生物技術者連絡会通信 2023年10月号

生物技術者連絡会通信 2023年10月号

 

<生物技術者が見た風景〜土の中の奇妙なダニたち

 昔のことですが、環境影響評価(環境アセスメント)の動物調査業務に携わっていた時、東京都の環境影響評価技術指針に示された調査事項に「クモ類及び土壌動物」というのがあったので、それに対応した土壌動物調査を実施したことがあります。その方法というのはこうです。

①任意に設定した5地点の地表面において、直径51mmの円筒形の打ち抜き缶で地表より60mmくらいまでの土壌を採取、約100ccの土壌を各地点から2ヶ 所づつ、合計10ヶ所採取。

②現地調査で採取した土壌を事務所に持ち帰り、直ちにTullgren 装置にて分離抽出を 行い、得られた個体を同定。 Tullgren 装置による分離抽出時間は68時間。

 Tullgren 装置というのは持ち帰った土壌の上から白熱電球を照らし、熱と乾燥から逃げ出す土壌動物を下に置いた水盤に落とす装置です。さて、この調査の結果、現地で採取した土壌からはクモ綱、ヤスデ綱、ムカデ綱及び昆虫綱に属する節足動物類が多数検出され、特にダニ目では確定されたもので26科のダニ類を検出しています。この土壌中に生息するダニ類というグループの中には実に奇妙な格好をしたものがいて、初めて見たときはとてもびっくりしました。どのくらい奇妙なのか、まあ写真を2枚見てもらいましょう。

 1枚目のダニはササラダニ亜目というグループに属するフリソデダニです。体の両側から耳みたいなものが出てますが、これを「振り袖」に見立ててフリソデダニ。このグループには他にも、体を殻の中に丸め込んでしまうカタツムリみたいなイレコダニ、細長くてイカみたいな形をしたイカダニなんてのもいます。2枚目のダニはどのグループに属するか不明ですが、頭の先からクワガタムシみたいな角(実は角ではなく顎体部という器官)が出てますから、これはたぶん捕食性のダニ類ですね。

 基本的にダニ類は森の中のような腐葉土がある土壌中に多く生息していますが、腐葉土が厚ければ厚いほど種類も数も多くなる傾向があります。土の中で有機物を分解するものやそれらを捕食するもの等の様々な種類がダニ相として生態系の一角を担っているわけです。偉い先生が「土の中の妖精」と表現したのもうなずけますね。

 

<有害動物の話⑥~秋のカメムシテントウムシ

 日本でも東北や北海道、あるいは高原や亜高山帯といった冷涼な環境にお住まいの方の家屋では、秋も深まってくると窓のサッシや戸袋、室外機の中といった外壁にある隙間にカメムシテントウムシ、バッタ類等がいっぱい集まってくる現象が毎年発生します。テントウムシならいいんですがカメムシは嫌な臭いを出しますので、干してあった洗濯物に臭いがつくとか洗濯物が虫で汚されるとかいった苦情が行政に殺到、消毒屋が出動するといった事態も起こります。これは寒い冬を越冬するために雪風を防げる隙間に集まって来るからで、人の家だと暖かさもありますから虫にとっては最高の越冬場所なんですね。どれくらい集まるかというとこんな感じ。

富山科学博物館HP「とやまサイエンストピックス」より転載

 

 高原にあるログハウス別荘なんか一番ねらわれやすいですが、実際に起こってしまうと駆除はとっても難しい。殺虫剤を撒いても外壁の丸太にできた隙間の奥の奥まで入り込んでいますので必ず生き残ってしまう虫がいて、それらはさらに隙間をたどって室内に出現、かえって被害が深刻化するなんてこともあります。この現象は一度起こるとたいてい毎年続けて起こりますから、年に1回奴らが集まってくる前の秋口に外壁の隙間という隙間に忌避性の高い殺虫剤を塗布しておくのが一番良いでしょう。地方によっては敷地内の木の幹に莚(むしろ)を巻きつけておき、筵の中に入り込んだ虫を莚ごと焼き捨てるといった対策をとっているところもあります。ちなみに、どの地方でも集まってくる虫はカメムシならマルカメムシテントウムシならナミテントウが数的に一番多いようです。

 

<いきもの写真館No.153 マルカメムシ

 晩秋になると家屋に押し寄せて問題となる虫の中で、日本中どこへいっても個体数が多いカメムシがこのマルカメムシです。ちょっと目には莢からこぼれた豆?いや、葉っぱの表面にできた虫こぶ?のように見えてとても虫には見えないんですが、よく見ると頭と脚が確認できます。空地や道路法面にいっぱい生えてるクズの葉をひょいと裏返してみると、かなりの確率でこの虫に出会えます。カメムシなので捕まえると臭い液体が手について、こいつが洗ってもなかなか臭いが落ちません。晩秋になるとこいつらが大挙して家屋に押し寄せ、干していた洗濯物にいっぱい付着するってんですから、そりゃ嫌われますね。でも、飛ぶときに鞘ばねの下から広がって出てくる飛翔翅は何だか楽器のハープにも似たエレガントな形をしていて、私は結構好きです。

 

 このブログの内容に関するお問い合わせは以下にお願いします。

生物技術者連絡会 研究部会 邑井良守 yoshimori.murai@gmail.com