研究部会通信2014年3月号

<動物遺物学の部屋>

第28回 ホッキョクグマの毛は空洞だから暖かい?
 数年前に、ホッキョクグマの毛は中が空洞のストロー状で、空気を毛の中にためられる構造になっている。
このため断熱効果が高く寒い北極でも生きていけるのである、という説が出されました。
テレビ等のマスコミでも時々話題として紹介されます。
実際、この話についてマスコミから意見を聞かれたこともあります。
このような構造はホッキョクグマだけである、とのことですが私の経験ではそんなことはありません。
ホッキョクグマの毛(たぶん、剛毛のことを言ってるんだと思いますが)を1個体だけ見たことがありますが、ごく普通の獣毛のように見えました。
下の写真がそうですが、髄質部分にはスポンジのような組織が見えて、特に空洞のようには見えません。

ネコ目哺乳類の多くは、顕微鏡で剛毛を観察すると髄質部分にはスポンジのような、あるいは細胞のような構造が見えます。
皮質に比べると空気の入る部分が多く、いわばスカスカの構造なので空洞のようなと言えなくもないのですが、何らかの組織は確かにあります。
また空洞の大きさが断熱効果に直結し、寒い所に住む哺乳類だからこうなっているというように聞こえますが、これも?と思います。
ニホンジカは暖かい地方にも住んでいますが、髄質の大きさはホッキョクグマの比ではありません。
あまりにスカスカ部分が大きいので、曲げると本当にストローみたいに折れ曲がってしまうほどです。
髄質部分(空洞部分のことでしょう)が太いのは寒いところに住んでいるからという後天的(?)な理由ではなくて、もっと根源的な進化に根ざした理由があるように思います。
一度、有袋類の獣毛を見たことがありますが、平行進化でそっくりの形態となった有胎哺乳類の獣毛とは全く異なる形状でした。
全世界の哺乳類獣毛を集めて調べたわけではないので、はっきりと断言することはできないのですが。

最後に、今回のお言葉です。
「結局のところ絶滅に瀕しているのは私たちなのである。
ホモ・サピエンスは生命のピラミッドの頂点に立っていると考えられているが、頂点は不安定な場所である。」パトリック・リー

<いきもの写真館>
ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第69回はカンヒザクラです。

佐倉市あたりでは、ソメイヨシノはまだつぼみですがこの桜はもう満開です。
色も濃くて緋色にたとえられるので「寒緋桜」ですね。

<研究部会からのお知らせ>
お知らせ事項は特にありません。

 このメーリングリスト通信に関するご意見、お問い合わせ等は下記までお願いします。
 研究部会長  邑井良守イカリ消毒株式会社) murai@ikari.co.jp