研究部会通信2014年4月号

<動物遺物学の部屋>
第29回 糞中から剛毛を見分けるコツ
 動物糞の中から獣毛を見つけるには、糞をつぶしてアルコールに溶かし、実体顕微鏡を使ってひろい出します。
今のところ同定できるのは剛毛なので、見つかる毛の中から剛毛だけをひろい出さなくてはなりません。
その作業の際に気をつけなくてはいけないコツをひとつ。
つぶしたネズミの糞をシャーレ等に入れて探していると、まずは肉眼でも獣毛の束が見えます。
顕微鏡で見ると短いながら黒い色の獣毛が何本か目立っているでしょう。
ところがですね、多くの場合これは剛毛ではありません。
実際に透過標本にして観察してみると特徴的な髄質構造は見えず、人間の毛のような一本線が見えるだけです。
これはヒゲ、つまり感覚毛です。
感覚毛は体毛とは発生学的に異なる組織とされていて、その構造は剛毛を含む体毛とはまったく違っています。
最も違うのは、前回お話したとおり多くの哺乳類では体毛の髄質が太く、その構造はスポンジのようにスカスカですが感覚毛はそうではないという点です。
ネズミの毛は特に髄質が太く、剛毛はまるでストローみたいな構造ですが感覚毛は身が詰まったかたい線、といった感じです。
なので、消化器を通って出てきた糞の中でも感覚毛は形が全く変わらず、毛そのままに見えます。
しかし、剛毛を含む体毛は髄質のスポンジ部分がペシャンコになってしまい、見た目はきしめんか植物繊維みたいです。
おまけに色も無く、透明になって見えます。
これは、髄質構造がしっかりしていると髄質中に空気が入っているので毛は白く見えるんですが、空気がないペシャンコ状態では光をそのまま通してしまうからです。
それに、同定しやすい髄質膨大部はさらに幅広いきしめん状態なので、顕微鏡下では折れ曲がったり折りたたまれた形で見えたりもします。
糞分析で毛を探す場合はちょっと見て黒く見える、いかにも毛というやつじゃなくて、そういったやつを探しましょう。

最後に、今回のお言葉です。
梅の花の香りの流れているところは、きっと、それは人里です。
梅の樹のないところには、その土地に住みなれたお爺さんもいなければ、人のいないところには梅の花も咲かないのです。」佐佐木俊郎

<いきもの写真館>
ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第70回はアマナです。

田んぼ際の草原にあるニラみたいな葉っぱを見ていると、何だかユリのような小さな花が・・・
早春に花が咲き、目いっぱい花びらが開くとこんな感じ。
球根を食べると甘い味がするそうで「甘菜」です。

<研究部会からのお知らせ>
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