生物技術者連絡会通信 2021年12月号

生物技術者連絡会通信 2021年12月号

 

<生物技術者が見た風景 ~ ベトナムで見たカエル>

 2006年から2007年にかけて、ベトナムハノイ近郊で動物調査をしたことがあります。自然環境調査ではなくて、工業団地造成地での有害生物調査でした。日系企業が工場を作る際に、その場所に将来有害動物となる生き物がいないか調査したのです。海外の調査とはいえやることは国内での調査方法と同じ。昆虫対象のライトトラップからピットホールトラップ、小型哺乳類対象のライブトラップなど一通りの調査を実施しました。ピットホールトラップを埋める作業を実施していた時に、「ベトナムでピットホールを埋めてる奴って、ひょっとして俺が最初じゃないか…」とか思いながら作業していたことを思い出しますね。日本から現地に資材を送るときや現地での資材調達、調査スケジュールの調整、もちろん調査で感じた日本との生物環境の違いなど、いろいろな経験をしました。そのあたりは追々お話していくとして、ここでは現地に行った際に面白いと思った生物技術者的なエピソードをひとつご紹介します。

 調査では小型哺乳類(つまりはネズミ類)を対象としてカゴトラップを仕掛けたんですが、いささか意表を突く動物も捕まりました。

 

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 ずいぶんと大きなカエルですが日本でおなじみのウシガエルではないようです。後で調べたところ、トラフガエル(Rana tigerina)みたいです。東南アジアから中国にかけて普通に分布するカエルで食用にもされる、と記載にはありました。日本でも少数ながらウシガエルは食べますからカエルを食べることについてはあまり驚かないのですが、それにしても池じゃなくそこらじゅうの陸上を歩いているほど多い? ベトナムの人は家の周りにいるカエルを捕まえて食べてるのかしら…と思っていたら街の市場で売ってました。

 

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 たらいの中に何匹も入れて売ってます。逃げないのかとじっと見ていたら、彼らは互いに別方向へ逃げようともがきますが片方の後足をまとめて縛られていますので結局同じ場所からびくとも動けないという…いや、実に賢いやり方です。現地の人に聞いたらベトナムでは養殖していてカエル料理専門店もあるとのこと。屋外にも多いみたいなので庶民には手軽に手に入る食材なんでしょうね。

 

<今月のデータ 〜 フクロウはモグラが好き?>

 2001年のことですが、高速道路予定線での環境アセスメント調査の一環としてフクロウの食性調査をしたことがあります。生息場所でペリットを採取し、その内容物から餌動物を調べたのです。4か所の寺社林で採取した合計19個を調べました。検出された餌動物を5グループに分類し、各グループの出現確率を円グラフに示したのが下図です。

 

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ペリットの分析結果

 

 

 ネズミの確率が高いのは予想通りでしたが、同じくらいモグラも高かったのは意外でした。普段は地中で生活しているんですから捕まる確率は少なそうなものですが、どうやって捕まえているんだろうと当時は首をひねったものです。後日、モグラを飼育している動物園の方に聞いたところモグラは結構地上にも出てくるそうで、基本的に出てくるのは夜間とのこと。なるほど、地上ならネズミよりは動きが鈍いだろうし、それならフクロウには捕まえやすいよねと合点がいきました。ブロック塀に囲まれた家庭の庭にモグラが侵入して駆除を依頼されたことが度々ありますが、そんな場所に侵入するには地上に出なくちゃなりませんので、よく考えてみれば当たり前でしたね。ちなみに、調べたペリットの中にはカラスを飲み込んだものもありました。たぶんヒナを捕まえたんでしょうが、これまた意外でした。

 

<いきもの写真館No.129 カワアイサ

 

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 金沢市の真ん中を犀川という川が流れています。橋の上からのぞくと魚がたくさん群れていて、アユやサケも遡上してきます。なので繁華街のそばを流れているのに、シーズンになると川の中に釣り人が見られたりします。水もきれいですね。流れが結構速いせいか冬に見られるカモ類の数はあまり多くありませんが、関東ではあまり見られないカワアイサが毎年やってきます。写真はつがいを写したものですが、どうも毎年同じカップルがやってくるみたいですね。普通のカモと違ってくちばしがカワウみたいな形をしてますので、きっと川の中の魚を専門に捕っているんでしょう。魚影の濃いこの川を気に入っているようです。

  

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yoshimori.murai@gmail.com  邑井良守(ムライ ヨシモリ)