研究部会通信11月号

研究部会通信11月号

<動物遺物学の部屋> 
第13回 動物遺物学のルーツを探る(1)
 動物遺物学というのは、獣毛や羽毛、死体のような動物遺物から動物の生態情報を探り出す学問、と著者は規定しています。要するにフィールドに落ちているこれら動物遺物から、種同定を初めとしたその動物に関わる様々な情報をどれくらい引き出すことができるか、考えてみようということです。そんなことに興味を持った人は、たぶん私が最初ではありません。昔から、大学の研究者からプロのフィールドワーカー、アマチュアに至るまで、野外の動物調査に携わったことがある人の多くが、一度はそう思ったのではないでしょうか。そこで、この回では過去にそのような考え方を持ち行動に移した方々、いわば動物遺物学の先人達をご紹介していきたいと思います。
 1979年から1980年にかけて、といいますからもう30年以上前のことですが、「フン学研究会」(The Scatological Society of Japan)というグループがありました。残念ながら著者は面識がありませんが、高杉欣一氏(東大農学部千葉演習林)が発起人となり、西方幸子氏(東京農工大)や小金沢正昭氏(財団法人日本野生生物研究センター、現財団法人自然環境研究センター)などが活動したグループと聞いています。著者の蔵書の中には、このフン学研究会の会誌「THE STUDY OF DOROPPINGS」があります。ガリ版刷り(知らない人も多いでしょうね)の雑誌ですから、おそらくインターネットメディアには流れていないでしょう。この雑誌の第1号冒頭に、フン学研究会の設立趣旨について高杉欣一氏が書かれていますので、そこから一部を抜粋します。
「特に野生動物を対象とする自然史的な調査研究では、より多くの場合に間接的な状況証拠から総合判断せざるを得ないが、そうしたなかにあって、とりわけてフンは、それから得られる情報の直接性、総合性、多面性の故にきわだった重要性をもっている。他のフィールドサインがどこまでいっても「本体に対して跡」の関係であるのに対して、フンはそれ自身が本体であるような積極的証拠である。
・・・(中略)・・・
野生動物の保護管理上の問題が社会的にも大きな問題となり、今後ますます重大化するであろうと思われるとき、「フン学」の確立は社会的要請であるといってもよいだろう。そうでなくとも、とかく貴重な情報が私的に死蔵され散逸にまかされている野外研究の現状から見ても、それは我々にとっても急務である。」→1979年No.1「フン学研究会の発足にあたって」より
 獣毛と糞との違いこそあれ、筆者が考えていることと全く一致していますね。ちなみに、このグループが活動していたとき、筆者は大学に入ったばかりで野生動物のなんたるかも知らない若造でしたよ。もうひとつ、西方幸子氏が書いた記事からも少し抜粋します。
「私を含めて哺乳類研究者は、対象側だけからしか対象をみようとしない悪い癖があって、対象以外の動かないものから学びとる姿勢が足りなかったことを反省もしている。ただ、この話は、糞が単にそれだけで終わらずに対象動物の習性までを語っていたという点で、日頃から糞分析が食性を知るためだけに用いられてきたことを痛烈に批判しておられる高杉氏の主張を全面的に指示する内容であったし、私としてもなぞ解きをしているようで、大変に面白かった。」→1979年No.5「モグラの糞と菌類」より
うーん、一度でいいから酒を酌み交わしてみたかったですね。昔の人は、ほんとうに情熱があったんだよなあ・・・。このフン学研究会のような時代を超えた同好の志を、著者は今後もたびたび紹介していきたいと思います。
ということで、今回の最後のお言葉はこれ。
「科学はゆっくりと、休み休みしながら前進するにすぎない。しかし、そこにこそ科学の永遠の魅惑があるのではないか?」カール・フォン・フリッシュ

<いきもの写真館>
 ここでは、私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第55回はヤマジノホトトギスです。

鳥だけじゃなく、植物にもホトトギスはいるんですよ。
それも、このホトトギスは身近な公園でも見かけたりします。
花の形がわりと格好良いので、私は好きです。

<研究部会からのお知らせ>
*生物技術者連絡会特別セミナー in TCA 開催のご案内
FBNの社会貢献活動の一環として、生物技術者を目指す学生を対象に最新の生物技術について紹介するセミナーを行います。
今回は学校法人東京コミュニケーションアート専門学校(TCA)の中島先生のご尽力により、同専門学校で実施することとなりました。
FBN会員も参加できますので、奮って参加下さい。
詳細は以下の通りです。

生物技術者連絡会特別セミナー in TCAのご案内

FBNの社会貢献活動の一環として、生物技術者を目指す学生を対象に最新の生物技術について紹介するセミナーを行います。今回は学校法人東京コミュニケーションアート専門学校(TCA)教務の中島先生のご尽力により、同専門学校で実施することとなりました。FBN会員も参加できますので、奮って参加下さい。なお学外の定員は20名程度を予定しておりますので、人数が予定数に達した場合は参加をご遠慮いただくことがあります。人数把握のため、参加される方は下記要領で「参加します」とご返事ください。

第1回 「獣毛から種類を同定する技術とその応用」
 今まで、生物技術としてありそうでなかったのが獣毛同定です。最近ではDNAによる種同定技術が進んでいますが、現場で調査をしながら同定するという用途には向きません。今回は同定するための標本を作る実習をまじえながら獣毛同定のコツやエピソードをご紹介します。
■講 師 イカリ消毒株式会社 技術研究所  邑井 良守
■日 時:平成24年12月5日(水)18:00〜19:30

第2回 「羽毛から種類を同定する方法」
 鳥類の羽毛の同定技術については、日本ではまだ進んでおらず、近年になって資料となる書物が発刊されましたが、いずれも絵合わせの資料であり、識別という点では十分とは言えません。以上のことから現在識別するための要点をまとめ、検索図等も織り交ぜて識別マニュアルを作成中です。今回はその中から幾つか紹介します。
■講 師 財団法人鳥類保護連盟 保護共生室  藤井 幹
■日 時:平成25年1月11日(金)18:00〜19:30

■場 所:東京コミュニケーションアート専門学校 第二校舎B棟3階ラウンジ
東京都江戸川区中葛西5-13-4 Tel.03-3877-1772   
東京メトロ東西線葛西駅から西(東京方面)へ徒歩7分
(東京コミュニケーションアート専門学校HP http://www.tca.ac.jp/
●定員:20名(先着順)
●参加費 :無料
●申し込み方法
○以下要件記載のうえ下記メールアドレスまでメールにて申し込み下さい。
○記載事項:氏名、所属、連絡先
○申し込み先アドレス  murai@ikari.co.jp
(タイトルにFBNセミナー参加申し込みとご記入下さい)