研究部会通信2013年5月号

<動物遺物学の部屋> 
第19回 透過法のお話
 前にスンプ法に関するエピソードをお話しましたので、今回は「透過法」のお話を。
透過法というのは獣毛を同定するための方法のひとつで、獣毛の内部構造を見る手法です。
獣毛を封入液に入れて、スライド標本にすることにより内部構造が見えるようになります。
人間の毛髪なら50倍から100倍、細いネズミの獣毛でも400倍あれば見ることが出来ます。
いうまでもないことですが、実体顕微鏡じゃなくて生物顕微鏡で見るんですよ。
ケンコーやビクセンが売っている学習用顕微鏡(1万円以下で手に入ります)でも結構見えます。
筆者は、獣毛をグリセリンやガムクロラールといった封入液でそのまま封入しても観察可能と紹介しています。
実際、これで顕微鏡をのぞくと髄質構造が黒く浮き出て見えてよく観察できます。
ただし、これは獣毛を封入液に入れてすぐに見た場合の話です。
実は、髄質構造が黒く浮き出て見えるのは髄質の中に残った空気が光を通さないからです。
なので、封入液に獣毛を長く入れておくと髄質の中にまで液が入り込み、黒く見えなくなります。
毛を同定するためだけならこれでいいんでしょうが、永く残す標本だったらダメですよね。
永久標本にするには毛を染色して、カナダバルサムという封入液を使う必要があります。
毛の染色には、髄質に色をつける方法と皮質に色をつける方法があります。
簡単なのは髄質に色をつける方法で、筆者はスダンBという染色液を使っています。
これだと封入する前に液に漬けるだけで、とっても簡単です。
スダンBは毛の中に含まれる脂肪分に色をつけます。
毛の中では髄質に脂肪分が多く含まれるため、髄質がよく染まるというわけです。
写真はヒメネズミの獣毛ですが、茶色い部分がスダンBで染めたもの、黒い部分が空気の部分です。

染色液を手に入れるのは難しいかもしれませんが、皆さんも一度試してみてくださいね。
すいません、今回の話は少し難しかったかも。

最後に、今回のお言葉です。
「何といっても植物は採集するほど、いろいろな種類を覚えるので植物の分類をやる人々は、ぜひとも各地を歩きまわらねばウソである。
家にたてこもっている人ではとてもこの学問はできっこない。」 牧野富太郎

<いきもの写真館>
ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第61回はトビズムカデです。

これぞムカデ! という感じのでっかいムカデです。
色もまたおもちゃそっくりで毒々しいこと・・・
体長は大きなもので20cmにもなります。
こいつを見つけても触っちゃあいけませんよ。
あごに毒牙をお持ちですからね。
道を渡っていたやつを撮したものですが、丁重にお通ししてあげました。

<研究部会からのお知らせ>
*書籍発刊のお知らせ
 私の知人、植田健仁さんも執筆されている書籍「北海道のサンショウウオたち」(佐藤孝則・松井正文編著)がエコ・ネットワークから発刊されました。
北海道に生息するエゾサンショウウオとキタサンショウウオについて、今まで得られた知見を集大成したものです。
小中学生対象、一般対象、研究者対象とレベル分けして章を構成している点が面白いです。
問い合わせは以下にどうぞ。
エコ・ネットワーク 
〒060-0809 札幌市北区北9条西4丁目エルムビル8F TEL:011-737-7841 FAX:011-737-9606
E-mail eco@hokkai.or.jp
価格は¥1500です。