研究部会通信2013年2月号

<動物遺物学の部屋> 
第16回 巣箱と獣毛同定の話
 獣毛を同定する技術が「商売」として利用できる分野のひとつに、樹上性哺乳類を対象とした巣箱調査で採取した巣材から出る獣毛の同定というものがあります。
ダムや高速道路をつくる際ののアセス調査では、山奥の森林地帯が調査範囲になります。
そのときに保全上問題となる動物が樹上性哺乳類というやつです。
「繁殖を含む生活活動の空間が主に森林域の樹上であって、餌資源も森林域に依存する哺乳類」というのが私なりの定義なんですが、リスやムササビ、ヤマネ等が該当します。
特にヤマネは特別天然記念物ということもあって、樹上性哺乳類の中ではオオタカ並みにスター扱いされます。
つまり、生息していると分かると保全対策をとらなきゃいけない、ということになります。
樹上性哺乳類も他の野生哺乳類と同じく、おいそれと目撃できる動物ではありません。
そこで、樹上性哺乳類の生息を確認する調査ではよく巣箱を使った手法が使われます。
森林地帯の樹木の幹に小鳥の巣箱をつけておくと、樹上性哺乳類が休息場所や冬眠場所、時には繁殖場所として使うことがあります。
ヤマネじゃないですけど、巣箱に来たヒメネズミをカメラで撮ってみました。

彼らが巣箱を使うと中に巣材が残りますので、実際に姿を確認できなくても入ったことが分かります。
その巣材の種類(葉やコケ、樹皮など)から入った種類の見当をつけるのですが、巣材から出てくる獣毛を同定すればさらに確実でしょう。
ということで、私が獣毛の同定についていろいろやっているということをどこで聞きつけたのか、最近ではアセス調査を受注した会社から巣箱検出獣毛の同定依頼が増えてきました。
そこで、こちらとしてはこのような同定依頼に対して次のように対応していますので、皆様よろしくお願いします。
研究機関やNPOといった非営利団体からの依頼にはお金の請求をあまりしませんが、商売としてやっている会社の方々からはばっちりいただきます。
お値段については、個別にお問い合わせくださいね。
ところで巣箱調査の経験がある方だと想像がつくと思いますが、巣箱に詰まった巣材から獣毛を拾い出す作業はとても大変です。
特にヤマネの獣毛なんて薄い茶褐色のとても細くて短い毛ですから、樹皮や葉の束の中から見つけ出すのは至難の業です。
通常はプラスチックの四角皿(バット)に広げて肉眼で拾い上げていきますが、1日で2〜3箇所まじめにやれば目が痛くなります。
多くの会社からは、集めた巣材をそのまま送るので拾い上げ(ソーティング)と同定の両方をお願いしますと頼まれます。
ですが「それは勘弁して」と、ソーティング済みのもの(獣毛らしきものをビニール袋に入れたもの)を送ってもらうようにしています。
数年前のことですが、ある会社からどうしてもソーティングから同定まで短期間でお願いします、それも50箇所くらい・・・と頼み込まれたことがあります。
加えてお金はあまり出せない、という条件も。
さて困ったぞ・・・
そこで思いついたのが、家庭のほこりからダニ等の微小生物を分離検出する方法がこれに応用できるのではないかということ。
この方法は飽和食塩水の中にほこりを入れて、水の表面に浮いてきたものをすくい取ります。
飽和食塩水というのは、これ以上入れても溶けなくなるまで食塩を入れた水のことです。
ほこりをこれに入れると、比重の違いにより虫が表面に浮いてくることを利用しています。
この原理を利用すれば、土砂や木片、大きな葉などから獣毛が分離して水の表面に集まるんじゃないかと思ったわけ。
で、実験してみました。
巣材をひとつかみ、ビーカーに入れて飽和食塩水を注ぎます。
さらに食器用洗剤液をひとたらしして、ぐるぐるかき混ぜて1時間放置。
すると、葉っぱもかなり浮いてしまいましたが半分以上は沈んでいました。
浮いたものを集めてもう2回ほど同じ操作をします。
最後に、浮いて残ったものをバットに広げて見ると・・・おお、獣毛がいっぱいあるある。
次に、事務所まわりの落葉や土砂を持ってきてまたビーカーに入れます。
今度はヤマネの獣毛を決まった本数、その中に入れます。
そして同じ操作をして、どのくらい残っているかを見てみます。
何回かやってみた結果、どうやら70%くらいは集められるみたい。
うーん、微妙な捕集率ですね。
正直に「70%くらいの確率ですけど、この方法なら短時間でできます。どうします?」と聞いたところ「是非!」ということだったので実施の運びとなりました。
お金はあまり出せない、とはいえ50サンプルですから結構なお金になりました。
それから、私はこの方法を「バケツ分離法」と呼ぶことにしました。
実際の作業ではビーカーじゃなくバケツを使ったので。
数個用意すれば、同時進行で何サンプルもできますから早かったですよ。
以上、ご参考まで。

最後に、今回のお言葉です。
論語 為政篇から。
孔子が弟子に「知る」ということを諭した言葉がこれ。
知之為知之 不知為不知 是知也 
和訳「知れるを知れるとなし、知らざるを知らざるとせよ、是れ知るなり」

<いきもの写真館>

ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第58回はチョウセンイタチです。
西日本では都会にも現れて家の天井裏で大騒ぎすることもあります。
移入種で、在来種のニホンイタチを圧迫していることが問題になっていますね。
顔が怒ってます。

<研究部会からのお知らせ>
*特にありません。