研究部会メーリングリスト通信 2019年8月号

研究部会メーリングリスト通信 2019年8月号

 

<生物技術者の事典  〜 アセス法の事後調査>

 環境アセスメント法は、事業者が事業を開発するにあたって環境への影響を予測・評価し、適切な環境保全措置(対策)を事業に組み入れることを目的としている。しかし、特に自然環境については事業着手前の調査で予測・評価に不確実性があったり、環境保全措置の手法や効果が不明確となる場合が多い。このため、環境保全上の問題が事業に着手した後において生じていないかどうかを把握し、問題が生じた場合に必要な措置を追加的にとれるようにすることが重要である。事業着手後において環境影響の把握と必要な措置を検討するための追跡的な調査等を行うことが必要であり、こうした一連の調査等を事後調査という。環境アセス法では、この事後調査の実施が義務付けられている。

 

生物技術者の独り言:事後調査としては、河川の多自然護岸事業(懐かしい単語ですね)なんかで調査に携わったことがあります。日本のアセス制度は事業者アセスなので開発ありき、ですから準備書にはミティゲーション(影響低減)の方策が示されます。で、その方策がはたして適正だったのかを知るのが事後調査になります。じゃあ、その「事後」って何年後まで?事業者アセスであるということは開発事業者がカネを出すわけで、特に民間開発の場合は事業が終了すれば業務も終了します。理屈では、以降はカネを出す義理はありません。事後調査をアフターサービスの観点で見たとしても、その適用可能な期間(カネがつく期間)はせいぜい数年なのが現実ですね。個人的にはもともと生きもの好きが昂じてこの世界に入ったので、何となく「開発行為への片棒を担いでいるという後ろめたさ」を意識しながら仕事していた記憶があります。なので、今でもかつて調査したあの場所は今どうなっているんだろうかと思うことがあります。あのときは報告に、念仏のように「環境の影響少ない」なんて書きながら、今は相当ひどい状態になっているんじゃないかとか。いやいや、実はかえって環境が多様化したことにより生態系もけっこう多様化していたりして。数年の期間じゃなくて、これが10年や20年、さらには50年となると、どのように環境は変わっていくのかも知りたいと思いますね。

 

<生物技術者が見た風景 〜 東京湾のコミミズク>

 私が大学生だったころ、今から40年くらい前に羽田空港のすぐ北にある東京湾上の埋立地でコミミズクを追っかけていた時期がありました。今は大田市場がある城南島地区、当時は「大井埋立地」と呼んでいた場所です。その頃は埋め立てられて間もない時期で、所々水溜りのような池がある広大な高茎草原地帯でした。ゴミの埋立地だったからかネズミもいっぱいいて、ネズミ大好きのコミミズクにとって、冬の大井埋立地はとても良い生息地だったのです。貧乏学生だったので飛んでいるコミミズクを見事に捉えた写真はありませんが、別の意味でその時感動してとった写真を1枚。写真の中央、杭の下にあるのはコミミズクのペリットです。吐出した直後で表面が光ってましたが、まあその大きさにビックリ。持ち帰って解体してみたらドブネズミの骨がまるまる1頭分入ってました。

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写真中央の杭下にあるのがペリットです

 コミミズクは、おそらく冬だったらフクロウカフェ以外に都会で出会える可能性が最も高いフクロウです。ちょうど同時期、幕張や京葉港の埋立地でも毎年多くのコミミズクが見られていたとの話があります。あの頃は埋立直後の雑草地帯になっていた広い土地が東京湾内にいっぱいあったので、彼らにとって天国だったんでしょうね。大井埋立地が野鳥の天国になったおかげで、その後大井野鳥公園が整備されたんですがコミミズクにとっては住みやすい環境ではなくなったようです。今でも冬に来ているんでしょうか。

 

<いきもの写真館No.100 コオニユリ

 コオニユリは全国の山地の草原や湿原でよく目にする、国内に自生するユリの中ではもっとも広範囲で見られるユリです。海岸から山地まで広く見られます。球根は昔から食用にされ、「ユリ根」として販売されているものの多くがこの球根と言われています。ちなみによく似たオニユリは中国からの渡来植物ですが、コオニユリは日本の在来種です。

 写真は7月に能登半島の海岸線を旅した際に見た群落です。海岸の岩場一面に咲いていて、それは見事なものでした。訪れる人も少ないですし、お花畑の写真を撮りたい方々にとっては結構な穴場といえるんじゃないでしょうか。

 

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草地の中に点々と花が咲いています

 

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よく見たら一面コオニユリの花でした

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邑井 良守