生物技術者連絡会通信 2023年7月号

生物技術者連絡会通信 2023年7月号

 

生物技術者が見た風景 〜 海に落ちる滝とコオニユリ

 能登半島には綺麗な海岸線や揚げ浜塩田、白米千枚田などの観光地が多々ありますが、個人的には海岸線を巡る遊歩道を歩きながら道端に咲く花々を愛でる方が好きです。特に夏になると海岸の岩場にコオニユリがたくさん咲く場所があちこちにあって、奇岩風景とのマッチングが素敵です。その中でも私は、白米千枚田から海岸沿いに15分ほど半島の突端に向かって車で走ったところにある垂水の滝がビジュアル的に最高と思いますのでちょっと紹介しましょう。滝の全景を引いて撮影すればこんな感じ。

 能登半島の先端近くは岩山が海に急に落ち込んだ地形となっていて、ここでは落差が35mほどの滝の水が直接海に流れ落ちています。滝の下側に黄色い花が咲いているのが見えますが、あれがコオニユリ。遠目では確認できませんが近づいてみると岩場のあちこちにたくさん咲いてます。滝を背景に撮ってみたらなかなかいい感じです。

 直接海に流れ落ちる滝なんてそう見ることはないですよね。なんだか昔行った知床半島で見たカムイワッカ滝の風景を思い出してしまいました。このコオニユリと同時にピンクのカワラナデシコも盛りでしたね。例年通りなら7月末から8月初めにかけてが見ごろです。

   

<有害動物の話③~外来種に変わりゆくキクイムシ

 家屋の建材を食害する害虫というとまずはシロアリが頭に浮かびます。しかし、一般家屋ではなく集合住宅での被害となるとキクイムシ類も重要な害虫です。コガネムシキクイムシ科に属する虫で家屋に被害を与える種類が7〜8種ほど知られていますが、被害の事例が多く加害される木材の種類も多いのは下の写真のヒラタキクイムシです。

 この虫はタケやナラ、キリ、ケヤキ等、建材や家具に使われる多くの木材を食害し、近年では輸入材のラワンが特によく食害されます。飛んできた成虫に産み付けられた卵から孵化した幼虫は強い顎を使って木材の表面に穴を開け、長い円筒形の体で木材の中に潜り込んでいきます。そして穴の奥で成長して蛹化、やがて春になると羽化した成虫が穴から脱出してきます。脱出しやすいように、成虫の体は細長い円筒形になってます。食害された穴は直径1mmほどの真ん丸で、一見釘穴かな?と思いますが穴の周りや真下に細かい木の粉が落ちていますので食害だとわかります。

 このヒラタキクイムシは古い木材にはつきませんので新築して間もない家屋で被害が発生し、成虫が現れる被害発生時期は春だけと相場が決まっていました。しかし近年、今世紀に入った頃から消毒屋の間で古い木材から発生とか、夏を過ぎても被害が発生といった事例が多発。特にマンションのフローリング材の被害例が多くて何だかおかしいなと思っていたら、ヒラタキクイムシにそっくりのアフリカヒラタキクイムシという外来種が増えてきていたことが判明しました。

 上の写真の通りあまりにそっくりで同定には実体顕微鏡が必要なこの虫、今どのくらい分布が広がっているのかは不明です。ただ、2009年に全国36件の被害例を調べたところアフリカヒラタキクイムシが25件、ヒラタキクイムシが9件だったという報告があります。おまけに、アフリカヒラタキクイムシと同じく外来種であるアメリカヒラタキクイムシなる種の被害発生も確認されており、外来種が在来種を圧倒しつつあることは間違いありません。ひょっとしたら、今はヒラタキクイムシがほぼ絶滅している可能性もあります。

 害虫の世界での話ですから全く話題になってませんが、これがカブトムシみたいな人気のある虫だったらきっと国が動くほどの大きな話題になっていたでしょうね。

 

<いきもの写真館No.150 トノサマガエル>

 子供のころトノサマガエルを捕まえてよく遊んでいたものですが、当時からトノサマガエルは日本中にくまなく分布しているものだと思ってました。大学に入学してからはずっと関東に住んでいたんですが、そのときに見掛けたカエルもトノサマガエルだと思っていたのです。大学を卒業して働き始めたころになって、やっと関東にいるのはトウキョウダルマガエルという別種だと友達から知らされました。

 

 上に示す小巻(2015)に掲載された分布図を見ると子供のころに石川県や山口県で見たものはトノサマガエルだったはずですが、しかし記憶をどう辿ってみても関東で見ているトウキョウダルマガエルとの区別がつきません。今は再び石川県にいるんだから、いつかはここのカエルをじっくり見てみよう…ということで森の中に放棄された棚田の水溜りにいたトノサマガエルを撮影してみました。

 言われてみると関東で見慣れたトウキョウダルマガエルよりはほっそりして、トノサマガエルの方は背中の斑紋が孤立せずにつながっている…ように感じますが、うーんやっぱり良く分からない。同じ生態や活動様式の動物は形態も似てくるという「平行進化」の例だとのことですが、ここまで似る必要ってあるのかしら? 

 

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生物技術者連絡会 研究部会 邑井良守 yoshimori.murai@gmail.com