研究部会メーリングリスト通信 2014年10月号

研究部会メーリングリスト通信 2014年9月号

<動物遺物学の部屋>
第33回 動物遺物からどこまで情報を引き出せるか(3)
 獣毛や羽毛、糞といった動物遺物をフィールドで採取したときに、それから動物の情報をどのくらい引き出せるかについての第3回めです。
動物の体内組織には酵素という物質が含まれています。
酵素はタンパク質の一種で、体内で起こっている代謝活動には欠かせないものです。
酵素にはいろいろな種類がありますが、体内のどこにでも普遍的に存在するものが今回の話の主人公です。
酵素はタンパク質なので、動物が死んでしまったり糞のように動物の体内から出てしまうといずれ構造が変成して活動しなくなります。
これを酵素が失活するといいます。
で、体内から出るとすぐにではなく徐々に失活していきますから、もしこの酵素の活性量を測ることができたら体外に出てからの時間を知ることができるでしょう。
つまり、これは時計になります。
体外に出たもの、といえば獣毛もそうです。
ただし、獣毛の場合はほとんどがケラチン質という物質で生体組織ではありません。
毛細胞があった場所、つまり毛根部分のみがそれを測れる場所になります。
以上のような理屈で、公衆衛生の世界では食品に混入した異物(毛の混入も多いです)の検査手法としてカタラーゼ法というものが利用されています。
カタラーゼは加水分解酵素の一種で、過酸化水素水を水と酸素に分解する働きをします。
薬局で消毒薬として売られているオキシフルは3%過酸化水素水液のことですから、これを使って反応を見ることができます。
これ以上詳しくは説明しませんが、体から抜け落ちて経過した時間と反応量のデータを集めると、採取した獣毛がどのくらい前に抜け落ちたものかが分かるかもしれません。
公衆衛生の世界では、カタラーゼ以外の酵素についても同じように利用できないか研究しているところがあります。
毛を採取したその場で測ることもできますので、これなら動物を追跡するための情報として有用じゃないかと思っています。

<いきもの写真館>
ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第74回はオオカメノキです。

紅葉を見に少し高い山に行くと、渓流沿いによく生えているこの木の実がとても赤くて目立ちます。
ナナカマドの実も同じくらい赤いですけど、何故かこちらの方が食べられそうに思えてきます。

<研究部会からのお知らせ>
研究部会報の第3号(2015年)を、来年も発刊します。
来年初めには発刊したく思います。

今日のお言葉です。
「鶯の声を聞くときの如きは、深山の春の快感を誰にも味わせたきものであると思わぬことはない。」平野長蔵