研究部会通信2013年6月号

<動物遺物学の部屋>
第20回 見た目でも同定できる?
 獣毛は標本にしないと同定できないのか、いやいやそうでもないというお話。
哺乳類は鳥や虫のように原色の色彩をまとっておらず、獣毛そのものの色もおおむね褐色系で地味です。
なので、獣毛1本1本を見ると色がついていても黒か褐色と、至って地味な色彩をしています。
鳥の羽ですと1枚の羽からその鳥の色彩を何となく想像することができますが、獣毛1本だけでその獣の色彩を想像することはちょっと難しい。
じゃあ、やっぱり獣毛は標本を作らないと同定できないのかというと、実はそうでもありません。
基本的に、毛や羽についている色彩だけが種類を同定する重要な要素ではありません。
いや、むしろ色彩は種を同定するための重要な要素にはなりません。
だって、獣も鳥も子供と大人とでは色彩が違うじゃないですか。
雄と雌でも色彩は違いますし。
動物の種類が同定できる要素(以降は形質という言葉にします)は、成長しても変わらないものであることが条件です。
色彩はあてになりませんので、それ以外の形質で見ることが必要です。
獣毛も、たくさんの種類を見てくると色彩以外の形質で違いが見えてきます。
例えば、ネコの獣毛をよーく見てみてください。
太い毛(剛毛)を見ると、毛先近くの部分がぶっくり膨れているのが分かります。
この特徴は他の動物にもありますが、ネコの毛ではこの部分がかなり目立ちます。
動物の大きさと獣毛の長さはだいたい比例しますので、このような特徴と毛の長さから同定の経験を積んでくると何となく肉眼で見てもネコの毛だと分かってきます。
ブタやイノシシの毛は他の動物の毛よりも弾力性が強く、まるで化学繊維のような感じです。
ということで、しょっちゅう獣毛を同定していると、毛を肉眼で見るだけでもだんだん種類が分かってくるようになります。
これって、だぶん虫の同定と同じですよね。
見た目で同定できる形質について、昔からの言い伝えとして残っている言葉があります。
「強く曲げて折れるようだったらシカの毛」というものです。
これ、本当ですよ。
シカの毛は髄質部分が非常に太くて、髄質の内部はスポンジ状になっています。
いわばストローのように空洞に近い構造なので、強く曲げると折れてしまうのです。
ちなみに、カモシカもそうですが鹿よりも若干髄質部分が細いので折れにくい感じです。
ところで、以前TVでシロクマの毛は断熱効果をあげるために内部が空洞になっている、という話を聞いたことがあります。
でも、シカやカモシカの方がよっぽど空洞なんですが、彼らは別に北極圏には住んでませんけどね。
空洞になっているのは、たぶん別の理由じゃないかと思うんですが。

最後に、今回のお言葉です。
「よい観察者であるということからこそ人類は進歩して来ているのだし、近頃しきりにいわれる科学の精神の具体的なよりどころも、
つまりはここにかかっているのだと思われる。」 宮本百合子

<いきもの写真館>
 ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第62回はジョウカイボンです。

筆者の商売である消毒屋の世界ではカミキリモドキという有名な毒虫がいますが、その虫にそっくりなので損をしている虫です。
カミキリモドキは触ると炎症を起こすので嫌われますが、こちらは全く無害です。
調べてみると、ジョウカイボンという名前も炎症を起こす虫という誤解からきているようで、お気の毒です。
身近に普通にいます。

<研究部会からのお知らせ>
 今月のお知らせは、特にありません。