研究部会通信10月号

<研究部会の活動報告>
*大阪セミナー開催のご報告
 メールでもお知らせしましたが、15日に大阪セミナーを開催して邑井と藤井の2名で話題提供させていただきました。
30名ほどの方々にご参加いただきました。
本も20冊弱売れました。
ありがとうございました。

<動物遺物学の部屋〜第1回「動物遺物学」への招待>
 雑木林の中を歩くのは楽しいものです。空気には草や木のにおいがして、春には鳥、夏にはカエル、そして秋には虫の声がどこからか聞こえてきます。もっと耳をすますと、地上から落葉を押しのけてすすむ虫やとかげのカサカサという音も聞こえるでしょう。
風が吹くと、木々の葉がゆれてこすれるザワザワという音も聞こえます。そして、木洩れ日があたった土にひっそりと生えた、遠慮深い色のちいさな花。
 森の道はただ歩くだけでも楽しいものですが、ちょっとだけ足元に気をつけて歩いていると、けっこういろいろなものが落ちていることに気づきます。一番多いのは落ち葉でしょう。その落ち葉をよく見ると、幾つか穴が開いているもの、途中でちぎれているもの、くるりと巻かれているものなど、実にさまざまです。人が穴を開けたり巻いたりすることはあまりありませんから、これは森に棲む誰かのしわざでしょう。
少し歩いていくと、鳥の羽がいっぱい落ちている場所があります。よく見ると、鳥の羽は地上に円を描くように落ちていたりします。これはいったい、誰のしわざでしょうか。
 森や草原、畑や水田を歩いていると見つかる、このような不思議なもの、明らかに人にしわざではないもの、その多くは動物たちの落しものです。わたしたちフィールド・バイオロジスト(どういう意味かはFBNのHPをご覧ください)は、この落しものを「動物遺物」と呼びたいと思います。
「アニマルトラック」という言葉があります。といっても英語にはanimaltrackという単語はなく、「野生動物の跡を追い、その生態を観察すること(大辞泉)」という意味のanimaltrackingという単語があります。日本では野生動物の足跡や獣道をこのように呼び、場合によっては糞や羽なども含めることがあるようです。糞や羽、食痕、それに死体そのものといった「落しもの」は、厳密にはtrackではなくremain、もしくはremainderとすべきでしょう。この英単語に対応する言葉として「動物遺物」が適当ではないかと思ったわけです。
そして表題に掲げた動物遺物学とは、このような動物遺物から動物の生態情報を引き出す技術を探り出す学問と考えています。
 DNA解析によって動物種を同定するという技術も、もちろんあります。しかしこれは種を同定するだけで、動物の生態情報まで知ることはできません。それに、今のところDNA解析にかけるには採取したものを溶液化しなくてはならないので、解析した後には何も残りません。学問的にいうと、再現性のない手法・技術だということになります。
今年の春、動物遺物にとても関心がある、というか凝りまくっている3人の男が「動物遺物学の世界にようこそ」という本を出版しました。この本の詳細についてはFBNのHPをご覧ください。このブログでは、その本で紹介している内容を中心に、動物遺物学のすばらしさや奥深さをご紹介していこうと思います。次回(11月中旬)からは、私(邑井)が取り組んでいる獣毛同定の技術に関して、幾つかご紹介していきます。
 この文章を読んで、何だか興味が湧いてきたあなた。
きっとあなたもフィールド・バイオロジストの入口に立っています。
最後に、かのシャーロックホームズさんの言葉で今回は終わりにしましょう。
「私と君の差は、見る眼と見たい心を持っているかどうかだけだよ。」

<いきもの写真館>
 ここでは、特に私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第43回はオオカマキリです。
道路や庭なんかで、こいつがフラフラしている光景を最近よく見ませんか。
産卵しようとしているやつ、あるいは産卵が終わったやつなんですよね。
ふと気がつくと、あのメレンゲのような卵塊で庭がいっぱいになってたりして。

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研究部会長  邑井良守イカリ消毒株式会社) murai@ikari.co.jp