研究部会通信2014年7月号

<動物遺物学の部屋>

第31回 ヘアートラップの話
 獣毛から種類が同定できることのメリットを考えてみましょう。
まず思いつくのが、動物を捕獲したり待ち伏せして個体を確認しなくても、そこに来る動物を同定することができそうだということですね。
彼らの獣毛さえ手に入れば種類が分かるわけですから。
そこで個体を捕まえるのではなく、そこを通る動物の獣毛だけを採取するようなトラップがあると苦労せずに生息種を知ることができることになります。
これをヘアートラップといいます。
私が知る限り、日本でヘアートラップを使い始めた最初の例はクマの生息分布調査からだったと記憶しています。
クマ調査の場合は有刺鉄線をトラップとして利用し、通過する個体の獣毛をトゲに引っかけて採取する、といったものだったと思います。
しかしこれだと、小型の哺乳類は怪我しちゃいますね。
奄美大島マングース駆除事業で利用されているのは、プラスチック片やトンネル状の筒に塗布した粘着物質です。
プラスチック片に触れたりトンネルを通過した動物の獣毛を粘着物質でからめ取ろうというものです。
これだとトラップの単価が安くすみますので、たくさんのトラップを仕掛けることができていいですね。
ただ、これに使う粘着物質を何にするかという点では注意が必要です。
あまり粘着力が強すぎると動物が動けなくなって、本当のトラップになってしまいますから。
ヘアートラップを調査に使っている方々は、ゴムのりやハエ捕りリボン等、いろいろなものを利用しているようです。
まあ、調査者にとっては安く簡単に手に入るものが一番良いので、私はゴキブリホイホイあたりを推薦しますね。
もちろん普通に使うのではなく、粘着面を地上面とは逆の位置にして、背中の獣毛を採取します。
市販の製品は紙製ですから、切り貼りして大きさをいろいろ調節できます。
ヘアートラップで採取した獣毛を同定したことがありますが、糞から検出されるものとは違って非常にきれいな獣毛が得られます。
まさしく教科書通りの同定ができるので、とても楽でした。
粘着物質はエーテルやガソリンのような有機溶媒で洗うと、きれいにとることができます。
同定作業に影響することもありません。
生息調査をしたいと思っているあなた、いちど試してみてはいかがでしょう。


今回のお言葉です。
季節がら、登山をネタにしたこちらをどうぞ。
「碧空に高くさえざえと輝く雪の光にあこがれて、(中略)年々の夏、何千人または何万人となく入り込むのは、この国が日本において、二つとない大自然の誇を有しているためではあるまいか。」小島烏水

<いきもの写真館>
ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第72回はヤナギランです。

基本的には山の高原に咲く花ですが、夏に鮮やかな赤い花を咲かせますので都会の植物園でもけっこう植えられていたりします。
夏の登山で高原にこの花がまとまって咲いている光景は、それは見事なものです。

<研究部会からのお知らせ>
6月は諸般の理由で更新できませんでした。
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