研究部会通信10月号

<動物遺物学の部屋> 
第12回 動物遺物から詳しい生態情報を引き出す(3)
 前回の終わりに、獣毛のような動物遺物から得られる情報をつなぎ合わせると、いろいろと面白いことがわかる、というような話をしました。ここでは、実際におこったある事例からそのあたりを具体的に説明しましょう。

平成16年のことですが、9月6日付けの全国新聞に次のような記事がでました。
<パンダの剥製をネットオークションで売買、「種の保存法」違反の疑いで逮捕> 
「警視庁池袋署は、ジャイアントパンダの剥製を無許可で転売した疑いで、大阪府の男性(A.B)2人を逮捕した。池袋署の調べによると、Aは無許可でBに数十万で売却し、Bがネット上に、写真などを載せ入札による売却を図った疑い。環境省がネットに出品されているのを警察に通報、剥製は没収された。ジャイアントパンダは、「ワシントン条約」と「種の保存法」で、国際希少野生動植物種に指定され、学術目的などを除いては、個体や剥製、器官の加工品などの無許可売買が禁じられており、譲渡には環境相の許可が必要とされている。」
 この記事が出てからしばらくして、私のところに警視庁から検査依頼が来ました。内容は次のようなものです。
「問題の剥製がたしかにジャイアントパンダであることを証明したいが、獣毛から証明できないか。」
同定は対象となる獣毛を対照標本獣毛と比較して行うものですが、当然のことながらジャイアントパンダの対照標本獣毛なぞは持ち合わせていません。そのことをお話ししたところ「そろえます!」、たちまちのうちに日本で手に入る全ての個体のパンダ獣毛が集まりました。当時で4頭になります。それから、念のためホッキョクグマとかの獣毛も揃えて同定作業に取りかかり、結局は問題の剥製がほぼジャイアントパンダであることが証明できました。

同定自体の話はそれで終わりなのですが、そのときに少し気になったことがありました。
問題の剥製からは数ヶ所、任意の場所より獣毛を採取して検査したんですが、どの獣毛からも毛根側から毛先に至るまで、毛の表面にけずられたような傷が観察できたのです。どの獣毛もその傷はかなり深く、見る獣毛によっては表面紋理がほとんど観察できないものまでありました。前回にお話ししたとおり、死体から直接作られた剥製であればこのような傷がつくことはありません。毛皮となった後に、何か別の用途に使われていたに違いありません。つまりこれは、明らかに剥製として仕立てられた毛皮ではないもの、おそらく敷皮や服飾品等で利用されていたものが剥製に転用されたものだと推論できましたので、その旨も報告に加えておくことにしました。
その後他の情報ルートから、問題の剥製はジャイアントパンダの毛皮の他にタヌキ、クマ等の毛皮も貼り合わせて、着色したり脱色したりして仕立て上げられていたことを知りました。粗悪品を数十万出して買い、さらに警察に没収されてしまうとは、逮捕された当人(B)はさぞ踏んだり蹴ったりだったことでしょう。
しかし・・・・一目実物を見れば、何かおかしいことがすぐに分かったはずだと思うんですけどね。

最後のお言葉です。
「解釈という敷地の上の坂道がどんなに転びやすいかを私は知っている。一つの観察事実の理由を断定する前、私は証拠の束を探すのだ。」アンリ・ファーブル

<いきもの写真館>

 ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第54回はツリガネニンジンです。
刈り取りを終えた田んぼの土手にひっそりと咲いてました。
花の色は青いのにニンジンとはこれいかに。

<研究部会からのお知らせ>
*熱帯野鼠対策委員会公開講演会のお知らせ
小笠原のネズミの管理に関する講演会のお知らせです。
来る11月14日に、下記の講演会が開催される予定です。
骨の同定でおなじみの川上さんが、ネズミが鳥類に与える影響とネズミ駆除後の回復についての話をします。
ご興味のある方はぜひおいでいただければと思います。
また、興味のありそうな方にメールを転送いただけると幸いです。

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熱帯野鼠対策委員会 第2回公開講演会
「自然を護るための外来ネズミの根絶」

熱帯野鼠対策委員会は、自然環境の保護といった観点から広くネズミ問題の解決に取組んでいます。今回は、昨年6月に世界自然遺産に認定された小笠原諸島における、外来ネズミの影響と管理対策、鳥類相の回復についての講演を行います。

日 時:2012年11月14日(水) 13:00〜17:00
場 所:ホテル アジア会館2階A会議室 (東京都港区赤坂8-10-32)
    最寄駅:銀座線・半蔵門線大江戸線青山一丁目駅または千代田線の乃木坂駅
(別添:案内図をご参照下さい)
参加費:無料
定 員:50名(定員になり次第、締め切らせていただきます。)
申込み:11月8日(木)までに、下記連絡先に「氏名、所属先、連絡先電話番号」をお知らせください。
Fax:03-3401-6048 メール:mogura4121@yahoo.co.jp(担当:土屋)
詳 細:http://www.oada.or.jp/yasotaihomepage.htm

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プログラム:
13:00-13:05 あいさつ 熱帯野鼠対策委員会 委員長 矢部辰男
13:05-14:20 演題①:小笠原諸島のネズミに寄生する広東住血線虫が語るもの
常盤俊大(東京医科歯科大学国際環境寄生虫病分野)
14:20-14:30 コーヒーブレイク
14:30-15:45 演題②:小笠原諸島における外来ネズミ根絶への取り組み(2)
橋本琢磨 (熱帯野鼠対策委員会 常任委員、自然環境研究センター 主任研究員)
15:45-17:00 演題③:小笠原諸島の外来ネズミ根絶によって野鳥の世界はどのように変わったか
変わるか
川上和人(独立行政法人森林総合研究所
17:00    閉会

司 会:土屋公幸 熱帯野鼠対策委員会 副委員長
主 催:一般社団法人海外農業開発協会 熱帯野鼠対策委員会
    
ここまで=========

よろしくお願いします。