研究部会通信9月号

<動物遺物学」の部屋>第11回 
第11回 動物遺物から詳しい生態情報を引き出す(2)
 前回に引き続き、環境保全分野としての生物調査とは異なる分野から生物調査に応用できそうな例をもう一つ。
 テレビで流されているシャンプーやリンス等のヘアケア商品のCMを見ていると、毛の表面、キューティクルの痛みに注意!なんてフレーズが良く出てきます。そして手入れをしないとこんなになっちゃうよ、という感じで毛表面の写真が紹介されていたりします。
テレビに出るのは電子顕微鏡の写真なのでとてもきれいですが、まあこんなやつです。↓

右が痛んでいない毛の表面で、左が痛んじゃったやつですね。痛んだ毛というのはつまり表面のキューティクルがはがれたり、すり減ったりしているということで、
パーマをしょっちゅうかけたりリンスをかけなかったりするとこうなりますとシャンプーのメーカーは言っているようです。
 人間はそうでしょうが、では動物ならどうでしょう。ネコは全身の毛をなめて手入れしている光景をよく見ますね。しかし、多くの動物はネコみたいに体が小さく軟らかいわけではないので、全身の毛を手入れすることはできません。すると、動物の毛はいつも痛んじゃってるんでしょうか。サルみたいに、お互いに手入れしあっている 
いえいえ、そんなことはありません。キツネやタヌキのような野生動物の獣毛、特に剛毛は人間の毛よりも丈夫ですからヘアケアなんかしなくても表面のキューティクルがはがれるようなことはないのです。
外部に露出している部分以外は。
 キツネやシカの通り道(獣道)はだいたい森のやぶを通っています。彼らの毛は毎日やぶの枝や草の葉に叩かれ、こすられていることになります。なので、その部分は当然表面が痛んできますが、それは毛の先の部分に限られます。大部分の獣毛はふさふさした毛の中に埋もれていますから。
 さてここからが動物遺物学のお話しですが、フィールドで獣毛を採取して表面をスンプ法で観察してみると、毛根から毛先に至るまでキューティクルの痛みが観察できることがあります。この場合状況にもよりますが、その獣毛は動物の体から落下した直後の毛ではない可能性が高くなります。つまり、落下してから雨に打たれたり水に流されたりすることにより、毛の全体に傷がついた可能性が高いということです。
 このように、毛表面の傷から採取されるまでの経過を推察しようという技術(というか努力)は、警察の鑑識の分野でかなり前から研究されてきました。残念ながら現在の科学捜査研究所ではそのような研究を続けている方は少ないようですが、過去に発表された資料があります。これらも動物遺物学で扱う技術として今後応用できるでしょう。
 以上二つほど動物遺物学に応用できそうな事例を挙げてみました。しかし、このように様々な分野の技術によって集まった生態情報を、どのように利用してその後の調査に生かしていくかは調査者の技量次第です。必要な情報を得るにはどのような手法を使えば良いか、情報をどのようにつなぎ合わせたら良いのか、次回からはそのあたりをさらに考えていきます。
最後のお言葉です。
「科学者はみんな名探偵でなければならない。」寺田寅彦

<いきもの写真館>

ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。

第53回はキツリフネです。
自宅の近所、城址公園に咲いてました。
花の形がきれいだし面白い!
上からぶらぶら垂れ下がってます。

<研究部会からのお知らせ>
*特にありません。