研究部会通信2013年3月号

<動物遺物学の部屋> 
第17回 スンプ法とスンプ標本の話
 スンプ法というのは、獣毛を同定するのに必要な標本をつくるための重要な方法です。
獣毛の表面に現れるキューティクル(毛小皮)の模様には、動物の種類によって特徴があります。
スンプ法で標本(スンプ標本といいます)をつくると、この模様が生物顕微鏡で観察できるようになります。
最近はカメラの性能が非常によくなってきて、産業用の品質検査用カメラでは数百倍に拡大しても鮮明な映像が得られます。
なので、最近では標本にせずに直接カメラで観察しても模様を見ることはできるんですが、まだまだ高価です。
お金持ちではない私たちは、数千円で用意できるケンコーや学研の生物顕微鏡とスンプ標本作成器具で同定しましょう。
スンプ法は日本で発明された方法です。
外国の単語みたいですが、実はこれ「鈴木式万能顕微印画法」の英語頭文字を並べて「SUMP法」というのです。
学校での教材としても使えるということで、昔は理科教育振興法という法律での推奨器具にされていたこともあります。
今は獣毛の同定以外にあんまり用途はないだろうなと思ってましたら、ネットで調べると工業品の品質検査の分野で現在でも利用されているようです。
簡便な検査法としてまだ世間では重宝されているようで、絶滅危惧になってなくて安心、安心。
スンプ法での標本作成手順については本やマニュアルをご覧くださいね。
日本の発明品だからか、獣毛同定に関する数少ない海外の文献をあたってみますと外国ではスンプ法を使っていないようです。
では、どうやって標本を作っているのかといいますと、まずスライドグラスの表面にゼラチンや高分子ポリマーを塗って乾かします。
そのスライドグラスの上に毛をのせて、シンナー等の有機溶媒をまた塗ります。
そうすると、スンプ標本と同じ毛表面の像が得られるわけです。
筆者は市販の透明マニキュアを使って、このスライドグラスを作ってみたことがあります。
そしてどんな有機溶媒がいいのか、試してみました。
試したのはエタノールからキシレン、アセトン、ガソリン、ベンジンです。
結局、ベンジンでもっとも鮮明な像が得られました。
でも、どれも普通の部屋の中で扱うにはちょっと危ないですよね。
なんでこんなことを調べたかというと、10年ほど前に一度、スンプ標本作成器具が絶滅の危機にあったからです。
当時、この器具は「スンプ研究所」という会社、というかほぼ個人の方が作って販売していたんですが、製造販売をやめるという情報が入りました。
そこで、手に入らなくなった場合の代替手法について調べてみた、ということです。
結局、志賀昆虫普及社さんがパテントを譲ってもらって現在も販売してます。
志賀昆さんには感謝、感謝。

最後に、今回のお言葉です。
セミが思いがけなく低い木の幹などに止まって鳴いているのを発見すると、まったく動悸のするほど昂奮する。今でもする。」 高村光太郎

<いきもの写真館>

ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第59回はコブシです。
ただいま桜の開花真っ最中ですが、こいつも咲いてます。
サクラと違って雑木林の中でも見られます。
モノトーンの林の中で、この白色は鮮やかですね。
すぐに花は褐色になって落ちちゃうので、桜よりもおあとがよろしくないから人気はいまいち。

<研究部会からのお知らせ>
*特にありません。