね。中に「イトヨせんべい」とか売ってそうで、見たらげんなりしそうな気がしたので、建物には入らず動きを堪能したあとそのまま帰りました。

 

<今月のデータ 〜 海を望む渡り鳥の交差点続編>

 健民海浜公園で見られる鳥の話を前回しましたが、その続編を。行くたびに観察種が増えていくのが楽しくて、結局4月から5月にかけて6回も公園を訪れてしまいました。前回紹介した観察リストもずいぶん長くなりましたので、改めてご紹介します。

1.キジ目キジ科 キジ

2.ガンカモ目カモ科 カルガモ

3.ハト目ハト科 キジバト

4.カツオドリ目ウ科 カワウ

5.ペリカン目サギ科 アオサギ

6.ペリカン目サギ科 チュウサギ

7.カッコウカッコウ科 ジュウイチ

8.タカ目ミサゴ科 ミサゴ

9.タカ目タカ科 トビ

10.ハヤブサハヤブサ科 ハヤブサ

11.キツツキ目キツツキ科 アカゲラ

12.キツツキ目キツツキ科 コゲラ

13.スズメ目サンショウクイ科 サンショウクイ

14.スズメ目カラス科 オナガ

15.スズメ目カラス科 ハシボソガラス

16.スズメ目シジュウカラ科 ヤマガラ

17.スズメ目シジュウカラ科 シジュウカラ

18.スズメ目ツバメ科 ツバメ

19.スズメ目ヒヨドリ科 ヒヨドリ

20.スズメ目ウグイス科 ウグイス

20.スズメ目ウグイス科 ヤブサメ

21.スズメ目クシクイ科 メボソムシクイ

22.スズメ目クシクイ科 エゾムシクイ

23.スズメ目クシクイ科 センダイムシクイ

24.スズメ目メジロ科 メジロ

25.スズメ目センニュウ科 エゾセンニュウ

26.スズメ目ヨシキリ科 オオヨシキリ

27.スズメ目ムクドリ科 ムクドリ

28.スズメ目ムクドリ科 コムクドリ

29.スズメ目ヒタキ科 トラツグミ

30.スズメ目ヒタキ科 クロツグミ

31.スズメ目ヒタキ科 シロハラ

32.スズメ目ヒタキ科 アカハラ

33.スズメ目ヒタキ科 ツグミ

34.スズメ目ヒタキ科 コマドリ

35.スズメ目ヒタキ科 ルリビタキ

36.スズメ目ヒタキ科 ジョウビタキ

37.スズメ目ヒタキ科 イソヒヨドリ

38.スズメ目ヒタキ科 コサメビタキ

39.スズメ目ヒタキ科 キビタキ

40.スズメ目ヒタキ科 オオルリ

41.スズメ目スズメ科 スズメ

42.スズメ目セキレイ科 ハクセキレイ

43.スズメ目アトリ科 カワラヒワ

44.スズメ目アトリ科 イカ

45.スズメ目ホオジロ科 ホオジロ

46.スズメ目ホオジロ科 ミヤマホオジロ

47.スズメ目ホオジロ科 アオジ

48.スズメ目ホオジロ科 クロジ

※掲載順と表記は鳥学会の日本産鳥類目録第7版に拠っています。

 

 結局、観察できた種類は合計48種でした。まあ、春の渡り時期にはこのくらい見ることができますということで。実際には公園の敷地内でも海岸砂浜や河川沿岸、芝生整備地域等は対象外で、公園周辺の水域も見に行かず、純粋に森の中とその上空だけで観察できた種類数になります。真面目に全部の環境を網羅したら70種くらいはいってたんじゃないでしょうか。ちなみに、今までに観察された鳥たちを紹介しているサイトでは年間で70種くらいが掲載されています。

http://kenminkouen.com/bird/index.html

そうそう、来月もこの公園に何回か来る予定ですが、お目当ては空じゃなくて地面にします。アカテガニの繁殖期なので、きっと見事な行進が見られることでしょう。5月25日にはもうチラホラ、歩いている姿を見ることができましたよ。

 

<いきもの写真館No.122 ミヤマカタバミ

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 カタバミといえばクローバーそっくりの葉で、どこの庭でも生えている黄色い花。花というよりもほぼ雑草扱いの植物ですが、こちらは山林で白い花を咲かせます。カタバミよりはやや大きく薄暗く暗い林床でひっそりと咲いてますので、ずっと高貴な感じがします。暗い森の中では白い花はとっても目立ちますね。花期は3月から4月ごろ。撮ったのは4月で写真では花が閉じた形になってますが、カタバミは花が開かず、花が閉じた状態のまま自家受粉し結実することがあります。閉鎖花というんだそうで。

 

この記事に関する問い合わせは以下にお願いします。

yoshimori.murai@gmail.com  邑井良守(ムライ ヨシモリ)