生物技術者連絡会通信 2022年2月号

生物技術者連絡会通信 2022年2月号

 

<生物技術者が見た風景 〜 この跡って何?①>

 生物技術者が持つべき技能の一つに糞や足跡、羽毛や獣毛、食痕といった動物が残した痕跡、一般的にアニマルトラックといわれるやつですが、その動物を判定する能力があります。書店に行くとこれを紹介した書籍がたくさんあり、野山に持っていって実際の痕跡と見比べて判定に役立てる、という趣旨のハンドブック形式のものも出版されてます。しかしながら実際に調査に携わっている方々なら当然のことですが、野山で本に載っている通りの痕跡に出会えることはまずありません。アニマルトラックの判定能力を本当に磨きたいなら、色々な痕跡の基本的なパターンはこのような本で学ぶとして、後は現場ではどのように目の前に現れてくるのか、ひたすら現場へ行って経験を積んでいくしかないでしょうね。もしくはそれを磨くことで飯を食っている方、つまりマタギに弟子入りするとか。

 ということで私が過去に見た、絶対に本には載っていないだろうと思われるアニマルトラックの事例を一つ紹介します。写真をご覧ください。

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 なんじゃこりゃ!? チョウチョかな? 誰かが書いた模様か?…と見たときは思ったものですが。実はこれ、アマガエルが歩いた痕です。ホコリの上を歩くとこうなるんですね。アマガエルは水域からかなり離れたところまで活動し、カエルの中でも乾燥に比較的強いので建物の中まで侵入してくることがよくあります。これは倉庫の隅っこで見つけました。

 筆者は学生の頃に先輩から勧められた「ANIMAL TRACKS AND SIGNS」という洋書を今も手元に持っています。何度も読み返したので今やボロボロですが、手に入れてから40年たっているのに、今だに日本で出版されている同類の本をはるかに凌ぐ素晴らしい本だと思います。痕跡の基本的なパターンを頭に入れたいならこの本を推薦しますね。COLINS GUIDEというシリーズ物の一冊で英語の古本ですが、今でもamazonで売ってるみたいです。

 

<総合衛生管理業の生物技術② ~ 虫を同定していくら稼いでいる?>

 総合衛生管理業における生物技術の利用状況や今後の発展方向についてのご紹介第1弾です。まずは私がかつて勤めていた会社のHPを御覧ください。

https://www.ikari.co.jp/business/inspection/contamination/

この中に2020年に受けた異物検査依頼件数のデータが載っています。これによると「虫・生物」が全体の16%、依頼件数全体が3万件ですので年間では約5,000件というところでしょうか。一つの依頼で一つの分析結果報告書を作成しますが、その分析料金は分析した検体の数で積算されます。つまり分析費が1検体あたり2万円だとして、食品に混入していた虫が2つなら2万✕2の合計4万円ということになります。2匹じゃなくて2検体と書いたのは、1匹の虫が翅と脚とでばらばらに混入していたら2検体になるから。この検査業務の年間総売上は2015年で6億以上だったと記憶してますので、つまりは虫を同定して5000〜9000万くらいは売り上げていたと思います。大手の流通会社では店舗での異物混入クレームが発生すると、混入異物の同定分析報告と対策報告をセットで提出することを製造メーカーに義務付けてます。それも数日以内に。できないと納品禁止とかのペナルティ。メーカーも大変ですね。一つの分析会社だけでこの数字ですから、日本全体ではどのくらいの金が落ちているんでしょうか。

では、このような検査ではどれくらいの同定スキルが求められるのか。そのあたりを次号で。

 

<いきもの写真館No.131 カンムリカイツブリ

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 大きな池や河口近くの河川などで見る、動きはカイツブリそっくりだけど一回り大きなやつ。最近数は少ないものの、冬になるとあちこちで見かけるようになりました。昔は珍しくて見つけると大喜びしたものですが、今ではそれほど感激しなくなっちゃいましたね。たいていカモの群から離れたところを1〜2羽で動いてますから見つけやすい鳥でもあります。まんじゅうのような体から伸びる、長い首筋の白さが印象的ですね。