研究部会通信11月号

<研究部会の活動報告>
*報告できる事項は特にありません。

<動物遺物学の部屋〜第2回 獣毛同定の利点>
植物や虫、それに小型の哺乳類などは調査のために採取することができますが、大きな哺乳類や鳥類ではそうはいきません。加えて野山に住んでいる野生の哺乳類は、多くが夜行性で人を恐れますから、動物園にでも行かない限り見ることはほとんどできません。野鳥は比較的よく観察することができますが、見ることができるのは一瞬であったり、季節が違えば見ることのできる種類が全く違ってきます。そうすると、仕事として野生動物の生息調査を実施する場合、その場所に棲む鳥獣の種類を全て知るには、少なくとも春夏秋冬の各季節に1回ずつ現地調査に入り、夜間と早朝(つまり最低でも2日間)に現地を歩き回らなくてはならないということになります。いや、哺乳類の場合ですと1日や2日で姿を見ることができるとは限りませんので、もっと日数が必要かもしれません。
ところが仕事には金がつきもので、限られたお金の中で必要な結果を得なくてはなりません。1日でできる限り多くの生息情報を得る努力が求められます。そこで中型・大型哺乳類の場合、足跡や糞などの生息痕跡を探し、その形やあった場所、環境などから当の種類を知る技術があみ出されてきました。最近では動物が通ると感知してシャッターが切れるカメラもよく利用されています。
ところで、このようなこれまでに使われてきた手法には一つ問題があります。それは、そのときに確認した情報や知見が多分に主観的なものになりやすい、という点です。同じ動物でも餌によって糞の形は変わりますし、地表面のコンディションが非常に良くて本に出ているような足跡の形が得られるなんてことは滅多にありません。実際に環境調査に従事していた経験からいいますと、確実にあの動物だと確信できた痕跡に現場で出会う確率は非常に少ないものでした。本当にこれでいいのかな、なんて思いながら生息情報の取りまとめをよく行ったものです。
そんなわけで、採取してとっておくことにより他者からの再検討が可能になる獣毛や羽毛の同定技術が必要と思ったのですが、獣毛にはもう一つ他の痕跡物にはない特徴があります。それは動物由来の物質であるにもかかわらず、長期間に渡って残すことが容易だということです。なにしろ2000年も前に作られたエジプトのミイラから採取した頭髪や、5世紀に作られた古墳から出土した馬の鞍に付着していた獣毛でも、昨日採取したものと遜色なく同定できるくらい長期保存に耐える物質ですから、紙封筒やチャック袋なんかに入れておけば半永久的に保存することができます。この点も、筆者が同定技術を極めようと思う動機の一つなのです。
さて、次号の予告です。昆虫を同定するには、触角や肢や翅の形、体の表面にある凹凸や色彩を肉眼で見て判断します。獣毛には残念ながらそのような特徴がありませんが、獣毛の表面や内部の構造から同定することができます。そこで、獣毛にある操作をして標本としたものを顕微鏡で見て同定することになります。次号ではそのあたりを紹介します。
最後に、今回は生態学者で有名なニコ・ティンベルヘン(もしくはティンバーゲン)の言葉で今回は終わりにしましょう。
「多くの文献を読み知ることはきわめて大切なこととはいえ、決して、自身で観察したなまの知識にはおよばない。いつの場合でも動物の行動それ自身こそが万巻の書よりもずっとずっと大切なのである。」

<いきもの写真館>
 ここでは、特に私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第44回はコゲラです。
木の葉が落ちる季節になると、枝先を動き回る鳥もよく見えるようになります。
この鳥は、たいてい「ギー」という声でいることを知りますが、冬場は姿を見ることも多くなってきますね。
木の枝先をしゃかしゃか動くのを見ると、結構楽しいです。