生物技術者連絡会通信 2024年2月号

生物技術者連絡会通信 2024年2月号

 

<生物技術者が見た風景〜早春に里山を歩く>

 そろそろ野山の生きものたちに会いたくなってきたので、まだまだ冬枯れ状態の里山に行ってきました。普段住んでいる金沢市周辺は雪の中ですから行ったのは佐倉市にある畔田谷津です。2月下旬じゃあ鳥以外に生きものなんか見つかんないだろうと思ったあなた、いやいやこの時期になると森から耕作放棄地となった草原のあちこちにできた水たまりを目指して降りてくる奴がいるんですよ。畔田谷津ではボランティアの方々が小規模な湛水田を作っていて、そこが狙い目。水たまりの中を目を凝らして探していると…ありました!


 この水に浮かんでいるのが奴が来たシルシ、つまりニホンアカガエルの卵隗です。このカエル、天敵がいない2月の厳寒期に繁殖しにきて、産卵が終わったらまた森に帰って春まで寝てます。里山に棲む両生爬虫類の中では、年が変わって活動を始めるトップバッターなのですね。平野部にある畔田谷津にはニホンアカガエルしか棲んでいないようですが、山岳部に近い環境では同じように活動するヤマアカガエルという近縁種がいて、場所によっては両方棲んでいるところもあるようです。日中はまず姿を見ることができないうえに姿もそっくりなこの2種、水たまりに残す卵隗の形で見分けられるらしいんですが、さてどうでしょう。写真で比べてみましょうか。ヤマアカガエルの卵隗はこちら。


 ニホンアカガエルの卵隗は小さくキュッとまとまった形で、ヤマアカガエルはまとまっているけどだらしなく広がった形だということだそうですが。言われてみればそうかも。里山の水たまりにはアカガエル類が先手を切り、続いて1月と間を置かずヒキガエル類が続き、それから春以降はアマガエルやアオガエル類、ツチガエル、ダルマガエル等が堰を切ったように押し寄せてきます。カエル好きにはこれからがたまらない時期なんですよね。

 

<今月のデータ~カラスの生息状況を調査する④>

 今回は被害をどうやって防いでいくかという話になります。被害を防ぐ対策としては大きくカラスの数を減らす(捕獲減数)、カラスが来ないようにする(接近忌避)、カラスが棲めない環境を作る(環境整備)の三つの方法がありますが、いずれもメリットとデメリットがありますので基本的には三つの対策を組み合わせて計画を立案していきます。このときに必要になるのが調査で得られたデータで、カラスの種類やカラスが夜に寝る場所(ねぐら)、巣をかける場所、それに定点センサスにより推定できるカラスの日周行動パターンといったものです。最後の日周行動パターンを渥美半島の調査で推定した図をご紹介しましょう。


 この日周行動パターンを知るということは対策する上で結構重要です。例えば捕獲減数を試みるなら、捕獲箱を置く場所は彼らが毎日餌場として利用している場所に置かなくてはなりません。また、被害を起こしている群が近くにねぐらをとっている群と同一なら捕獲減数の効果が見込めますが、遠方からやってくる群であった場合は効果が見込めないかもしれません。今までの筆者の経験からいうとカラスの鳥害対策は上記の三つの対策のうち環境整備がもっとも重要で、緊急を要す対策であれば捕獲減数も必要、接近忌避は限られた場面でのみ実施を考慮する、という感じではないかと考えています。環境整備というのは、つまりは餌資源の除去ということで12月号の②で東京都の事例を紹介してます。ここからは捕獲減数の主要な手段である捕獲箱についてご紹介しましょう。実際に設置された場所の写真と寸法が入った図面をご覧ください。


 この捕獲箱、オーストラリアで開発されたものでオーストラリアン・クロウトラップと呼ばれることもあります。残念ながら市販品はありません。DIYに凝っている方なら自作できるかと思いますが、通常は大工さんに制作を依頼しています。写真には箱の中に2羽カラスが見えますが、実はこれは囮(おとり)として設置時に入れておいた個体です。囮を入れておかないと捕獲成績が悪いことが知られています。通常は1週間に1回、点検作業で捕獲個体を回収し、同時に箱の内部を消毒清掃します。箱にかかっている書類のような紙は有害鳥獣駆除申請の許可証で、設置期間と捕獲予定羽数、設置者名と連絡先等が書かれています。カラスとはいえ自治体に駆除申請を出して許可を得ないと捕獲や除去はできませんからね。念のため。最後に、巣の撤去作業についてデータのみご紹介してこのシリーズを終わりにしましょう。東京都である年の5月9日から6月13日までの期間でどのくらい巣と卵・ヒナを除去したかというデータです。

 

           カラス営巣除去作業実績

 

         作業出動件数     515件

         巣除去個数      473個

         卵・ヒナ除去数  1202個・頭

 

 もしこのような作業をやってみたいという方がいればご注意を一つ。カラスも巣を守ろうと必死ですから、作業時に見舞われる攻撃にはそれはそれは忍耐が必要です。高所での作業でもありますし相当危険な作業であることをお忘れなく。

 

<いきもの写真館No.157 ノスリ


 川沿いに散歩していたところ河川敷の雑木にとまっているのに気づき、撮ってみました。飛んだところも1枚。とまっているだけではトビと見分けがつきませんが、飛んだら下面が白っぽくて翼の黒い部分が目立つのでノスリと分かります。冬になると山から降りてきて田畑の際や河川敷にある冬枯れの雑木にとまっている個体を平野部のあちこちで見るんですが、なにしろ色彩がトビと変わらないのでトビだと勘違いしている人がきっと多いんだろうなと思います。ネズミが大好きで草が生えていない冬の畑地の上空スレスレを飛びながら餌を探す姿が「馬糞でも食ってるのか」と思わせることと、そこらじゅうに転がっている馬糞くらいたくさんみられることからマグソタカと呼ぶところもありますね。

 

 このブログの内容に関するお問い合わせは以下にお願いします。

生物技術者連絡会 研究部会 邑井良守 yoshimori.murai@gmail.com