生物技術者連絡会通信 2021年7月号

生物技術者連絡会通信 2021年7月号

 

<生物技術者が見た風景 山野に還る廃線鉄道>

 私、生物技術者の端くれであるとともに、鉄道好きでもあります。鉄道好きにはいろいろなバリエーションがあることはご存じかと思いますが、私の場合は「乗り鉄」の「廃鉄」。私が生まれた場所は能登半島の超田舎で、子供のころに廃止されたローカル線が通っていたこともあって、特に鉄道の廃線跡にはノスタルジーをグッと感じます。ここでは生物技術者での廃線跡の見方も加えて、かつて能登半島に走っていた鉄道の廃線跡を二つほどご紹介します。紹介するのは「のと鉄道能登線」の廃線跡です。この鉄道は2005年に廃止されましたが、レールは撤去されたもののその他はほとんど走っていた当時のまま残ってます。超過疎地ですので別の用途にも転換されず、ほったらかしのままなのですね。なので、16年経つと植生的にどう変わっていっているか(遷移しているか)を見ることができるのです。

 

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 ということで、一つ目は平野の田んぼ脇を走っていた線路上の駅跡、旧甲(かぶと)駅です。プラットホームと待合室、屋根が設けられた場所(上屋)が見えますが、線路があったところもホーム上も深い雑草に覆われてます。手前の道際が草丈低く、ここだけは毎年除草しているみたいですね。きっと、私のような廃線跡マニアが結構来るので便宜を図っているのでしょう。ここ、車でしか来れないので。撮影方向の反対側には立派な駅舎が残ってました。生えている雑草のほぼ全てがイネ科雑草ですね。クズ等のつる性雑草も見えます。畑が放棄されると数年でイネ科雑草がはびこります。その状態と全く同じですね。

 

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 二つ目は山林の林縁部沿いを走っていた線路上の駅跡、旧羽根(はね)駅です。こちらはホーム上に草は生えていないようですが、プラットホームが土盛りじゃなくコンクリート板だからですね。線路があった地面はイネ科雑草やクズ、アカメガシワ等の雑木に覆われて全く見えなくなっています。また山林側の斜面には待合室の軒先くらいの高さまでコンクリート腰壁がありますが、斜面に生えるタケ類が大きくなって線路だった空間上を覆い隠すまでになっています。あと十年も経てばタケ類の根が腰壁を崩し、線路だった場所が埋もれてただの斜面になっちゃいそうです。こちらは草よりも樹木による浸食が進んでいるな、という感じでした。

 なお、以下のサイトでは過去に撮影された同じアングルの写真が見られます。興味あればご覧ください。

廃線探索 のと鉄道能登線

https://www.hotetu.net/haisen/HokurikuShinetu/090502nototetudounotosen.html

 

<今月のデータ 〜 アカテガニ生息調査①>

 金沢市の海岸沿いにある健民海浜公園は市街地の中に位置する緑地公園ですが、公園内にアカテガニが多数生息しています。こんなやつです。

 

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 このカニ、夏になると森の中にある巣穴から海岸に降りて産卵します。その時期が大潮の満潮の夜と決まっていて、その時を目指して大挙して海岸に押し寄せることになります。つまり、道や草原を横切っていくカニの大行進が見られるわけですね。私は一度、三浦半島の小網代でこれを見たことがあります。昨年になって金沢でも、それも市街地にある公園にこのカニが棲んでいることを知りまして、是非こいつらの大行進を見たいなーと思いました。とは言え、大潮になるたびに毎晩探しに行くのは大変。だいたい、公園内のどの海岸におりてくるか分からないし…。そこで今回、「アカテガニ生息調査」なるものを決行することにしました。

 この調査、三つほどの段階で考えておりまして、今回はその第一段階。「まずは、産卵場所はどのあたりだ?」について調べてみました。単純に考えて、この時期なら産卵場所に近ければ近い場所ほど見かけるカニの数は多くなるんじゃないかしら?ということで、それを検証します。やり方はこうです。

*公園内の歩道にセンサスコースを設定する。

*センサスコースをゆっくり歩きながら両側の道際から1mまでの幅で出現するカニをカウントする。

*調査は3回繰り返して実施。

野鳥のロードサイドセンサスと同じ要領ですね。違うのは鳥では上ばっかり見てますが、こちらは下ばっかり見てるということでしょうか。設定したセンサスコースと数えた結果は図の通りです。3回調査して数えた累積数を表示しています。

 

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 調査は大潮の満潮時にやった方がいいのかな、とは思いましたが夜中や早朝はしんどいのでまずはランダムに7月中の3日間、日中に実施してみました。結果を表にまとめると以下の通りです。

 

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 やってみると、カニを見つけるのが結構難しい。じっと動かないやつや巣穴に半分隠れてるやつなんかがいますから。親ガニやら子ガニやら、大きさもバラバラですし。彼らは歩く足音に反応して動き出しますので、道の際を選んで歩いて行くとどんどん動いて数えやすくなるみたいですね。河川の岸に沿って設定したコースで極端に数が多くなりましたので、この河岸のどこかが産卵場所になるんじゃないでしょうか。この公園は狭いので、河岸を全て埋め尽くすほどの数がいるとは思えません。おそらくこのコース沿いのどこかで大行進が見られる場所がある可能性が高いと判断できます。結果をよく見たところ、コース中でもカウント数が多い場所とそうでもない場所がありました。特に多かった場所がそこじゃないかということで、下図の場所で待ち構えていれば大行進が見られんじゃないかと考えられます。

 

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 だけど…調べてみたら8月の大潮の満潮は20日前後の夜中、2時から3時くらい。いやぁ、きついなー。起きて見にいく気力あるかしら。 

 

<いきもの写真館No.124 カワラナデシコ

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 夏になると北陸の海岸はハマナスの赤、コオニユリのオレンジ、ホタルブクロの白など、カラフルな花の色に染められて、カメラを持っていくのが大変楽しい時期になります。それらの花の中でも、個人的に一番気に入っているのはカワラナデシコのピンクです。色も好きですが、縁にフリルがつきまくっている花の形も実に優雅に見えます。野の花とは思えないような姿ですが、カーネーションの仲間と聞くとまあ納得ですね。能登半島の磯海岸で、コオニユリの群落に囲まれてひっそり咲いてました。

 

この記事に関する問い合わせは以下にお願いします。

yoshimori.murai@gmail.com  邑井良守(ムライ ヨシモリ)