生物技術者連絡会通信 2022年7月号

<生物技術者のための名所案内〜平栗いこいの森

 金沢市は山の尾根先に作られた平山城を中心とした都市で、面積的には山岳部(山林)が全体の三分の二を占め、残りが平野部に砂浜海岸が少しといったところです。山岳部は基本的に険しい地形ですから、人が住める場所は極端に少なくなります。なので春や秋のキノコ山菜採りを除いては、街に住む人々が好んで山岳部に入っていくことはありません。クマやカモシカ、サル、最近では多くなったイノシシなど、獣の生息密度がかなり高いので山に入るのはおっかない、人が行くところではないという認識が基本的にあるみたいです。ですが、そんな山深い地域の中にも幾つか、人が歩ける遊歩道が整備された場所があります。ここで紹介する平栗いこいの森はそんな場所です。

 金沢市街の南側に山岳部の端に位置した前衛峰のような山、野田山があります。この山は全域が墓地になっていて、中腹には金沢市を開いた戦国大名前田利家とその一族、歴代藩主の墓があります。その周りに武士や庶民が墓をどんどん建てていったわけで、いわば金沢のネクロポリスとでもいいましょうか。その野田山に登る道を通って野田山を越え、さらに山奥に向かって15分ほど。

写真1 くねくねと細い道が続きます

 

 森の急斜面をトラバースするようにつけられた狭い車道(写真1)をうねうねと辿っていった先に突然開けた場所、産廃処分場が現れます。そのまた先の平栗集落を抜けたところに平栗いこいの森はあります。実は、ここに産廃処分場を造る際のバーター取引でこの森は整備されたのです。もともと処分場ができる前から、カタクリの大群落とギフチョウの発生地として有名だったおかげです。今回も前回に引き続き、40分ほどで回れるおすすめコースをレポート形式でご紹介します。歩いたルートを書き込んだ案内図を見ながらお読みください。

案内図:平栗いこいの森のおすすめコース


 出発点はトイレが整備された駐車場。止められるのは10台ほどの小ぢんまりした駐車場(図中の★,写真2)です。

写真2 駐車場にはきれいなトイレがあります

 

 カタクリの時期以外は休日でもここはガラガラ。レポートした初夏は緑も鮮やかで森林浴感は満点です。それでは出発しましょう。駐車場を出るとすぐに道が三つに分かれます(写真3)。

写真3 三つの道のうち右前に向かう道を行きます


 ここは右前の方向、真ん中の道へ入ります。右側に広がる水田に沿って道を歩いていくと再び分かれ道(図中の①,写真4)。

写真4 T字路ですが真っすぐ行きます。

 

 とりあえず真っすぐ行きましょう。それから20mほど行くと前方が開けてきて、耕作地を眼下に望む展望台に着きます(図中の②,写真5)。

写真5 初夏では展望台の見通しが多少悪いですね

写真6 訪問時には池から大きなアオサギが飛び立ちました

 

 展望台のすぐ下には池があって(写真6)、池を覗くとたいていは飛び立つ水鳥を見ることができます。春には植え付け前の耕作地内を歩くカモシカやサルを見ることもあります。

 では来た道を①まで戻ります。分かれ道を今度は右に、森の中へ向かって入っていきます。ちょっと歩いていくと森の中に建物が見えてきますが、これは野鳥観察舎のようです(図中の③,写真7)。

写真7 森の中に埋もれたように建つ野鳥観察舎

 

 建物に入りたいところですが相当老朽化していてちょっと心配。やめときましょう。道の右側はもともと棚田だったのが森林化した場所ですが。その中に休憩舎が見えます(写真8)。

写真8 こちらの休憩舎は利用できます

 

 こちらの方は利用できそうです。案内図には休憩舎の周りに木道が書かれてますが、今は朽ち果ててしまって通れなくなっています。このあたり、春から初夏にかけて歩くと野鳥のさえずりがうるさいほど聞こえます。特にクロツグミが目立ちますね。 

 道をさらに進んでいくと左にカーブしながら上り坂に。周りの森は基本的にコナラ雑木林ですが、1本1本の幹が太くて林床は地元の方々が丁寧に管理しています。4月初めには、このあたりの林床は全てカタクリで埋め尽くされ、花々の周りをギフチョウが飛び回るという、生物技術者にとっては夢のような光景が出現します。初夏にはキビタキクロツグミオオルリといった鳥たちの美声で満ち溢れる場所です。坂を上っていくと、やがて道は車道と交差します(図中の④,写真9)。

写真9 車道が交差する場所を横切ります

 

 ここは車道を横切って、さらに坂を登っていきます。坂を上りきると車止めがあって車が通れる道はここでおわり。道端にはベンチが設けられていますのでここで一服しましょう(図中の⑤,写真10)。

写真10 ベンチに座ると森に包まれるような気分がします

 

 一服したら散歩を再開。終点まではあと10分くらいです。ベンチの裏に尾根をたどる山道があります(写真11)。

写真11 ベンチの横から道は二股、左の尾根道の方に行きます

写真12 森の中を進みます。落ち着きますねー

 この道は静謐という言葉がぴったりなゆったり歩きたくなる道ですが(写真12)、ゆっくり歩いても数分で尾根先に達します。道はここから左の急斜面を真っすぐ降りて行きますので、しりもちをつかぬように慎重に降りましょう。降りきったところが駐車場の脇で、めでたく出発点に戻りました。ご苦労様でした。

 ここはカタクリギフチョウの時期を外しても春の新緑、初夏の渡り鳥、秋の紅葉など、歩くたびに森林浴だけではもったいないような景色に出会えます。何度でも行きたくなるところですね。車でしか行けない場所ですが、道がとても分かりにくいのでご注意。あ、それと訪れるのは土日か祝日がいいですよ。平日は狭い山道を産廃処理場へ通うダンプカーがしょっちゅう走りますので。夏のお盆(7月と8月)時期も野田山が混みあいますのでご遠慮ください。

 

<いきもの写真館No.138 モリアオガエル


 平栗いこいの森を歩いていると棚田だった跡にできた池や水溜まりに幾つか出会います。その中でも真夏でも枯れないほど大きな池があり、そのほとりを歩いていると池端の草にモリアオガエルがいました。昼間はめったに出会うことがないのですが、隠れているつもりなのかピクリとも動かず安心しきっているよう。なかなかかわいいですね。草の葉先が折り曲げられていて、まるでベッドで寝てるみたい。この池はクロサンショウウオやトノサマガエル、ヤマアカガエルもやってきて、その周りの水が流れ込む草むらからはタゴガエルの声も聞こえてきます。良いところです。

 

本ブログの記事に関するお問い合わせは生物技術者連絡会 研究部会の邑井まで。

yoshimori.murai@gmail.com