生物技術者連絡会通信 2021年6月号

生物技術者連絡会通信 2021年6月号

 

<生物技術者が見た風景 能登半島柴垣海岸のイカリモンハンミョウ>

 先月末の晴れた日に、石川県羽咋市から北へ海岸沿いに伸びる羽咋健民自転車道を愛用の自転車で走ってきました。日本海を眺めながら気持ちよく走れる景色の良いルートです。ただ走るだけでも満足なのですが、今回はルートの途中にある柴垣海岸によるのが目的です。この柴垣海岸、虫好きというか甲虫好きならたぶん誰でも知っている、イカリモンハンミョウの生息地なのです。環境省レッドデータブックの絶滅危惧Ⅰ類に分類されており、南九州に生息している他に本州ではここ、この長さ4㎞足らずの海岸だけという虫です。というわけで現地に来てあたりを見回すと…

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海岸にそって北方向(能登半島方向)を撮影

 何の変哲もない風景のようですね。うーん絶滅危惧種なんだから探してもきっと見つからないかなあ、と思っていたら…いやいや、いっぱいいますよ!そこらじゅうに飛んでます。

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背中に船の碇のような模様があるのでイカリモンハンミョウ

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砂浜の上をドローンみたいな動きで飛び回ってました


 調べてみると、1980年代に本州では絶滅したかと思われたが1994年にこの海岸で再発見、1997年に急減してやっぱり絶滅か…と思ったら2014年から増加に転じ、2017年以降は1997年以前の水準に戻っている、という経緯を経ているようです。2012~2018年に調査を行った石川県立大学の調査報告にある個体数の経年変化表を転載しますね。原文は「イカリモンハンミョウ 分布」でググるとPDFで落とせます。上田,架谷ら「能登半島イカリモンハンミョウ個体群における7 年間の個体数変動」2019年度石川県立大学研究紀要からの抜粋です。

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 1970年代以前は金沢市の海岸にも生息していたこのハンミョウ、柴垣海岸だけに生き残ったのは南隣の千里浜と違って観光地ではなく、人間や車の踏みつけや乗り入れが少なかったためでしょう。巣穴を掘る湿った砂地が足やタイヤで踏み潰されちゃあ、そりゃきついでしょうね。彼らにとっては。千里浜なんか、車が乗り入れられるようトラックで陸砂を後からどんどん入れちゃってますし。今は保護地域になって乗り入れが禁止されてますので、隔離による遺伝子多様性劣化の影響を除けば絶滅する心配は少なそうです。 

 ところで、1997年に急減した原因について上田,架谷ら(2019)は海岸の物理的環境(海岸勾配等)の変化説を挙げていますが、私はナホトカ号事故のせいではないかと思ってます。憶えてます?

事故が起こったのは1997年1月。流出重油の被害が最も大きかったのは福井県ですが、石川県の日本海側沿岸にも広く重油が漂着しました。漂着被害が起こったのは1月から2月にかけてで、もちろん全ての重油が回収できたわけではありません。漂着した重油の多くは砂にしみ込んじゃったわけで、これは彼らには大きなダメージでしょう。もし私の憶測が正しいとすれば、このダメージから完全に回復するのに20年かかったことになりますね。うん、やばかったけど絶滅しなくてよかった。

 

<今月のデータ 〜 金沢城址公園のモリアオガエル繁殖状況2021>

 今年も見てきました。金沢城址公園に棲むモリアオガエルの産卵状況です。今年はコロナ禍で家にいることが多くなりましたので、結構頻繁に行ってきました。確認できた卵塊数をまとめた表をご覧ください。

 

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 この調査、3年目ですが今年は過去2年と少しパターンが違ってました。過去2年はいずれも初認から徐々に卵塊数が増えていき、ピークを経て減少というパターンでしたが、今年は6月14日で一旦減少しています。実はこれ、理由があります。6月8日から14日の間に、二の丸内堀の石垣面に生えていた雑草がきれいに除草されてしまっていたのです。

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6月8日の二の丸内堀の石垣面

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6月14日の状況 きれいに除草されてます。卵塊どこいった?

 除草作業で石垣面にあった卵塊が、少なくとも10個は無くなってましたね。その後再び卵塊数は増えていったんですが、産卵する数はサクラの樹上の方が多くなり、ピーク時には全体の8割の卵塊が1本のサクラの枝先にぶら下がる状況になりました。昨年のピーク時では3割くらいだったと記憶しています。また、なぜか石垣面で1か所だけ雑草が刈り残されていて、その小さな雑草に卵塊が4個産みつけられていました。かなりの過密状態。

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6月14日の状況 サクラの枝先、この画面の中に6~8個の卵塊がありました

 それともう一つ、産卵するのに高いところまでは登らないだろうと思って、これまで地上から3mくらいの高さまでを観察していたんですが、よく見ると本丸の森では地上8mほどの樹上にも産卵してました。彼らには幅が2mもない狭い池の水面が8m上から見えている、それも木の間越しにということですよね。いや、びっくりした。

 

<いきもの写真館No.123 コサメビタキ

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 金沢市の健民海浜公園で池の周り、樹木の枝先に何度も来ていたのを狙って撮ったものです。とはいえ、動きがとても早いので私の撮影スキルではこれが精いっぱい。腹の模様やつぶらな瞳あたりからコサメビタキで良いかと。教科書通り地上と枝先、同じ場所を行ったり来たりしてましたしね。

 

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yoshimori.murai@gmail.com  邑井良守(ムライ ヨシモリ)