生物技術者連絡会通信 2021年4月号

生物技術者連絡会通信 2021年4月号

 

<今月のデータ 〜 海を望む渡り鳥の交差点>

 今月の下旬、4日間ほど金沢市内にある健民海浜公園へバードウォッチングに行ってきました。クロマツ林を後背とする砂浜海岸と犀川河口に挟まれた砂洲状の環境に造成された約47haの広さの公園緑地です。

f:id:jfbn:20210428141748j:plain

中央の緑地が健民海浜公園です

 ここは戦前は陸軍省の所有する演習場として利用されていた場所で、戦後に金沢市有地となり、1971年に石川県の県政百周年記念事業として公園整備されました。公園の大部分、30ha以上が自然林に近い環境で、その中には密林や疎林、渓谷林といった変化に富む環境が整備されています。この場所、鳥好きの方々には結構有名なところでバードウォッチャーの間では「普正寺の森」の名で通ってたりします。平野部の海岸に面して存在し、且つ鳥の休息に適する広い森があるという環境は日本海側でもそう多くはありませんので、海を越えて渡ってくる鳥たちが集まる「交差点」となっているのですね。じゃあ、どのくらい集まっているのか調べてみようか、ということで今回行ってきました。

 公園の中に1kmくらいのセンサスルートを設定し、日の出30分後あたりから観察幅を左右各25mとしてセンサスを実施。3回繰り返して平均値を出してみました。そして、同様の方法で実施した他の場所のデータと比較してみました。結果を表にしましたのでご覧ください。

 

       ルートセンサスによる調査結果

f:id:jfbn:20210428143202j:plain

 ここで比較している場所の「平栗いこいの森」は健民海浜公園から内陸に向かって12km離れた位置の山間部にある、自然林を中心に管理整備されている区域です。春になると林床にカタクリが咲きギフチョウも飛ぶすてきな場所です。ここでの結果は時期が4月上旬だったということもあり、観察種のほとんどが留鳥になってます。健民海浜公園の方は留鳥と冬鳥、夏鳥が入り乱れて観察種が倍近く、とても賑やかなというか、混乱するような状況になってますね。ここで見ている夏鳥の幾つかが、数日後には「平栗いこいの森」で見られることになるということなんでしょうか。健民海浜公園には昔、野鳥園が設けられていたんですが、そんなものなくても今でもリアル野鳥園という感じです。野鳥の識別能力を高めたいと思ってる方、この時期に来るとおすすめですよ。この時期の渡り鳥はあまり鳴かないし、たくさんの種類が高密度に藪の中や暗い歩道上ををごそごそと動き回っている場面に出くわすことが多いです。なので、識別するのが実に難しい。識別能力のスキルが鍛えられること請け合いです。

 

 最後に、4月下旬の4日間で出会った鳥たちのリストを以下に記しておきますね。確かだと思われるものだけで、本当はもっと種類がいたような気がしますけど。海岸沿いなので水鳥もたくさんいますが、ここでは割愛してます。

・トビ:留鳥。金沢にはいっぱいいます。

・ミサゴ:冬鳥でしょう。冬には街中でも飛んでいる姿を見かけます。

ハヤブサ留鳥。海岸沿いでは冬によく見ます。

・キジ:留鳥。公園内で繁殖しています。

キジバト留鳥。公園内で繁殖しています。

アカゲラ留鳥。たぶん公園内で繁殖しています。

コゲラ留鳥。公園内で繁殖しています。

・ツバメ:夏鳥。公園内は営巣可能な場所があまりないので採餌場?

ヒヨドリ留鳥。公園内で繁殖しています。

コマドリ夏鳥。通過中ですがきっちり囀ってました。

ジョウビタキ:冬鳥。通過中と思われる群が地面で採餌してました。

ルリビタキ:ここでは冬鳥?。森林内の歩道上を歩いてます。

イソヒヨドリ留鳥。たぶん公園内で繁殖しています。

アカハラ夏鳥。声量弱いですがさえずりが聞こえました。練習中?

クロツグミ夏鳥。観察できる個体がかなり多く囀ってもいます。

シロハラ:冬鳥。森林内の歩道脇で見られます。

ツグミ:冬鳥。通過中と思われる群が飛び回ってました。

・ウグイス:留鳥。たぶん公園内で繁殖しています。

・エゾムシクイ:夏鳥。通過中ですがきっちり囀ってました。

オオルリ夏鳥。道路脇の枝先で囀ってました。練習中?

コサメビタキ夏鳥。通過中と思われる群が地面で採餌してました。

シジュウカラ留鳥。公園内で繁殖しています。

メジロ留鳥。公園内で繁殖しています。

ホオジロ留鳥。公園内で繁殖しています。

・ミヤマホオジロ:冬鳥。森林内の歩道脇で見られます。

アオジ:冬鳥かな?この時期群をなして地面で採餌してました。

・クロジ:ここでは冬鳥?。群が地面で採餌してました。

カワラヒワ留鳥。公園内で繁殖しています。

ハシボソガラス留鳥。公園内で繁殖しています。

 

 以上、観察できた29種のうち14種が留鳥、8種が冬鳥で7種が夏鳥でした。見た鳥の半分が渡り鳥だったわけです。ちなみに3月には、ヒレンジャクやアトリ、ウソなんかもここで観察してます。種によって渡りの時期に多少ずれがあるのかしら?

ご参考までに、今までに観察された鳥たちを紹介しているサイトはこちらです。⇒ http://kenminkouen.com/bird/index.html

 

<いきもの写真館No.120 アオジとクロジ>

 ここでは「海を望む渡り鳥の交差点」で4月に出会った渡り鳥たちから2種類をご紹介します。名前は似てますが「お馴染み感」となると全然違いますね。クロジは普通、山の中で見つかる鳥だと私は思ってますので海岸べりで、それも群で見るというのはどうにも違和感がありますね。

f:id:jfbn:20210422190420j:plain

アオジ

f:id:jfbn:20210422183953j:plain

クロジ

 

<いきもの写真館No.121 クマガイソウ>

 今月号も2連発で。2020年5月号でもご紹介してますが、そのときは花がしぼんでしまってました。お約束した通り、リベンジマッチということで今月きれいに咲いているところを撮ってきました。

f:id:jfbn:20210416191119j:plain

林の中で数十株が咲いていました

 <お知らせ>

 メーリングリストでの配信からブログ配信に移行しましたので、表題を「生物技術者連絡会メーリングリスト通信」から「生物技術者連絡会通信」に改めました。遅ればせながら。

 

この記事に関する問い合わせは以下にお願いします。

yoshimori.murai@gmail.com  邑井良守(ムライ ヨシモリ)