研究部会通信2013年11月号

<動物遺物学の部屋>

第24回 獣毛同定って商売になるの?〜当事者が語る獣毛同定技術の未来〜(2)

                    • 他にも何か珍しい毛を持ってるんですか?

はいはい持ってますよー。パンダなんかどうです?

                    • パンダ!? 日本にすんでないじゃない。パンダの毛なんか同定してどうするんですか。

えへへ、実はね日本に住んでいる、あるいは日本に住んでいた全てのパンダの毛を持ってるの。それはね、警視庁から頼まれて博物館と動物園にもらいにいったんだよ。

                    • 警視庁???

数年前にさ、パンダの剥製を輸入して売ろうとしたやつがワシントン条約違反で捕まったんだよ。その裁判で「その剥製は確かにパンダです」という証明が欲しいという話になってね、刑事さんが頼みに来たわけ。捕まったやつが「これはパンダに似てるけど違う」なんて主張したら罪にならなくなるかもしれないからね。

                    • えっと、科学捜査研究所があるじゃないですか。テレビで見ましたよ。あそこなら何でも分かるんでしょ。

ところがさ、そうじゃないんだな。科学捜査研究所には、人間の毛も含めて同定したり鑑定したりすることができる検査員が今一人もいないんだぜ。昔はいたんだけど、みんな引退してしまったんだ。できるのはDNA解析だけ。だから、警視庁だけじゃなく全国の警察からいろいろなケースの獣毛同定依頼が来るよ。お得意様のひとつ。

                    • それで、パンダって分かったんですか?

もちろん。比較標本があるからね。間違えそうなのはホッキョクグマだけど、これも博物館から標本もらってたから類別できたし。そのうえ敷物とかに使われてたものを縫い合わせて剥製にしたものだ、ということも検査で分かった。どうしてそれが分かるかは企業秘密だけどね。

                    • 警視庁なんてすごいお得意様ですね。ひょっとして他にも驚くようなお得意様が・・・

別にないよ。えーと橿原考古学研究所、東大医科研、早大エジプト考古学調査隊あたりはちょっと珍しいかなあ。あっ、どんな仕事か聞いてもだめだよ。話せない事情がありましてね。

                    • 普通のお得意様もいるんですよね・・・・

建設コンサルタントとか、環境調査会社とかね。巣箱調査での巣材や猛禽調査での食痕・ペリットから出てくる獣毛同定の仕事が、まあ普通の仕事ということになるのかな、これも詳しくは話せないけどね。

                    • ちなみにいくらかかるんですか?

ケースバイケースだけどね。例えば一つのペリットから獣毛を取り出してそれを同定するというと3万円ぐらいかなあ。

                    • それで、年間でどのくらい売り上げてるんですか?

ふふっ、ずいぶん突っ込むね。金額はいえないけど、年間で100検体くらいは同定してるかな。

                    • ふーん、すると多くても年間300万くらいか・・・。この仕事で生活できるって感じじゃないですね。

君ねえ、獣毛を同定するだけで食っていけるなんて甘いんだよ。獣毛同定って、しょせん生物調査の効率を上げるためのツールでしかすぎないの。ツールだけが独立しちゃあおかしいじゃない。でもねこの獣毛同定というツール、応用がすごくきくんだよなあ。パンダの話なんかでもわかるようにね。

                    • へえ、他にどんな応用を考えてるんですか?

うん、例えば環境調査の分野だと生息分布を調べるツールとしてもっと積極的に使えるんじゃないかな。獣道に縄のれんみたいなものを取り付けて、そこを通過する動物から毛を採集できるようにすれば種類が分かるからね。自動撮影カメラなんかよりずっと確実でリーズナブル。この名前、ヘアートラップなんてどう?

                    • えー、何かイヤラシー。別の名前にしましょうよ。

それだけじゃない、ひょっとしたら個体識別にも使えるかもしれないよ。カモシカなんかは個体によって体色が違うやつがいるからね。毛の色から違う個体だって分かるかもしれない。これについてはできる方法を今考えてるところだよ。

                    • どうもお話ありがとうございました。最後にもうひとつ。なんでミスターKなんですか?イニシャルはM・・・じゃなかったでしたっけ。

だって毛だからKなの。本当はドクターKにしたかったんだけど先客がいるんで。

このインタビューに登場したお話は大部分本当ですが、ウケを狙うために一部フィクションが混じっております。どこまでが本当でどこまでがフィクションなのかは皆様ご自身でご判断ください。

最後に、今回のお言葉です。
「最もきらいなものが好きになる法〜これは相手を深く理解するの一言に尽きるのではないだろうか。」浅田孝二

<いきもの写真館>
 ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第66回はカワラナデシコです。

今年、とある海岸を散歩していて見つけました。
厳しい環境でけなげに咲くところが大和撫子のゆえんか?
なでしこジャパンもそうですね。

<研究部会からのお知らせ>
 今月のお知らせは特にありません。