研究部会通信2014年2月号

<動物遺物学の部屋>

第27回 イヌとネコの毛は同定が難しい?

獣毛同定の技術普及に努めているブログ主ですが、寄せられる意見の中には苦情やクレームもあります。
結構あるのが「イヌやネコの毛でやってみたけど、よく分からなかった」という意見です。
実はそうなのです。
イヌやネコの毛は手に入りやすいので、初めて同定を試みる際のサンプルになることが多いんですが、同定の難易度からいえば最も難しい毛なのです。
試しにイヌの毛のスンプ像を作ってみましょう。


上がミニチュアダックスの背面剛毛、下が柴犬の背面剛毛です。
どちらも毛根部ですが、全然違いますね。
透過像でも髄質比等の形質が品種によって微妙に違っていて、マルチーズみたいな長い毛のイヌになると髄質が全く消失しちゃってます。
ネコでもこの傾向は同じです。
品種によって違いがあるし、雑種になったらさらに混ぜこぜになってもう分けがわかりません。
これ、人間によって品種改良が進められた結果なのです。
品種改良によって本来保温や防御に役割を持っていた剛毛が長毛や縮毛に変えられ、もはや装飾の意味でしかなくなった毛に種としての特徴は失われています。
それじゃイヌとネコの毛は同定できないのかというと、そうでもありません。
イヌでいえば、おそらく柴犬のような品種の毛が原種としてのイヌに形質が最も近いと思います。
イヌの基本形といえるのが柴犬の毛で、他の動物よりもバラエティー(個体差)の幅が非常に大きい、と考えれば良いのです。
実際、ネコとツシマヤマネコの毛を比較したところ、形質としてはネコの幅の中にヤマネコのそれがすっぽり入っているという感じでした。
ということは、他の動物の特徴に合致しない毛はイヌネコの毛である可能性が高い、ということになります。
いろいろな形質で調べていって、消去法で最後に残ったのをイヌかネコの毛とするということですね。
ついでに言いますと、具体的に調べたわけではありませんが分布域が狭く個体数が少ない種だと、髄質比とかスンプ像といった形質はごく狭い幅に集まっているように感じます。
ツシマヤマネコの毛なんか、10頭以上の個体を調べましたがどれも同じ個体のように見えました。

最後に、今回のお言葉です。
「庭園や公園は、自然界が与えてくれた要素を、人間が自分の好みに合わせて単に並べかえただけのものである。」ドン・ゴールドマン

<いきもの写真館>
ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第68回はトウキョウダルマガエルです。

前回はアカガエルだったので、次はダルマガエルです。
昔はトノサマガエルと言っていたカエルですね。
ケロケロという、いかにもカエルって感じの声で鳴きます。

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