研究部会通信2014年8月号

<動物遺物学の部屋>

第32回 動物遺物からどこまで情報を引き出せるか(1)
 獣毛や羽毛、糞といった動物遺物をフィールドで採取したときに、それから動物の情報をどのくらい引き出せるかについて考えてみます。
採取した動物遺物を見たときに、まず思いつくのが「これは何の動物か?」ということでしょう。
いわゆる種の同定という問題で、獣毛についてはこのブログで詳しくお話しているところです。
同定という技術をさらに追求していくと、最後には種だけではなく個体の同定という目標に行き着きます。
現代ではDNA解析という技術がありますから、この目標についてもおそらくは将来的に達成が可能でしょう。
今は大きな機械で分析しなければなりませんが、技術の進歩によって近い将来には現場でも携帯できるものが開発されるかもしれません。
そうすれば、現場で採取したサンプルを現場で分析し、情報をすぐに得ることができると思います。
野生動物の行動を把握するという目的から考えると、採取したサンプルから得るべき情報は同定という目標の他にもうひとつあると私は思います。
それは「これはいつ落とされたものか?」、つまり時間軸の情報です。
採取したものが今日落とされたものか、あるいは数日前のものかという情報がもし迅速に得られるようなら、限られた時間で実施することの多い現場での調査精度に大きな影響を与えるでしょう。
おそらく、これはDNA解析では分からないことです。
では、そのような情報を得ることは可能なのか?
ここでは、それについて何回かに渡り考えてみたいと思います。
まずは簡単なところから。
フィールドで見つける動物糞について、いつやったものだろうと思ったことはありませんか?
野外では時間を追って、風雨や動物等により糞は分解され分解されていきます。
いつかは消えてなくなるでしょう。
それは何時?
昔、私が若いころに東京都の檜原村でホンドテンに対して、これを調べたことがあります。
何故か、林道に出てくるホンドテンは橋や腰壁等のコンクリート面に良く糞をしますので、そこにやられた糞がどのくらいの期間で消失するのかが気になったからです。
結果は、夏(7月)には約4週間で全く消失していました。
また、消失する途中の形状から、大体やってから何週間経過しているかの見当をつけることが可能ではないかとの確信を得ました。
この例は全く初歩的なものですが、このような考え方で行動の時間軸に関する情報を得ていくことは非常に重要なことだと思っています。
たぶん、このような情報はDNA分析では得られないでしょうから。
次回は、時間軸得を知るもう少し科学的な方法についてお話したいと思います。
 

今回のお言葉です。
「人は彼の樹木の地に生えてゐる靜けさをよく知つてゐるであらうか。ことに時間を知らず年代を超越した樣な大きな古木の立つてゐる姿の靜けさを。」若山牧水

<いきもの写真館>
ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第72回はマムシです。

毒蛇だから、マムシ酒になるからといって見つかったら捕られまくり、今や身近では絶滅危惧種並みになってしまったヘビです。
よく歩道を歩いていると「マムシ注意!」という看板を見ますが、見つけてみたらアオダイショウの幼蛇だったりします。
本当のマムシはこれ。
アオダイショウの幼蛇と斑紋はそっくりですが、表面につやがなく姿がずんぐりしているのが特徴。
ハブと違って、ちょっかいを出さなければおとなしいんですけどね。
私は結構すきです。