研究部会通信2016年5月号

<動物遺物学の部屋>

第48回 ニホンオオカミの獣毛を同定できるか?
 
獣毛の同定に関して、けっこう奇妙な問い合わせを受けることがあります。
「殺人事件の捜査に協力してくれないか」とか、「古墳から発掘された武具に使われている毛皮が何の動物か分からないか」とかいうのは割とまともな方です。
記憶に残っていて、かつて奇妙と思った問い合わせのひとつに「うちで飼っている犬がニホンオオカミの血を引いているか毛で分からないか?」というものがありました。
何でもニホンオオカミが今でも生き残っていることを信じている方々がいるそうで、その証拠の一つにしたいとのことでした。
DNAによる同定技術がなかったころの、かなり昔の話です。
ニホンオオカミとされる剥製標本は世界中に4体しかありません。
また、日本にはニホンオオカミのほかに「ヤマイヌ」と称された別種のイヌ科動物もいたという説もあります。
DNA解析もそうですが、獣毛を同定するには比較できる対照標本(基準標本)がなくてはなりません。
比較できる標本が手に入る可能性は少なく、かつその標本についても分類学的に問題があるわけです。
なのでこの場合、もし標本が手に入ったとしても「確かにニホンオオカミだった」という答えは出せないでしょう。
近年まで生息が確認されていたニホンカワウソなら、まだ可能性はあると思いますが。
ジャイアントパンダホッキョクグマは獣毛で区別できるか」という問い合わせも過去にありました。
こちらの方は日本に存在するパンダの剥製から5個体以上の標本が得られましたので、実際に比較検査を行っています。
この仕事、長くやっているといろいろなことがあるものです。
すいません、都合により今回は添付写真なしです。

今日のお言葉です。
「オオカミはほかの動物種の脅威となってもいなければ、人間の真の競争相手でもないという私の主要な論点は、不幸なことにほとんど受け入れられないままである。」 ファーリー・モウェット

<いきもの写真館>
 ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第89回はフデリンドウです。

サクラも咲き終わって、新緑の色に染まってきた明るい雑木林の地面を探すと、近所でも見つかるかもしれませんよ。
ちっちゃくて、かわいい花です。

<研究部会からのお知らせ>
特にありません。