研究部会通信2015年12月号

<動物遺物学の部屋>

第45回 獣毛同定技術に関するよもやま話〜イヌネコ獣毛の同定は難しい
 獣毛を同定する仕事を長年続けていると、いろいろなことが分かってきます。その中で思うのは、イヌやネコのような家畜化された動物の毛を同定するのはとても難しい、ということです。
 純粋な野生動物と違って、このような動物は昔から人間の好みに合うように品種改良されてきました。イヌなどはチワワのような小さな品種からセントバーナードのような大きな品種まで、同じ動物?と疑うような大きさの違いがあります。ネコではほとんど毛のない品種、なんてものもあります。さらに、それらの品種どうしの交雑種もある。このような「ひろがり」は、当然のように獣毛にも反映されて、標準的な特徴からの逸脱は半端ない状況となります。
 するとどうなるかというと、例えば近縁な野生動物が示す特徴の傾向(まとまりの幅)を取り込むように、ほとんど重なってしまうということがおきます。ネコとツシマヤマネコの特徴(髄質比)を例にするとこんな感じです。

 いや、これじゃイヌネコの獣毛を同定することなんて不可能じゃないかと思ったあなた、実はそんなことはないんですよ。同定するポイントは髄質比だけじゃなくスンプ像や見た目の形状、色調等もありますから、いろいろなポイントから総合的に調べれば同定は可能です。これ、難しいように思えますが同定の経験を重ねていくと瞬時に見当がつくようになってきます。残念ながら、こういうものはマニュアルのように活字化することができないんですよね。結局、子供の頃から虫が好きだった人は虫の一部分を見るだけでも種類の見当がついちゃうのと同じです。彼らに理由を聞いても「何となく」とか、「雰囲気が」としか言えないみたいですし。

今日のお言葉です。
「科学の進歩を妨げるものは素人の無理解ではなくて、いつでも科学者自身の科学そのものの使命と本質とに対する認識の不足である。」寺田寅彦

<いきもの写真館>

 ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第87回は来年の干支ということでニホンザルです。

モノクロ写真ですいません。これは私が学生時代(30年以上前!)に山奥に現れたニホンザルを撮ったものです。当時はもちろんフィルムカメラで、貧乏なので外国産の安いモノクロフィルムしか買えなかった時代でしたね。山で見る野生のサルは動物園で見るものとは全く別の動物だ、なんて思ったものです。私はこれで、1ヶ月もサルを追っかけて山にこもるようになり、現在に至る・・・
この頃は山奥でしか見られなかった動物ですが、今では民家近くに現れて作物を荒らすことが注目されるまでになってしまいました。

<研究部会からのお知らせ>

 2016年1月30日に生物技術者連絡会の講演会(セミナー)を自然環境研究センターで開催します。ご興味のある方は、生物技術者連絡会のHPにご案内していますのでご覧ください。