研究部会通信2013年1月号

<動物遺物学の部屋> 
第15回 獣毛同定とマングース駆除事業のお話
 2013年も毎月更新していきますのでよろしくお願いします。今年の第1回は2月2日のFBN総会セミナーで話題提供する、獣毛同定と奄美大島マングース駆除事業についてのお話を少しご紹介します。
 奄美大島には特定外来生物に指定されたマングースが生息しており、2005年から環境省特定外来生物駆除事業を展開中です。駆除を行っているのは、主に地元の若者たちで結成された「マングースバスターズ」の皆さんです。詳細はこちら
http://www.amami.co.jp/postmail/newpage03.htm
 駆除事業も10年を数え、アマミノクロウサギといった在来種の数が回復傾向にあるなど、着実に成果が出ているようです。ただ、事業が進むにつれてマングースの生息密度が低くなり、駆除効率という点で少し課題が出てきました。つまり、捕獲箱をたくさんかけて定期的に見回っているのですが、捕獲できる個体がずいぶん少なくなってきているのです。根絶を目指している以上、駆除効率をもっと上げていかないと目的は達せられないおそれがあります。
そこで、獣道に通過した動物から獣毛だけを採取できるヘアートラップを仕掛け、採取した獣毛を同定すれば現在の分布を把握でき、設置する捕獲箱の効率をもっと上げることができるのではないかというアイデアが生まれました。そのアイデアに乗っかるかたちで、採取獣毛の同定類別マニュアルというものを一昨年作成しました。全部で8ページほど、生きものに詳しくないボランティアの方々でも使えるよう配慮した小冊子です。総会セミナーでは、そのマニュアルのご紹介をする予定ですので、お時間があればぜひ2月2日に自然研9F会議室までお寄りください。
 今年第1回の最後のお言葉は、ちょっと有名なこれです。
「自然の中では人間はお客様である。どんな横着な、わがままな来客であっても、招かれた家の奥座敷まで、泥靴で上がっていく者はいないはずである。」R.チュクセン

<いきもの写真館>
ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。第57回はススキです。

 冬の谷戸を歩くと枯れススキが目立ちますね。冬の青空に向かってすっくと立つススキたちって、なかなかすばらしい光景だと思いませんか。

<研究部会からのお知らせ>
・「生物技術者連絡会研究報」発刊のご紹介
生物技術者連絡会 研究部会では、雑誌形式の「生物技術者連絡会研究報」を2月2日に発刊します。 この雑誌は生物技術者連絡会の活動を活性化するため、そして本来の目的である会員の情報共有や技術向上を具体化させるためのものです。発行頻度は当面年1回、掲載する内容は生物または生物技術に関する話題です。この雑誌冒頭のテキスト文章を以下に記載します。

「生物技術者連絡会研究報の発刊にあたって」
生物技術者連絡会は、生物や生態系に係わる各分野の現場技術者が集まった会である。
これら現場技術者を本会では「生物技術者」と総称している。
本会が考える生物技術者は、単なる生物学の研究者ではない。
自然環境から生き物の情報を最大限引き出せる人、それを社会の要求に応えて加工し利用できる人でなくてはならない。
つまり、非常に高度なスキルを持った技術者であらねばならない。
高度な技術は日々の経験と研鑽によって発展し、維持される。
個々で技術を磨くことも必要だが、持ち寄って考えればその技術はさらに輝きを増す。
生きている技術は壁を乗り越え、道草をし、つまずいたりしながらも歩みを止めないものだ。
生物技術はその点でいま、危機に瀕している。
技術を磨ける現場や機会が非常に少なくなっているからだ。
現場や機会が減っていることは時代の流れであって、我々がどうすることもできないことなのかもしれない。
しかし生物技術というものが、それが滅ぶべき死んだ技術であるとは誰も思っていないはずだ。
むしろ、これからの時代にとても必要になる技術であるはずだ。
それがゆえに、この雑誌を世に残したいと思う。
生物技術を操った先人達の知識や思いを活字に残したい。
いま生物技術で生きてゆくことに苦しんでいる人達の助けになりたい。
これから生物技術者になろうと思ってくれる若者達に必要な知識や信念やエールを送りたい。
今の時代、本当にそう思う。

 2013年2月2日に開催する生物技術者連絡会の第19回総会および第47回セミナーの場で、発刊の発表と参加者への配布を予定しております。