生物技術者連絡会通信 2022年5月号

生物技術者連絡会通信 2022年5月号

 

<生物技術者のための名所案内〜健民海浜公園

 昨年の春に金沢市内の健民海浜公園で見られる渡り鳥の話題を取り上げました。今年も4月から多種多様な渡り鳥が続々とここにやってきています。健民海浜公園の中でも,、かつて「普正寺の森」と称されていた深い森林域はバードウオッチングのスキルを磨くには持って来いの場所です。今回は1時間ほどで回れるおすすめコースをレポート形式でご紹介したいと思います。歩いたルートを書き込んだ下の図を見ながら以降をお読みください。

 よく晴れた朝の6時、筆者は海浜公園の正門駐車場ではなく森の北側にある小さな駐車場(図中の★)に向かいました。こちらの駐車場からは普正寺の森が間近に見えて、すでにいろいろな種類の鳥の声が森の方から聞こえてきます。では、公園内の舗装道路を歩いて森の核心部に入っていきましょう。森に入ると舗装道路の脇に階段が見えてきます(図中の①)。階段を登った先からが森の遊歩道、本日のコースになります。

 遊歩道に入った途端に道のすぐ間近、藪の中からクロツグミの声が聞こえます。色々な方向から聞こえてくるので、複数個体いるのは間違いありません。周囲は樹高が3〜5mほどの広葉樹林で、林床は歩道脇から森の奥までジャノヒゲ等のカバープランツにびっしり覆われています。少し進むと道は左右に枝分かれしますが、道の土面に小鳥たちが集まって餌を漁っています(図中の②)。近づくと森の中に飛び込んでしまい種類を確認するのに苦労しますが、どうやら数種類はいるよう。双眼鏡で見るとアオジとクロジは確認できましたが、他にも何種かいるようです。分かれ道を左に進みます。

これは割とおなじみのアオジですね。

これはアオジじゃなくてクロジ? 地表で数羽が採餌してました。
 さらに進むと左側の木の間から川が見えるようになり、やがて左からの川沿いの道と合流します。ここからは再び舗装道路です。ここまで周囲の森は暗く密な印象ですが、道を進むと森が明るい疎林に変わってきます。すると、周囲の森からの鳥の声が多くなり、鳥の種類も格段に増えてきました。ちょっと立ち止まって聞いているとクロツグミの他にルリビタキ、エゾムシクイ、アカゲラアカハラキビタキ、…あれっオオルリも。遠くですが何とコマドリも聞こえますね。上空にはジュウイチやサンショウクイが鳴きながら飛んでいたりします(図中の③)。

森からキビタキが飛び出して、すぐそばの枝にとまりました。

あれっ。アトリもいますよ。まだ渡り去ってないんですね。

 周りが疎林に見えるのは道の右手すぐ脇にササゴイ池という池があるためで、池の畔には池に来る鳥の観察舎が設けられています(図中の④)。池の畔では夏鳥コサメビタキと冬鳥のジョウビタキが同時に観察できたりします。

 観察舎の脇から川沿いの道を離れて、再び森の中の遊歩道に入りましょう。坂道を少し高度を上げて登り、尾根道のような明るい森の中をどんどん歩いていくとやがてT字路にぶつかります(図中の⑤)。このあたりから周囲の森は再び暗く密な印象に変わり、道端で出会う鳥の姿や声の量も途端に増えます。聞こえる声はセンダイムシクイやメボソムシクイ、コマドリサンコウチョウトラツグミ、エゾセンニュウなど。道端ではアオジやクロジ、ツグミ、コムクドリやミヤマホオジロ等が採餌している光景を見ることができます。

おっと、こいつはミヤマホオジロだ。

うーん。こいつは何だ?シロハラかな。

 4月末から5月始めにかけて、ここでは冬鳥と夏鳥を同時に見ることができ、バードウォッチング的には非常に満足度の高い時期ですが、森の中を飛び回る個体を識別するのはとっても難しい。バードウォッチャーとしてのスキルを鍛えるには格好の時期でもありますね。

これはコサメビタキ? あー、この辺は全然自信ないなー。
 T字路を右折してさらに進むとこの公園唯一の橋、二天橋を通ります(図中の⑥)。人工造成された公園内なのに深山幽谷にかかる橋としか思えないこの橋周辺ではコマドリの声があちこちで聞こえ、地元のバードウォッチャーにはとても有名なスポットのようで、いついっても長尺レンズのカメラを構えた方々が見られます。

 橋を過ぎたら道は徐々に下っていき、やがて大きな舗装道路にぶつかってルートの終点です(図中の⑦)。舗装道路を右折して駐車場に戻りましょう。なお、舗装道路を右折せずに横切ってさらに真っすぐ進むと「カモメの浜」という砂浜海岸に出ます。ちょっと貧弱な環境なので、ついでに寄ってシギ・チドリや海ガモを狙うのはお勧めしません。

 結局、この日に観察できた鳥は合計48種でした。春の渡り時期にはこのくらい普通に見ることができますということですが、これは普正寺の森の森林域(約30ha)だけで観察できた種類数になります。実際には公園の敷地内に海岸砂浜や河川沿岸、芝生地等もありますから、真面目に全部の環境を網羅したらこの1日で70種くらいはいってたんじゃないでしょうか。

 このブログでは現場の環境を写真で紹介していませんが、会員の方々には今後お届けするニューズレターの掲載記事の中で、ほぼ同じ文章とともに環境写真を添えて紹介する予定です。ニューズレターはモノクロ仕様なので、鳥の写真は映えないんですよね。

 

<いきもの写真館No.136 オオルリ

 4月になると、普正寺の森の森林域にはクロツグミキビタキのような大きな声量で複雑に歌う夏鳥がひしめき合うようにやってきます。テリトリーソングならすぐわかるんですが、繁殖地に行く前の休息地なのでどの個体も歌の練習中。声だけだと声質でなんとか識別できるかなー、という感じです。おまけに森の上空を結構な数のハシボソガラスが飛び回っているせいか、暗い森の中と遊歩道上を低く飛びながら行ったり来たり。識別するのがかなり難しい。ましてや写真を撮るなんてとっても難しい場所なんですよ。写真は道端の枝に止まって囀っているところをやっとのことで撮ったものです。逆光ですがご容赦ください。私はこの時期、500ミリレンズをつけたカメラを持ち歩き、道に飛び出てきたり地上で餌をとる個体を遠くてもとりあえず連写で撮る。種類が分からなくてもとりあえず撮る。そして後から写真を拡大して種類を確認することにしています。双眼鏡を使う余裕なんてとてもないって状況ですね。