生物技術者連絡会通信 2023年11月号

生物技術者連絡会通信 2023年11月号

 

<生物技術者が見た風景〜冬鳥がやってきた>

 冬になると金沢市の三分の二を占める山岳部にはたくさんの雪が積もり、夏には賑やかだった鳥たちはすっかりいなくなります。対して平野部の湖沼や海岸には水鳥がたくさんやって来て、森には南に渡り去る途中の渡り鳥たちが見られるようになります。そんなわけで、今年もさっそく彼らを探しに出かけてみました。まずは街の郊外に広がる広大な水田を海側に沿って走ってみます。どの道からも100m以上は離れることができるくらいの広大な水田の中ならハクチョウたちが安心して休息できるんですが…ああ、いました。

 いるのはだいたいコハクチョウのようですね。水田の中でも冬でも水が溜まっている場所を選んで集まっているようです。続いて、金沢市の北部にある「河北潟野鳥観察舎」というところに行ってみましょう。河北潟日本海に面して存在する大きな汽水湖でしたが干拓工事によって多くの面積が農地となり、残存した湖面は淡水化されました。その残存湖面に面して施設が設けられています。さて、どうでしょう…水鳥たち、来てますねー。

 マガモコガモハシビロガモが多く、あとはオナガガモヨシガモトモエガモといったところでしょうか。例年なら千羽を軽く超える水鳥がやって来ますので数的にはまだまだのような気がします。これからどんどん増えていくんでしょうね、きっと。

 

<今月のデータ~カラスの生息状況を調査する①>

ハシブトガラスの巣です

 

 冬になるとカラスの群れが大きくなり、日没時には数百から数千羽がかたまって上空を飛んでいくのがよく話題になります。日本では1980年代、バブル景気のころから増えたカラスが目立つようになり、2000年代に入るころには大都会で生ゴミを漁ったり通行人を襲ったりする被害やたくさん集まって不気味という苦情が問題となりました。そして一体どのくらいのカラスがいるのか、なぜ増えたのか、減らすにはどうしたら良いかを知ることが迫られたのです。私がいた会社でもこの時期にそのような要請が増え、様々な調査を行い対策を検討して実際に駆除対策を実行、効果があったかの検討を行ってきました。今、首都圏ではそのような被害も落ち着いたように見えますが、近年では大都会ではなく大都市圏の郊外、地方都市で被害が顕在化しつつあります。つまりカラス被害の「ドーナツ化現象」が起こっているのですね。これからは大都市郊外や地方都市での対策策定と実践が求められていくような気がしますので、今まで培ってきた調査技術やそれで知りえた知見について、このコラムで複数回に渡りご紹介していきます。まずは東京都が2001年から5~6年に渡って実施した大がかりな防除対策事例について紹介しましょう。

 東京都、特に都区内では1990年代の後半から増えたカラスが目立つようになり、明治神宮新宿御苑、上野の森といった都区内にある大規模緑地に冬場になると大群が集まってくることが問題となりました。そこでその原因を探るべくいろいろと調査した結果、次のようなことがわかりました。

 

※問題を起こしているカラスはもともとは森林に生息していたハシブトガラスである。

※町でも普通に見られるハシブトガラスハシボソガラスは営巣期を過ぎると冬に向かって小群から中群、さらに大群へと徐々に集合し、最終的には数千から数万に及ぶ大群を形成して冬ねぐらで越冬する。

※カラスが冬ねぐらとして利用する緑地は常緑樹林で、夜間には人通りがない比較的大規模な森である。都区内では明治神宮の他7〜8か所を確認。

※冬ねぐらのカラスは早朝に採餌のため採餌場(繁華街のゴミ集積場、東京湾のゴミ埋立地、卸売市場など)へ移動、日中は芝地や海岸などで休息した後、日没時にねぐらへ戻る。

 

 この結果を受けて、当時の石原都知事は大規模な予算を投入して2001年よりカラス対策事業を開始したのでした。当時は「カラス退治に大金を投じるのか」とさんざんに言われてましたね。その事業内容の詳細については次回お話しするとして、ここではその結果がどうなったかをデータで示してみましょう。

 グラフで示した数値は冬ねぐらとして確認された緑地の周りに複数の調査員を配置、日没時にねぐら入りする個体を全方向から数えて集計し、生息数としているものです。平成13年(図ではH13と表記,2001年)以降は唐沢孝一先生主宰の都市鳥研究会によりカウントされた数値で東京都環境局のHPにあるデータですが、ここではそれ以前の異なる調査方法でのデータも加えています。ちなみに、私も平成17年(2005年)にこの調査員として加わったことがあります。平成13年(2001年)の事業開始年には約36000羽だった生息数が平成17年(2005年)には約18000羽に半減、最新の令和4年(2023年)では約8700羽と、4分の1に減ってますね。「昔は多かったのに少なくなったね」という印象はこれで裏付けされているんじゃないでしょうか。

 ということで今回はここまで。冬場は生き物がらみのネタが少なくなりますので、来年の2月まではこのコラムを続けますね。  

 

<いきもの写真館No.154 チュウヒ>

 先日、金沢から一時間ほど車を走らせたところにある「片野鴨池」に行ってきました。石川県内では冬鳥が集まることで有名な場所で、ラムサール条約の指定地にもなっています。午前遅くに行ったのでねぐらをとっていた多くの冬鳥はエサ取りに出かけて見られる鳥の数はそれほど多くなかったのですが、それでも数百羽のガンカモがいました。ここではマガンやヒシクイをたくさん見ることができます。ミサゴやオジロワシといった大型の猛禽もやってきますので、いないかなあと一時間ほども見ていたところ繰り返し姿を見せてくれたのがこのチュウヒです。広大なヨシ原の上で低く飛ぶ姿を見ることが多い鳥ですが、ここでは狭い池の上を淵沿いに低く飛んでいます。おかげで飛んでいる姿をバッチリ撮ることができました。雄だったらもっと綺麗だったんですけどね。レンジャーさんが言うには、今年の冬はこの池に3個体がやってきてるんだそうです。

 

 このブログの内容に関するお問い合わせは以下にお願いします。

生物技術者連絡会 研究部会 邑井良守 yoshimori.murai@gmail.com