生物技術者連絡会通信 2024年3月号

生物技術者連絡会通信 2024年3月号

 

<生物技術者が見た風景〜山野辺の道で>

 若いころは仕事の合間に山登りに出かけるのが日課だった筆者ですが、腰を痛めてしまったこともあって定年になってからは山に行くこともなくなりました。だけど自然の中に身をゆだねたい!…という欲求は耐え難く、各地の遊歩道や自然歩道、ハイキングコース等で気に入ったものがないかなと探して行ってみたりしています。今では季節を変えて何回も行く、お気に入りのコースが幾つかできました。その中の一つが奈良県にある「山野辺の道」です。東海自然歩道の一部でもあるこのコース、世間では歴史散歩コースとして有名ですが生物技術者の目から見てもなかなかいいコースです。天理市から桜井市まで、名前の通り山と平野との間を縫って伸びる約16kmくらいの距離で、筆者のような年寄りでも1日で歩きとおすことができます。特に筆者が気に入っているのはコース中に現れる植生が非常に多様であることです。石上神宮の社叢林や大神神社裏の三輪山は全くの原生林、天皇陵とされる二つの巨大古墳は4~5世紀から手つかずのほぼ原生林、古代から続く柿や柑橘類の畑地、寺院庭園、竹林、古墳や集落の環濠(池)、谷間の小河川、小規模な棚田、菜の花畑、緩斜面の遊休地(草地)等々…。植生が多様なせいか生息する生物も多いようで毎回行くたびに様々な姿や痕跡を見ることができます。今年の3月も行ってきましたので、生物技術者なら気に入りそうな風景を写真で幾つかご紹介しましょう。

 

 まずは歩いていると出会える景観をご覧ください。行燈山古墳(崇神天皇陵)の近くから渋谷向山古墳(景行天皇陵)方向を見た風景です。水田にカキとミカンの果樹林、草地に休憩施設とパッチ状になった環境の、起伏のある斜面をうねうねと道が続いていきます。なんだか懐かしい感じになるでしょ。

 

 ため池のほとりで見つけた足跡。アライグマの足跡ですね。奈良県には多いんでしょうか。

 

 道端に設けられたベンチに座って、ふと地面を見たらシカの足跡がありました。奈良県のこのあたりはシカが多いんだそうで、奈良ではシカが神の使いになってるからでしょうか。

 

 3月上旬のこの時期、道端の菜の花畑が満開になってました。遠くに見える山は神話で有名な二上山です。

 

 どうです。行きたくなりました?  今回は写真だけでしたが、この散歩道についてはそのうち、さらに詳しくご紹介しますね。

 

<有害動物の話⑦~ハクビシン

 ハクビシンは謎の多い動物です。日本国内では本種が属するジャコウネコ科の化石が出土せず、分布も西日本に多いものの目撃例が全国に点在していることから外来生物とされていますがいつ入ったのかは不明。体全体はほぼ灰色で顔の正中線が白いのが目立ちます。なので白鼻芯(ハクビシン)。

 上の写真は捕獲箱に捕まった幼獣です。で、生息数はあまり多くないのかなと思っていたら、2005年にSARSという感染症が話題になった際にハクビシンが全国にどのくらいいるのか詳しく調査してみたところ、東京23区を含む首都圏全域に普通に生息していたことが分かったのには皆びっくりしました。ハクビシンはほとんど声を出さないし、日本にはタヌキやキツネ、アナグマ等、大きさや色合いや行動様式が似た動物が複数いることが実態を長年把握できなかった理由なのでしょう。今では首都圏のあちこちで、建物の天井裏に入り込んで大騒ぎしたり糞を巻き散らかす、庭の果樹を食害するといった被害が頻発し立派な有害獣として認識されています。

 このハクビシン、図体がタヌキやテン並みに大きいのに動きはリス並みに軽やか。建物の垂直な外壁も平気で登れます。歩く際のバランス感覚も相当なもので、細い木の枝どころか電柱の間を通している電線を歩いて渡ることもできます。たぶん彼らが出没する街では夜になると電線伝いにあちこちを移動しているはずですが、家に帰るサラリーマンにはとんと気づかれないんでしょうね。被害にあう建物は彼らが天井裏に入れちゃうくらい大きな隙間があって天井裏の空間も広い寺社仏閣や、文化財的な建物を利用した美術館博物館といったところが多いようです。

 上の写真はとあるお寺で天井裏に侵入された事例を撮ったものです。軒先の羽目板が外れた箇所を侵入口として利用してますね。羽目板の周りと戸袋の横が黒く汚れているのが見えますが、構造的に角にあたる箇所を利用して地上から天井裏へ登って行っているのがよく分かります。それで一般の家屋なら天井裏の騒音や糞害が問題なんですが、寺社仏閣となると別の問題も発生します。彼らは垂直な壁も鋭い爪を使ってぐいぐい登っていきますので、建物が大事な文化財だった場合は重大な損壊被害になってしまうのです。下の写真のように。


 ハクビシンは多くの場合建物を休息場所もしくは一時的な避難場所として利用しているようで、通常は樹洞やタヌキなどの動物が使い古した巣穴などを繁殖場所にしています。他の中型哺乳類と比べると1年間の行動範囲は1km四方と狭く、その中に休息場所や避難場所を複数持っていてそれらを点々と移動しながら生活しているようです。侵入被害が起こった場合は、侵入されないように建物への侵入個所を特定して閉塞するのが一番です。侵入ルートは屋根から天井裏へ直接通じる箇所からの他に、まず床下に侵入して壁内の空間を通って天井裏に達するルートもありますのでご注意を。庭の果樹が荒らされる、農作物が食害されるといった場合の対策は捕獲箱を使って捕獲除去することになります。ネコと違って人工物への警戒心が強いので捕獲作業は長期に渡ることが多く、設置して数か月後、忘れた頃に捕獲されたという話をよく聞きます。 

 

<いきもの写真館No.158 ハジロカイツブリ

 金沢市から車で1時間弱ほど南に走ったところにある木場潟という湖で撮った1枚。最近では関東でもいろいろな湖沼でカンムリカイツブリを見る機会が多くなっていますが、こちらはまだまだ珍しい存在ですね。一見カンムリカイツブリに似てますが一回り小さく、首は短くて白い部分が少ないです。また、目の赤さがカンムリカイツブリよりも良く目立ちますね。この湖では関東では見ることが少なくなったオナガガモもたくさん見ることができます。湖畔に遊歩道があって一周で1時間ちょっと。運動不足を解消するトレーニングにはちょうどいいかな。

 

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生物技術者連絡会 研究部会 邑井良守 yoshimori.murai@gmail.com