生物技術者連絡会メーリングリスト通信 2021年2月号

生物技術者連絡会メーリングリスト通信 2021年2月号

 

<生物技術者のための用語集 〜 事後調査>

 「環境影響評価法に基づく環境保全措置指針に関する基本的事項」第5.2.(6)で規定される調査。(以下原文抜粋)評価書手続きを終えた事業着手後、工事中の環境の状態などを把握するために行う調査。評価の選定項目に係る予測の不確実性が大きい場合や、効果に係る知見が不十分な環境保全措置を講ずる場合などに、環境への影響の重大性に応じて事後調査を実施する必要性の有無を判断する。

 事後調査の結果については今後の対応の方針も含め、原則公表することとなっている。なお、用語的にモニタリング調査と混同されることがあるが、本法の中にモニタリング調査という用語はない。事後調査を実施して事業が終了し供用が始まった以降も環境監視を目的に継続して行っていく調査として、この用語が使われることがある。

 

生物技術者のひとりごと:「事後調査の結果については今後の対応の方針も含め、原則公表することとなっている」ということですが、法律上は報告・公表の義務なし、準備書には「事後調査やるよ」とは書くが具体的内容はなし、実施の期間や頻度に関する規定なし…です。事後調査をやったか、その結果がどうだったかを住民が知ることはあまりなさそうですね。環境アセスメント協会の冊子には、評価書に「事後調査結果も公表」と書いてあった事例の7割で公表が確認できず、環境保全措置の結果まで公表されているものはわずか1割、という情報が載ってました。環境保全措置の結果がどうなったかを知りたいのはもちろんですが、個人的には供用後それがどう変わっていくかを継続的に追いかけることにも興味があります。今までの例でいうと事後調査の実施期間は3~5年らしいので、それ以降続けてモニタリングしている事例はほとんどないんじゃないでしょうか。まあ、事業者にとってはそこまで深くかかわる義理はないですからね。実際に調査に関わっていた者としては、調査して「影響は軽微である」なんて書いた場所が10年後、20年後にどうなっているのか、個人として調べてみたい気がします。

 

<今月のデータ 〜 虫と光と生物技術者 その5>

 このシリーズ、前回で白色光の場合、LEDは蛍光灯よりも虫が集まらないけど虫の種類によってはその程度が違うような話をしました。今回はその話を深掘りします。

 ものを製造する工場施設で生産ラインに虫が来ると、製造中のものの中に虫が入ってしまい、不良品となってしまうことがあります。いわゆる異物混入事故というやつですね。食品工場でこれが起こるとメディアが大騒ぎ、行政からは業務停止を食らうし信用もガタ落ちとなることはご承知の通り。食品だけじゃなく精密機械工場や製紙工場等でもこの不良品発生は問題で、不良品となって返品される被害額が食品の比ではない点から異物混入対策は食品産業以上にとても熱心なのが現状です。そのおかげで事故防止対策を指南し実行する業者(防虫管理業者、つまりは消毒屋)は、今とてもはやっています。私が思いますに、生きものを調査することではほぼ唯一の「飯が食える仕事」じゃないでしょうか。

 彼らにとって虫の動きをコントロールするための知見を集積することは、効果的な防虫対策をたてる重要な要素になります。大手の防虫管理業者になると調査研究チームを持ち、新たな知見を積み重ねるべく調査や実験を日夜繰り返しています。ここではそのような実験データの一つをご紹介することとしましょう。そのデータの多くは非公開(技術ノウハウですから当然ですね)ですが、一部が学会や論文発表という形で公開されていますのでそれを。以下の表をご覧ください。

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異なる照明によるライトトラップ調査結果

 環境動物昆虫学会の2013年大会で発表された実験データです。実験方法をかいつまんで説明すると以下の通り。

・供試ランプとして白色光のLED、HCFL(熱陰極管蛍光灯)、CCFL(冷陰極管蛍光灯)を使用

・各ランプの光源の間が10mおよび20mの合計3つの試験区を下図に示すように用意

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実験方法


・日没前30分または日没直後から点灯開始し、15分点灯・15分消灯、その後左右を入れ替え

・上記を4~6回反復して実施

 

 HCFLは普通の蛍光灯で、CCFLは発光方式が異なる長寿命型の蛍光灯です。CCFLは2010年代初めに開発されたものでHCFLの6~7倍寿命が長いのですが、しょせんLEDには勝てず価格も接近してきてますので、今はあまりはやってませんね。それで、どうでしょう。どの虫のグループもLEDは減ってはいますが、グループによって結構違いがありますね。特に同じハエ目なのに、ユスリカ科とその他ハエ目とでは大きな違いがあります。

 ライトトラップ調査をやっている方ならご存じですが、トラップに集まる虫を個体数で見ると常に優占するのがユスリカ科で、集まった虫の7~8割をこいつで占められることも珍しくありません。そんな虫がLED光になっても減るのは3割くらい…。つまり、トラップに集まる虫の数自体はあまり変わって見えない。けれど、集まる虫の種類相は実はかなり変わってしまっている、ということになるんじゃないでしょうか。LEDランプを使う際には、この点を頭に入れておいた方が良さそうですね。

 

<いきもの写真館No.117 ミサゴ>

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上空を飛行

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ホバリング

 石川県の加賀平野には湖沼が幾つもあります。これらをこちらでは「潟」と呼んでいます。その中のひとつ、木場潟に先日行ってみました。一周2㎞くらいで散歩にはちょうどよい大きさです。ガンカモを目当てに行ってみたんですが、珍しいやつはいなくてがっかり。しかし、空を見上げるとこの鳥が悠々と飛んでました。下の写真はホバリングしてるところですがうまく撮れたかしら。石川県は細長くてどこも海岸線が近いせいか、どこでもミサゴをよく見ますね。この時期なら金沢市内でも飛んでます。

 

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yoshimori.murai@gmail.com  邑井良守(ムライ ヨシモリ)