研究部会メーリングリスト通信 平成26年9月30日号

研究部会メーリングリスト通信 2014年9月号

<動物遺物学の部屋>
第33回 動物遺物からどこまで情報を引き出せるか(2)
 獣毛や羽毛、糞といった動物遺物をフィールドで採取したときに、それから動物の情報をどのくらい引き出せるかについての第2回めです。
フィールドで採取する代表的な動物遺物に骨があります。
何らかの理由で死んだ動物が土にかえって骨だけが残った場合には、表面に傷のない白くてきれいな骨となっているでしょう。
しかし、死体が肉食の動物に見つかったり、生きていても襲われたりして食われてしまった場合は、骨にいろいろな傷が残ります。
経験を積むと、骨に残った傷(噛んだ跡や砕いた跡など)からどの動物が食ったのかが分かります。
そして、食われてからどのくらいの時間が経過しているかも、なんとなく分かるようになります。
骨だけじゃなく、鳥の羽からもそのような情報は得られますよね。
実は、獣毛からも同じように情報を得ることができるのです。
2枚の写真をご覧ください。


どちらも人間の頭髪で、上の写真は頭から落下直後の毛先部分をスンプ標本にとったものです。
下の写真は地表面に落下してから少なくとも数週間を経過したもののスンプ標本です。
スンプ標本は毛の表面形状を観察できるように作成した標本です。
下の写真は表面が傷だらけですが、これは毛が地表面に落下してから土砂にまみれたり踏みつけられたりすることにより生じた傷です。
落下した場所や環境等、いろいろな条件により傷のつき方は変わりますが、時間がたつにつれて傷の数は増えていきます。
したがって、必要なデータをそろえておけばスンプ標本で観察できる傷の状況から、落下後どのくらいの時間が経過したのかを推定することができます。
必要なデータというのは、例えば靴による踏みつけや砂粒に混ぜての振盪等といった損傷を獣毛に与え、毛の表面につく痕跡を時間を追って記録していく、といったことになります。
これに似た手法は、以前警察の犯罪捜査で使われていたようです。
犯罪の現場で採取した頭髪から人物を特定する際の情報の一つとして、毛先の摩耗度が利用できます。
たいていの日本人は定期的に散髪しますので、毛先に切断面が残ります。
散髪してから時間がたつごとにその切断面は丸く摩耗していきますが、その摩耗の度合いから散髪後何日くらいを経過したかが推定できます。
犯人を捜す際に、聞き込みをしながら頭の髪型を見ていくわけですね。
動物遺物学って、探偵になったみたいで面白いです。

今日のお言葉です。
「学問は活物(いきもの)で書籍は糟粕だ。」南方熊楠

<いきもの写真館>
ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第73回はシュレーゲルアオガエルです。

雑木林が傍にある水田や湿地に棲んでいるカエルです。
都市近郊にも結構多いんですが、姿を見ることはめったにありません。
姿はアマガエルに似てますが顔にある黒いスジはなく、体全体が鮮やかな緑色をしてます。
声も「コロコロコロ・・・」という、鈴を鳴らすような感じで鳴きます。

<研究部会からのお知らせ>
特にありません。